ダンジョン配信者を救って大バズりした転生陰陽師、うっかり超級呪物を配信したら伝説になった

昼行燈

第1話 陰陽師


「同接0人だと……おかしい……おかしいよ!」


 ダンジョンの中で、ソラは頭を抱えていた。


 配信には超有名な赤い色をしたアプリを使っている。これはユーザーとやらもかなり多いと聞いた。

 何かの間違いではないかと配信画面するも、そこには【Live中】の文字。


 これは、自分の配信を誰も見ていないということだ。数分前に『1、2…』と増えていたのだが、挨拶をしてもコメントをしてくれず、戦闘が始まって終わったら消えてしまった。


「なんで……そんな陰陽師に興味ないの……」


 インターネットで漫画や映画の題材としてよく使われているし、海外だと爆発的な人気も誇っていると記事で書いてあった。

 やっぱり男だから、というのもあるのかな。


 他のダンジョン配信者のライブを見たこともあったけど、違いがあまり分からない。


 多くの魔物をスピーディーに倒す。

 ボスでも苦戦しない。

 雑談が面白い。


 上二つはなんとかなるが、雑談配信は苦手だ。 


 ポロンッ、と軽快な音が聞こえる。


 同接一名。


 わぁ……! 嘆いたら誰か来てくれた!

 配信しているスマホに向かって声をかける。


「こ、こんばんは!」


 俺が明るく喜んでいると、声が響いた。


「ギギッ……!」


 ここはダンジョンの下層だ。下へ潜れば潜るほど強力な魔物がいる。


「み、見てください! 魔物です! 戦いますから見ててくださいね!」


 せっかく一人来てくれたんだ! せめて戦っているところは見てほしい……!

 

 手に棍棒を持ったゴブリンが、俺へ飛びかかった。

 シィィィ……と俺は息を吐いて、地面を蹴る。


「ギガッ!?」


 指先に呪力を込め、基礎的な呪力攻撃を放つ。

 倒されたゴブリンはダンジョン内部に吸収される。


 よし! しっかりと倒した瞬間は画面に映した!


 スマホを両手で持つ。


「ど、どうでしたか!?」

 ”……”


 返事はない。

 あ、アレ……? 見てなかったのかな。


 ポロン、と通知が届く。


 ”合成乙w”

「はぁぁぁぁぁぁ!?」


 *


 俺の前世が陰陽師だと思い出したのは、つい最近のことだった。


 平安末期。

 最も陰陽師が多数輩出され、時代は全盛期を迎えていた。

 燃える京都みやこの一角で、俺は大妖怪との戦いで死にかけていた。

  

 俺にはまだ、やり残したことがたくさんあった。

 やりたいことがあるんだ。


 その一心で、誰も成功したことのない転生術式を使った。

 

 そうして陰陽師・上野ソラとして第二の人生を歩むはずだった。


 ダンジョン内で『合成乙w』と書き込みされ、あまりのショックで帰ろうとしていた。

 

「君、何してるの?」


 ダンジョンの入り口で警察官に引き止められる。


「何って、ダンジョンから出てきたんですけど」

「ふーん……職業は?」

「学生兼陰陽師です」


 陰陽師といえば、今でいうところの公務員だ。

 すごいんだぞ! 頑張ったんだぞ!


 もちろん、そんなものは今の時代に通じるはずもない。


「ふざけてるの?」

「……いえ」


 冗談だと思われたのか、警察官は手に持ったパネルを叩く。


「最近、この辺のダンジョンからイレギュラーが発生してるらしいから、封鎖するかって話が出てたんだ」

「今日も潜ったけど、特に危ないとは思いませんでしたよ」

「どうせ上層でしょ。下層の話だよ」

「下層ですよ」


 はっきりと告げると、警察官が眉を顰めた。


「あのねぇ……君、高校生でしょ? 下層になんか行けるわけないじゃないか。大物配信者でもないんだから」


 本当のことを言っても信じてもらえない。

 ため息が漏れそうになるが、押し殺す。


 俺って才能、ないのかも。


「学生兼陰陽師くん、名前は?」

「ソラです」

「ソラくん、しばらくこの辺の警備を任されている渡部だ。何かあったら教えてくれ」


 俺は小さく「はい……」としか呟けなかった。


 *


 俺が転生して、なぜダンジョン配信者を目指そうと思ったのか、その理由は単純だ。


 ・モテる。

 ・陰陽師の名を取り戻す。

 

 この二つのためだ。


 まず、モテるについてだ。

 俺は平安時代、ひたすら訓練ばかりしてきた。陰陽師としての実力を磨き上げ、戦いばかりしてきた。


 ぶっちゃけ平安時代の陰陽師って、超モテたのだ。


 市井を歩けば女性が寄って来るし、同僚の陰陽師なんか『いとおかしw いとおかしw』と言って遊び歩っていた。

 俺も実力はあったはずなのだが、なぜかモテなかったのだ。


 その怒りを訓練や妖退治にぶつけ、気づいたらかなり高い地位にいた。

 

 しかし、なおのことモテず、俺は転生した。


 自宅に帰った俺は、枕に顔を埋める。


「うおおお! 悔しいぃぃぃっ! 平安時代の同僚が憎らしいぃぃぃっ!」


 ポコポコとベッドを叩く。


 『お前、まだ童貞なん?w』と会うたびに煽ってきたあいつ!

 もう転生して記憶もあんまりないから覚えてないけど、許せない!


 憤慨しながら、スマホを取り出して配信アプリを起動する。


「あっ、大神リカが配信してる……」


 俺と同じダンジョン配信者で、登録者数500万人越え。日本人でありながら、その外見は外国人さながらの金髪と美貌だ。

 持ち前の明るさと雑談の面白さで瞬く間にファンが多くついた。


 高校生であることも勢いをつける要素としては大きかったらしく、現存する配信者の中でもトップクラスの再生回数と同接を誇っている。

 

「同接10万人……やば」

 

 俺がダンジョン配信者を始めた理由は、彼女の人気を知ってからだ。

 ダンジョン配信者は人気が出しやすい。


 だから、俺は二つ目の目的解決にぴったりだと思った。


 ・陰陽師の名を取り戻す。


 今の陰陽師は、詐欺師だと思われている。

 異世界へ転生したのかな、と思ったが、歴史を辿ると間違いなく同じだ。

 

 歴史上に存在するどこかの過程で陰陽師の技術が失われ、信用が落ちてしまった。


 ────陰陽師は詐欺師である。


 こんなネットの記事を見て、悲しくなってしまった。

 そのイメージを払拭するために始めたのだが……。


「何がダメなのかなぁ……」


 俺のダンジョン配信の人気が出ない理由が分からない。


「『ダンジョンに陰陽師が潜ったら』」

 

 俺に才能がないのかな……。


 ・モテる。

 ・陰陽師の名を取り戻す。


 どっちも不可能なのかな。


「はぁ……」

 

 上野ソラはため息を漏らして、明日もダンジョン配信のため潜る。


 ソラの手元にあるスマホから、声が漏れた。

 

『大神リカ! 明日は、下層にチャレンジしまーす! じゃあね、みんな〜!』

 

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