第4話 動き出す歯車

 「どうしてクラウディア殿下の提案を受けられたのですか!?」


 渋面を浮かべたレーナに詰問されて、アルノルトは困ったような顔を浮かべた。


 「あそこで俺が断っていたら間違いなくルードヴィング家は即刻断絶だっただろうな」

 

 ともすればロイトリンゲン辺境伯の領土の取り合いとなって、それが内乱の戦端を開くきっかけになりかねないことをアルノルトは危惧していた。

 なぜなら愛すべき領民たちを傷つける結果になりかねないからだ。


 「でもこれでは破滅の先延ばしにすぎません!!」


 同じく領民を愛するレーナの指摘はもっともでアルノルトは否定することはしなかった。


 「でもなこういう考え方もできる。我々の後ろについたのは仮にも王族の身分を持つお方だ。つまりは―――――」

 「簡単に攻められはしないと……?」


 現に派閥争いは小競り合いの域を脱しておらず、各陣営ともに内部での歩調は揃っていない。

 誰の後ろ盾もない辺境伯ではなく、他陣営と同じように王家の御旗を掲げる勢力として認められるのだ。


 「もちろんそうであれば望ましいという話だがな。あとは、各勢力に上手く取り入って内部から弱体化を図っていけば独立も出来ない話ではないと思っている」

 

 アルノルトの家の格は辺境伯であり公爵に準ずる程に広大な領地、そして影響力を保持しているのだ。

 故に動員できる兵力は、その気になれば八千程度はあった。

 

 「本気なのですね……」

 「冗談や酔狂でこんなことは言わない」


 アルノルトとレーナはしばしの間、見つめ合うとレーナは言った。


 「全力でお支えします。ですから何卒、勝手最後まで勝ち抜いてください!!」


 レーナの懇願にアルノルトは、


 「任せとけ」


 と、全力で頭を働かせながら力強く応じるのだった。

 

 ◆❖◇◇❖◆


 数日後、領内外に対してロイトリンゲン辺境伯アルノルト・フォン・ルードヴィングの名で正式にロイトリンゲン辺境伯が第二王女クラウディアを支持することが表明された。


 ―――王国領エルランゲン郊外――――


 「閣下、このようなものがロイトリンゲン辺境伯より届いております!」


 暗がりに灯された明かりで、書簡を受け取った男は書簡に目を通した。


 「アイツ以外の奴ならバカバカしいと笑って終わりだろうが、アルがやるとなると話は別だな。一筆したためる、筆をもて」

  

 一読してそう言ったのは第一王子陣営に与するニーベルンゲン伯嫡子エリアス・ラープスだった。

 アルノルトとの間柄は王立貴族学校ユニベスシタスの同期で親友。


 「……こんなもんでいいんじゃないか?」

 

 エリアスは蝋で封をすることはせず、そのまま持ってきた男に返信の書簡を手渡した。


 「何と書かれたのですか?」


 男の質問にエリアスは、茶目っ気たっぷりの表情で、


 「秘密の多い男の方がモテるんだぜ?」


 と言ってみせたのだった。

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