若葉の君へ

神無(シンム)

壱ノ樹 ヒジリ

わたしは、それでも……

〇ノ葉 わたしの存在理由


「欠陥不良品のクセに飯を食うのか?」


「まさに穀潰し、これに尽きるわな」


「要らねえんだよ、お前。迷惑だから死ね」


「長がなにも言わないって調子に乗るな」


 それは、それらはきっと世間一般に置いてひどい言葉、と言われるのでしょうね。


 でも、どうしてか。わたしには響かない。それは、きっと肯定。わたしという存在はおそらく「ひどい言葉」を浴びるのに慣れすぎていつしかそれを肯定するように……。


 いや、違う。きっとずっとわたしは罵詈雑言や貶し文句などをひどい、と思えず。


 だって、どこまでも正しくて間違っていなかったからこそで。当然のことだった。


 だから、わたしは傷つくことなく、に在った。在り続けていて、癇に障った。


「うぅるっせえ! 有象無象のゴミクソクズ野郎共は黙りやがれや、ボケっ! たいした手柄も立てねえてめえらの方が、よーっぽど穀潰しだっつーの! アホんだらが!」


「……」


 そのひとの一喝でいつもあのひとたちはすごすごと退散していった。だけど、わたしには聞こえている。彼らはいつもそのひとのことも貶している。……同類擁護だのと。


「ちっ鬱陶しい。野郎のクセにケツの穴が小せえったらねえなぁ、情けねえこった」


「……」


「ん? どした? そんな顔して」


 ああ、もしやあなたは気づいていない、とでもいうのですか? わたしなどを庇っているせいで、わたしなどと同類扱いされているばかりか、ひどく悪評を受けているのに。


 わたし、わたしのことをどう言われてもいい。大丈夫。でも、わたしはあなたのことを貶されるのは悲しい。理不尽に、貶されて罵られるよりもずっとずっと悲しい。と言ったってあなたはわたしの悲しみを笑い飛ばしてしまう。つまらないことだ、とばかり。


 ああ、わたしはとても幸せ。果報者です。


 あなたに拾われてわたしはとても幸福だと思う。けど、あなたを不幸にしている、貶させていると思うと、とても辛いです。そして、だからこそ、わたしは努めなくては。


 貶されてもいい。バカだと言われてもいい。無理だと蔑まれてもいい。愚かしいと笑われても、いい。あなたの為になることならばわたしはなんでもする。どんなことも。


 幾千、幾億の責めに、罪にも耐えてみせます。悪行を背負いましょう。何人なんぴとからの謗りも笑い飛ばしてみせます。あなたの為ならばどんなことにでも耐えてみせましょう。


 ――だから、だからどうか、お命じを。


 このわたしにあなたからめいを、より険しき、厳しき、辛き命令をお与えください。


 ここから先、わたしは過酷な道をゆくでしょう。それをどうか誇ってください。わたしに命をくれたあなたの為、この命すべて燃やして生きる。この忌まわしさと、共に。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る