第6話 絶望の人生

小学校を卒業し、中学生になってもすみれと琴子は仲が良く、お互いを親友と認めていた。


「すみれの髪、サラサラしていて綺麗。」


琴子は教室ですみれの髪を三つ編みにしながら、そうため息をついた。


その日は琴子と、同じ班のみゆきの3人で、お互いの髪をいじり合っていた。


「琴子は髪の毛、伸ばさないの?」


「うん。私は髪が多いから伸ばすとシャンプーが大変なんだ。」


「そう。」


「でも人の髪をいじるのが好きだから、将来美容師になろうかなって思ってる。」


「私はユーチューバー!」


みゆきが片手を上げてそう叫んだ。


「なにを配信するの?」


すみれが尋ねると、みゆきがうーんと頭を悩ませた。


「それはまだノープランなんだよね。」


「歌ってみた、をやれば?」


「えー私、歌下手だもん。」


「じゃあこのお菓子食べてみた、とか?」


「お菓子ばっか食べてたら太っちゃうよ。」


「文句ばっかり言ってないで自分で何か考えなよね。」


琴子がそう言って口を尖らすと、みゆきがあ!と何かを思いついたように声を上げた。


「やっぱりユーチューバー辞める。アイドルになる!」


「はいはい。」


琴子は呆れたように相槌を打った。


「もう将来の夢があるんだ。いいなぁ。私なんかまだ何も考えてない。何か人の役に立てる仕事がいいなーって思ってるんだけど。」


「すみれは優等生だなー。」


そうみゆきがからかった。


でも本当はひとつだけ夢がある。


すみれはそれを琴子とみゆきに打ち明けた。


「でもね、私ひとつだけ夢があるんだ。」


「えーなになに?」


すみれは琴子とみゆきの耳に自分の口元を寄せて、内緒話をするように囁いた。


「あのね。私、お嫁さんになりたいの。」


「えー?誰の?イケメンの宮野君?」


みゆきはクラスで一番女子人気のあるクラスメートの名前を挙げた。


「ううん。航君。」


みゆきは自分の耳元から身体を離したすみれに、眉間を寄せてしかめ面をしてみせた。


「航君ってすみれと一緒に住んでる叔父さんだよね。」


「そうだよ。」


「あのさあ・・・叔父と姪は結婚できないんだよ?知らないの?」


「え?」


「叔父さんなんてお父さんみたいなもんじゃん。気持ち悪いからやめたほうがいいよ。それに法律に反するのは悪いことなんだよ。」


みゆきの言葉にすみれは激しいショックを受けた。


私と航君て結婚出来ないの?


私が航君のお嫁さんになることは気持ち悪いの?


航君を好きなことは悪いことなの?


死んだら地獄に堕ちる?


「気持ち悪くなんかないよ。好きっていう気持ちにいいも悪いもない。」


琴子にそう励まされてもすみれの心は晴れなかった。


すみれは祈るような思いでネットで「叔父と姪 結婚」と検索した。


するとどのサイトにも「三親等以内の傍系血族は結婚出来ない」と記載されていた。


叔父と姪が法律上結婚出来ないことを初めて知ったすみれは、その事実にただ打ちのめされていた。


すみれの夢は早くも崩れ去り、絶望で食事も喉を通らなくなった。


航君と結婚できないのなら死んだ方がまし、とまで思い詰めた。


様子のおかしい自分を、航が心配しているのはわかっていた。


けれどすみれは、その理由を航に打ち明けることが、どうしても出来なかった。


その日の夕食も、すみれは好物のハンバーグを残した。


しばらくは静観していた航が、とうとうすみれを問いただした。


「すみれ。最近どうしたんだ?ずっと顔色が悪いし、食事もほとんど残しているじゃないか。心配事があるなら言ってくれないか?」


そう話しかける航をすみれは睨みつけた。


どうして航君は私と結婚出来ないことを教えてくれなかったの?


もっと早くから教えてくれていれば私は・・・私は・・・。


ううん。それでも私は変わらず航君が好きだっただろうし、これからもそれは変わらない。


「一人で抱え込まないって約束しただろ?悩みがあるなら何でも言ってごらん。一緒に考えればきっと解決策が見えてくるはずだ。」


けれどすみれはその理由を問われても、答えることなど出来なかった。


貴方と結婚出来ない人生に絶望しました、そう言ったら航君はどういう反応を示すのだろう。


そんなのわかっている。


きっと航君を困らせるだけだ。


「航君には関係ない。私のことは放っておいて!」


「反抗期だよ。そっとしておきな。」


桔梗がのんびりとそう言い、航が大きなため息をつくのを背中で感じながら、すみれは自分の部屋へ逃げ込んだ。

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