第2話 人気配信者


 ダンジョン内部で、【live】配信をしながら考える。


 同接続は1,2……とやはり疎ら。挨拶のコメントはくれるけど、問いかけても無視される。


 うーん、やっぱりテコ入れが必要だな。


 今はソロで淡々と魔物と戦う方向性でやっていて、雑談が苦手だからスピーディーさを意識している。

 爽快感があって、一切詰まる要素のない攻略配信の何が悪いんだろう……。


 そこで人気を出すため、従来から方向転換することはよくあることだ。

 

 最近だと、ソロ配信者だった人がパーティーを組んで配信している。その影響で再生回数も倍以上伸びていたから、効果はデカい。


 指を弾く。


「そうか! 俺もパーティーを組めば……!」


 しかし、俺に友達はいない。


「……やっぱなし」


 はぁ……俺は高校生だけど、基本はぼっちだ。

 人と話す程度なら問題ないんだけど、仲良くなるハードルが高いんだ。


 共通の話題とか、ゲームの話が絶妙に噛み合わない。


 あまりにも友達ができないから、そのことを先生に相談もしてみたこともあるんだ。


『先生、友達が出来ないんです……』

『それはなソラ……お前、話題が古いんだ。誰も平安時代の流行りとか知らないぞ。遊ぶっていってケマリとか、追いかけっこは小学生なんだ』

『……嘘でしょ』

 

 俺はカルチャーショックを受けた。大人が全力で追いかけっこするのって、意外と楽しいんだよ。

 いくら現世の知識があっても、感性は古いままだ。

 

 使い方は知っていても、スマホだって驚いた。

 十数年のソラとしての記憶と、平安時代の俺の記憶が混在し、整理をするのに一か月もかかった。

 

「方向性を変えるって言ってもなぁ……」

 

 オラオラ系……?

 それともクール系だろうか。


 迷惑系ダンジョン配信者や、イレギュラーに巻き込まれた人を撮影するハイエナ系配信者とかもある。


 そういえば、今日の急上昇ランキングにこんなの上がってたな。


 ”【配信事故】ダンジョン事故で死んだった有名配信者www”


 ……無理。どれも顰蹙を買いそうだ。


「陰陽師ネタしか、俺にはないしなー。ほいっ」


 中層の魔物をサクッと討伐する。


 ポロンッ、と通知が鳴った。

 

 俺はコメント欄を一々確認して、書き込みがないことで落ち込むのが嫌だったため、通知を来るようにしているのだ。


 ”こんばんは。陰陽師なんですか?”


「おっ! こ、こんばんは……! そうですよ! 陰陽師です!」


 平安時代の、と言っても信じないと思うため黙る。

 さらに書き込まれる。


 ”何か証拠を見せてくれませんか?”

 

 証拠……ふむ、証拠か。

 昨日もそうだったが、俺は戦ってみせても信じてもらえそうにないことは分かっている。


 合成乙wなどと書き込まれるのは御免である。


 面白がってコメントしてくれているのだとは思うが、昨日の嘘と言われたことを払拭するチャンスだと思った。


「じゃあ、占いとかしましょうか」


 占術と呼ばれる能力を使う。

 体内にある呪力を指先に込め、ダンジョンの地面に図を描く。

 

「何を占って欲しいんですか?」


 ”じゃあ、私の運勢を占ってください”


「それには流石に顔と生年月日が分からないと……」


 あっ、コメントが止まってしまった。

 うーん、個人情報を漏洩させてしまうのはアレだし……ここで居なくなって欲しくはない。


「わ、分かりました……! じゃあ、俺が次に会う魔物を当てますので、見ててくださいね」


 ────占術。

 脳内に文字が浮かぶ。


「十分後、先の中層でオーガの群れ三体……ですね」


 この能力は未来が見える訳ではない。あくまで、占い。

 かなり条件を絞ったことで、的確な可能性を導き出したに過ぎないのだ。


 俺は十分後、実際にオーガの群れ三体と遭遇した。

 

「倒しますね!」

 

 指先に力を込め、水の糸のようなもので首を刎ねる。

 流れ作業を映し、一息つく。

 

 ポロンッ、ポロンッと連続してコメントが流れる。


 褒めてもらえるのかな……! とウキウキで画面を確認した。

 

 ”合成か?”

 ”まぐれですね”

 ”意味不明”

 ”オーガ三体ワンパンとか出来すぎ”

 

 うぎゃぁぁぁっ!

 

 なんで!? ちゃんと占いもしたし、証明したじゃん! 

 誰も信じてくれないのなんで!?


「ほ、本当なんです! 合成でもないし、ちゃんと画面に映してたじゃないですか!」


 ”必死w”

 

 そのコメントを最後に、同接人数が減っていく。


「あっ、待って!」


 4、3……1。


 0。


「……終わりだ」


 やっぱり才能がないらしい。

 だって、雑談で盛り上げる能力ないし。


 俺の話題、平安時代で止まってますが、何か。

 

 ケマリだって立派な遊びだよ。かけっこも楽しいよ。


「もういいや……」


 陰陽師の名を取り戻すなんて、やっぱり無理なんだ。

 モテることもできないし、俺は一生童貞です。それで良いんです。


 ……はい。


 【live】の接続を切る。

 今日の配信は終わり。


 明日……どーすっかなぁ。


 そう思いながら、俺は下層へと足を進める。

 このイライラをぶつけるには、魔物を倒すしかない。


「今日は呪力の余裕があるな……」


 そういえば、昨日の警察官の渡辺さんが言ってたな。下層でイレギュラーが起こるかもって。

 まぁ、そう簡単にイレギュラーなんか起こらないでしょ。未だに一回もイレギュラーに逢ったことないし。


 下層に足を踏み入れた時、俺はしっかりと耳にする。


「きゃぁぁぁっ!」

「うん?」


 誰の悲鳴だろ。


 *


 【大神リカが行く! 初めてのダンジョン下層配信!】


 『チャット欄』


 ”これ、ヤバくね?”

 ”リカちゃん! 逃げて!!”

 ”それイレギュラーだよ!”

 ”お~、このイレギュラーは初めて見た”


 大神リカが叫んだ。


「きゃぁぁぁっ!」


 ダンジョン下層にて、イレギュラーが発生していた。

 

 ”深層部の魔物がなんで下層にいんの!?”

 ”ヤバいヤバいヤバい!!”

 ”今北産業。うおーw 盛り上がってる盛り上がってるw”

 ”てか、叫び声可愛いな。今のエロいわ”

 ”茶化してる場合じゃないだろ! 誰か助けにいけよ!!”

 ”深層のシャドウ・デーモンとか現代最強の奴ら行かないと対処できねえよ”

 

 高速でチャット欄が流れて行く。

 

 シャドウ・デーモン。

 深層部の魔物がリカの前に居た。


 深層の攻略など、高校生である大神リカには不可能。下層ですら、今回は初見ということで軽く配信したら終わるつもりであった。

 

 ”逃げて!!”


 コメント欄が一斉に流れる。


「ウガァァァッ!!」


 シャドウ・デーモンが手を振り翳す。

 リカがぎゅっと目を瞑る。


 軽快な足音が響く。


「せいっ」


 血しぶきが舞う。

 

 基礎的な呪力攻撃。

 指先に溜めた呪力を形にし、対象を切断する。


 ソラはゴブリンやオーガとの戦闘で見せた技を使った。


「え……?」


 恐る恐るリカが目を開くと、自身に迫っていたシャドウ・デーモンの腕と頸が切断されていた。

 

「大丈夫?」

「一体何が……?」


 シャドウ・デーモンが崩れ落ち、リカは驚く。

 

 *


 俺は怪我がないか確認し、手を差し伸べる。


「つい飛び出して助けちゃったけど……要らなかった?」

「い、いえ……! ありがとうございます! 助かりました……!」


 ホッと胸をなでおろす。

 ダンジョン内で獲物の横取りはご法度だ。あれ以上飛び出すタイミングが遅かったら、この子……この子……大神リカじゃないか!?


「も、もしかして……大神リカ!?」

「あれ、ひょっとしてファンの人? うん、大神リカだよ」


 ひょああああっ! と叫びそうになる。

 超大物ダンジョン配信者じゃないか! 


 近場で活動しているのではないか、と疑っていたけれどこうして会えるとは……!


「痛っ……」


 立ち上がろうとして、リカが尻餅をつく。

 足首を捻ったようで、一人で歩くことも難しそうだ。


「肩を貸すよ」

「あ、ありがとう……」

 

 特に会話することもなく、俺は無事にリカを出口まで送り届ける。

 緊張しすぎてあまり話せなかった……小心者は転生しても変わらないようだ。


 まぁ、大物配信者を助けたところで何が変わる訳でもない。

 

 結局同接続0は変わらないだろうな。

 


 しかし、この時のソラは知らなかった。

 イレギュラーに遭遇し、掲示板やネットで大騒ぎになっていた影響で……大神リカの配信が【同接100万人】を突破していたことなど……。

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