行ってらっしゃい【超短編】

北風 鏡

第1話完結

「はぁ…。」


何も手が付かない


原因はわかってる


先日交通事故で母が亡くなった


生前、母の事が特別好きだった訳では無かった。


高校に入ってからは会話すらまともにしてなかったきがする。


そんな母はいつも「行ってらっしゃい」と「おかえりなさい」は必ず言ってくれた。


事故にあった当日、母は会議の為いつもより早く家を出た。


「今日もお弁当作ってあるから持っていくのよ〜!」


いつも要らないって言ってるのに勝手に作ってた。


私は母の口煩いところが好きでは無かった。


あれはしたの?これはどうなの?


言われなくてもわかってる


私が決めたものにいちいち口を出してくる


ひとりで決められるのに


そう思ってた


でも母が亡くなって気づいた


母の言う事は全て私の将来を想っての事だって


不器用な母は私が反発してやった後始末をいつもやってくれていたらしい


母ということを聞かずに1人でお菓子作りをして失敗。


ミシンの使い方もわからないのに勝手に使って故障させたり。


そういえば1度だけすごい怒られたこともあったな。


母の監視がない時に1人で料理して火傷をした時


すぐ駆けつけてくれたが泣きながらすごい怒られた。


何で泣いてくれるのか、この時の私には理解出来なかった。


でも今ならわかる、不器用ながらも母は私を愛してくれていたのだと。


父は私が幼い時に亡くなった為記憶にほぼない。


女手ひとつで私を育ててくれたことには感謝してる。


大切にされてたと…思う。


最近ちゃんと顔見たのいつだっけ…?


あれ?私高校入ってからまともに会話してない?


「うそ…」


「え…なに…これ?」


頬を涙が伝う


「なんで今更…こんな事になるならもっと向き合ってればよかった…。」


「沢山迷惑かけてごめんなさい


育ててくれてありがとう。


お母さん大好きだったよ。」


墓前で母に向かって語りかける。


その瞬間強い風が吹いた。


もしかしたらお母さんが返事をしてくれたのかも知れない。


そんなスピリチュアルな事信じるような人間じゃなかったけど、今だけはいいよね。


「挨拶は済んだかい?」


引き取ってくれる事になった親戚のおじさんが語りかける


「はい!もう大丈夫です!


お母さん、また来るね。」


……ゃい。


「え?おじさん何か言いました?」


「いや?何も言ってないよ?」


「おかしいな〜、何だったんだろ?」


今一瞬なにか聞こえた気がした。


「まっ、いっか。行ってきまーす!」




【行ってらっしゃい】




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行ってらっしゃい【超短編】 北風 鏡 @kita_kaze_

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