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「さあ、脱いで脱いで」

 せまい試着室にふたりはいると、身動きも取れないほどだけど、美里はあたりの制服を楽しげに脱がしてく。

 あっという間に下着姿に剥かれてしまった。

「相変わらず色気のない体に、下着ね」

「ほっといてよ」

 そりゃ美里みたいに発展してないけど、これでも鍛えてる。筋肉はしなやかにして強靱なのだ。

 美里が用意したズボンとシャツを着ると、ただでさえ男の子みたいなのが、男にしか見えなくなる。

 いや、男なら美少年だぞ。これでも顔はかわいいって評判なんだから。男の子みたいな可愛さらしいけど。

「はい、マスク、マスク」

 美里は強引にマスクを被せた。

 頭はすっぽり隠れて、鼻から下は露出している。あとは目のところが丸くくりぬかれていて、全体は赤い布でできていた。

「もう、男にしか見えないな」

「大きなお世話だよ」

 よく考えたら、美里も同じように変装して、こっそり逃げればいいんじゃないだろうか?

 そういおうとしたとき、試着室の外がさわがしくなった。

「おう、ここに白皇院の女がふたり来なかったか?」

 うわっ、見つかった? しかももう学校ばれてる。

「来たんだな? 隠すとあとでとんでもない目に合わせるぞ」

 なんかすごむ声が聞こえる。

「試着室あらためるぜ」

 やくざのような野太い声。

 わわわわわ。ヤバすぎる。

 そう思ったとき、どんと背中を押された。そのまま外に飛び出してしまう。

 うひゃああ。美里、あとでおぼえとけよ。

 案の定、注目を浴びた。

 どっから集めてきたのか、たちの悪い男は四人に増えている。

「なんだ、おめえ?」

 そのうちにひとり、金髪野郎が顔をかたむけ、眉間にしわを寄せて、すごむ。

 体が勝手に動いた。

 右の拳をそいつの顔にたたき付ける。

「ぐひゃああ」

 わけのわからない叫び声を上げて、そいつはぶっ倒れた。

 あれ? 気持ちいい。

 いつもなら、男ににらまれただけで体が動かなくなっちゃう。いや、怖くてじゃなくて、なんか恥ずかしくて。だから、あたしは男の人と拳法の練習をしたことがない。

 なのに体が動く。しかも男をぶったおすのはなんか快感。

「てめえ、このお」

 次の男は警戒して顔をガードで固めてきた。

 ぶんと音を立てて、右ストレートが飛んでくる。

 あたしは一歩前に出ながら、そいつの外側に回り込んでかわした。

 そのままそいつの腕を右手でつかむと、左の肘を脇腹に叩きこむ。

「うげらばぁ」

 そいつもふっとぶ。

 なんかもう体が熱くなってとまらない。

 男をやっつけるのって、こんなに気持ちいいんだ?

 あたしは呆気にとられた残りのふたりの金的を蹴り上げてやっつけた。

「さっすがぁ、逃げるよ」

 それを見ていたらしい美里が試着室から飛び出すと、店の外に逃げる。

「ま、待ってよ」

 あたしは呆気にとられる店員さんを尻目に、美里のあとを追いかけた。

 走りながらちょっとヤバいと思った。

 なにがって? ええっと、体が燃えてるみたいに熱い。

 ああ、あたしってひょっとしてS? 男をぶったおして興奮するなんて。

 それに新発見。顔をかくしてると、男相手になんでもできる。

 ひょ、ひょっとして……。

 あたしは走りながら思った。

 顔を隠せば、あこがれのあの人……秋月聡君とも……。

 顔を見れば、固まってしまってなにもできないあの人と……。

 キスだって、……できるかもしれない。って、きゃあああ。

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