テンサイ達の異世界冒険記

路峰詩音

第1話 四人の太陽と二人の月

 此の世には一つの方面に特化した才能を持つ人間はごまんといる。その中でも、さらに抜きんでた才能、天賦の才を持つものはいわゆる天才と呼ばれ、歴史上の天才たちには異名などもつけられてきた。

 あるものは発明王と呼ばれ、またある者は軍神と呼ばれてきた‥‥‥。


 さてここにも、現代に生きる天賦の才を持つ四人の少年少女たちがいた。


が、間違ってもこの物語はその四人の天才が主人公というわけではなく、その四人と行動を共にする二人が主人公である。

 この二人もある意味で天才の部類に入るであろうが、どちらかといえばこの二人は天才というよりは、天災・・そう呼ぶべきものを秘めていた。そのことを知るのは数えられるほどの人数しか知られていない。


†  †  †


「だぁーー!あ゛づい゛!」

「やかまし!余計暑苦しいぞこの脳筋!」

「あ゛あ゛⁉誰が脳筋だこのがり勉野郎!」


 ただでさえ暑い夏の教室中に響くのはもう耐えられないという叫び声とそれを苛つきつつもいさめる子への二種類だ。声のもとを見ればそこには髪の短い少年がいた。犯人のうちの一人はこちらだろう。高校生にしては発達した筋肉と高い身長を持つ少年だった。

 それをいさめようとするも逆に自分も声を荒げている長い髪を後ろでとくくりにして黒縁の眼鏡をかけた少年だった。身長も短髪の少年ほどではないにしてもかなり長身な方だ。どちらも方向性は違えどかなり容姿が整っている。


「はー‥‥‥いい加減やめなさいよ二人とも。」

「こんな暑い中でよくそんなに騒げるわね。」



 その二人をあきれながらもおとなしくさせようとするものが二人いた。

 片方は黒髪を肩口で切りそろえた落ち着いた雰囲気のザ・大和撫子のような見た目の少女と髪を鮮やかな金髪に染めやや露出を多めに制服を着崩した黒髪の少女とは真逆な少女だ。

 彼ら彼女らがそれぞれで違った突出した才能を持った天才たち。


眼鏡の少年、天野あまの賢二けんじ

 記憶力と計算力に優れた、知の天才

金髪の少女、照沢てらさわみずほ

 容姿と芸術に優れた、美の天才

長身の少年、大刀川たちかわ勝義まさよし

 体格と運動神経に優れた、武の天才

黒髪の少女、神崎かんざき巫琴みこと

 優れた観察眼とその器用さでありとあらゆる分野を修める、万能の天才


そんな、才能に恵まれた四人は学校のカースト上位の位置づけされている。だから、ただその場にいるだけでもかなりの注目を集めている。だが、注目の視線の中には四人の近くにいる者達・・・・・・・を疎ましく思うものも混じっていた。

 その、視線の対象となっている二人の印象は一言で言ってしまえば暗い。片方は異様に白い髪と肌に野暮ったい丸眼鏡をかけていた。もう片方は、長い前髪で目元を隠し、やや猫背気味になっている。さらに、その二人は夏だというのに長袖の黒いパーカーを着ている。そのパーカーの背中には有名なアニメキャラのプリントが施され、手元にはライトノベル、鞄には数個のデフォルメ化されたキャラクターのキーホルダー、スマホにはアニメのステッカーがびっしりと張り付けられている。見るからに暗いオタクと判断できてしまう二人である。そんなあからさまな見た目をしていれば、気味悪がったり、見下すものも存在するわけで、確実にカースト最下位。だが、その二人は天才たち四人とかなり親しげに話している、注目の的になっているのもそれが要因の一つである。

 だから、学校の一部の人間の中にはそれを見てカースト最下位が調子に乗っているという理不尽な勘違いをして、二人をだまし校舎裏に呼び出すというべたな状況を作ったものまでいる。だがしかしその翌日には、そのことが何もなかったかのように二人が投稿しているのを見て周りを驚かせた。更には、二人を呼び出した数名の生徒が【月の教団】などという可笑しな宗教まがいなことを始めている始末である。

 ただ、それは当然の話である。抜きんでた才能を持つ四人と行動を共にする二人がただのオタクなわけがないのだ。


白い少年、月詠朧つくよみ おぼろ

黒い少女、月読霞つくよみ かすみ


この二人は、四人をも凌駕する天才……いや、【天災】である。ただし、その本来の力を見た者はいないといわれている。直にその実力を見たはずの【月の教団】達ですら、その記憶から消えている・・・・・・・・・

 その理由から、元から気味悪がられた視線に交じり、畏怖するような視線もむけられている。


「相変わらず、よく見られてるなー……お二人さん。」

「そ、そうだね……ちょっと怖い……。」


 マサヨシが茶化すように二人と話すと、カスミが少しおびえたようなそぶりを見せる。


「まあ、わからないことはないな。さすがに俺に向かってではないとはいえ気持ち悪いな。」

「ああ、そうか?じゃあ、ちょっと追い払う。」

『!!!。』


カスミの言葉にケンジが同意すると、オボロが自分たちを見ている教室にいるクラスメイトや遊びに来ている後輩先輩の方を向き。


「———。」


オボロが眼鏡をはずし振り向いた瞬間、教室にいる生徒たちは一斉にオボロたちから目をそらした。

 それは、教室にいた生徒たちがオボロの目を視たのが理由の一つである。オボロの瞳は通常時でも不気味な血の色をしている。ただ普通に見るだけならば、ただ不気味なだけだが、今のオボロの目は同行が収縮しており、蛇のように細く縦長くなっている。

 だが、それが理由で生徒たちが目をそらすにしては、その場にいる生徒たち全員が滝のような汗をかいているそれはもう一つの理由、教室全体が鋭く重たい何かで満たされた。


「ほ、本当君のそれはすごいね‥‥‥向けられていない僕も冷汗が止まらないよ。」

「まったくだ。お前のそれは本当どうやってるんだ?」

「前から言ってるだろう?物心ついた時からできるんだよ。理由は知らんが、まあ俺のちょっとした特技の一つだ。」

「ちょっとしたって‥‥‥かなりえげつないと、いうかグロイ?とも違う‥‥‥とてつもなくヤバイ気配が充満してるんだけど‥‥‥。」

「カスミは大丈夫なの?」

「‥‥‥うん、生まれたころから一緒だから、嫌でも慣れる。」

『そりゃあそうか‥‥‥。』

「いや、ちょっと待て。嫌でも慣れるってなんだよ、さすがに傷つくぞ。」

「そりゃお前のそのなんだかよくわからん気配が危なすぎるんだよ。お前それのせいで失神した奴だっていただろ!」

「‥‥‥。」

「目をそらすな!」

「ま、まぁもうすぐ授業が始まるんだし、ほら準備するぞ~。」

「話を逸らすな‥‥‥て、なんだこれ?」

「へ?」

「ん?」

「なに?」

「あれ?これって‥‥‥。」

「うわ、マジか。」


オボロが話をそらそうとしたときに、突如教室全体を覆うように白く輝く魔法陣のようなものが現れた。

 教室にいた生徒たちは皆、自分たちの足元に現れた巨大な魔法陣に全員が驚き一瞬硬直してしまう。

 その一瞬で、魔法陣の光が増し教室にいた生徒全員が光にのまれその場から消えてしまった。

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