祖父に目通りを
六ノ葉 少年の自己嫌悪
日天丸は結が貸してくれた手拭いで顔をもう一度拭いてのそりと立つ。現在ヒジリの国を統べている偉大な国主にして日天丸の実の祖父。彼に呼びだされるのははじめてではない。たいしたことでないだろう。彼は厳格なひとでも子煩悩であり、孫煩悩だった。
顔が見たくなっただけ、そんな理由かな?
結論がでている日天丸だが今日のお稽古の散々さを影和が報告するかもしれない点だけ憂鬱だった。鍛練は本当に慣れない。何度やっても痛いだけでちっとも楽しくない。
勉強のように教えてもらってできればいいのにできない。何度教わっても、思うように体が動いてくれない。先生を前にすると余計にあがってしまい、できないが加速してしまうこの陥る悪循環から抜けだすことができずにいる。どうか、どうにかしてほしい。
どうにかして、と日天丸はかなり本気で思っていたが、助けの手はないことを、自分でなんとかしなければならない、というのはなんとなく察していた。だからより憂鬱。
「参りましょうか」
「……うん」
元気ないまま、日天丸は武道場を影和と一緒にでる。背に負うは暗い雰囲気だけ。
「今日のはなんのお話だろうなー?」
「さて。生憎、私にはわかりかねます」
ひたひた、すりすり。足音立てて廊下を歩くふたりは何気ない会話。他愛ない話。
影和は日天丸に気を遣って鍛練について触れないが、日天丸は自分から進んで触りにいった。どうせ、祖父の部屋で祖父がその手の話題をあげたら影和は答えるのだから。
今ここで、このなんでもない瞬間に傷を少し、
「俺ってなんでこんなにダメなんだろう?」
「ダメ、だなどと誰が?」
「自覚しているから。俺ダメダメだ。はあ、このままダメな大人になっていくのか」
「日天丸様……」
影和は咄嗟になにかを言えずにいた。
日天丸が日々、取り組んでいる鍛練、もどき鍛練を見ているだけ余計に言えない。
影和がこどもの頃、少なくとも日天丸と同じ歳には先生を倒すこともあった。手加減された上でのこと、ではあるが。それでも、ふたりの、圧倒的な差異。なにが違うのだというのは、ふたりが抱える同じ苦悩で。日天丸も影和も日天丸の散々さに悩んでいた。
ふたりのいったいなにがどう違っていてなぜできないのかわからない。誰も教えてくれない。誰も教えられない、とふたり共に理解している。だけど、頭を抱えてしまう。
それくらいの切実な悩み。比べるものはまったく違うが治らないおねしょ並みに。
ふたりで真剣に悩んでいる間に青年と少年は城の最奥部へとやってきた。奥の方には護衛の
「聖蓮様、日天丸様をお連れしました」
「ご苦労、影和。入るとよい」
「は。失礼いたしまする」
部屋の前に敷かれている警戒の厳戒さがいつも以上で日天丸がちょいびくびくしている間に影和は襖に向かって声をかけた。日天丸は急いで居住まいを正し、廊下に正座。
横目で確認した影和がそっと襖を開ける。
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