鴉遺 -とりい-

@SHeiLasHeILa

第1話 離陸

とある日曜日の夜。私は趣味である散歩を行っていた。今日は久々にゆっくり大きくまわろうと考えていた、つまりは行ったことのない場所まで、ということだ。暗くなってきた道をゆっくり歩いて行く。途中、店があったので寄り道し、飲み物と軽食を購入する。冷たい風が吹く冬にはこの水温が絶妙に効く。恐らく長めの旅になりそうだ。私は心構えだけは十二分にあるつもりだ。腹を空かせていては旅も続かない。しっかりと食してから臨むべきだ。

一通りの準備が終わったところで、店を出る。街中を歩いていたはずが、いつの間にかはしの方まで来てしまっていたようだ。小川を渡り、小石が散らばる長い道路も難なく越える。私の脚はまだまだ健在だ。そこからしばらく歩くと、家の灯りはほぼ無くなっていた。大分、街の外れに来てしまった。最初はもうそんな時間か、と思ったが。腕に着けた時計を見ると、まだ酉の刻を過ぎたくらいであった。頭を上げると、この道の遠い先に1つの山が見える。私は今日はそこまでにしておこう、と考えた。復路もあるのだから。少ない灯りを頼りに、私は道を進む。

時計を見ると犬の刻。今日は満月が出ている。どうか上手く帰れますようにと、天に向かって祈った。いつの間にか、山の麓が近くなっていた。ここからは勾配が付く、辛い道のりが続く。また頭を上げると、遠くに看板が立っていたのが見えた。「大廻神社」という神社があるらしい。どうせならそこまで行ってしまおう、と、残り少なくなってきた水を多めに飲み、気合いを入れ直した。距離が近くなるにつれて、明らかに怪しい雰囲気が立ちこめる。四半時程歩き続けたのち、ようやく着いた。そこには看板通り、小さい神社があった。

私は恐る恐る、神社へ繋がる細い険しい道を歩く。そして、鳥居の前に立つ。すると、人の声が少し聞こえてくることに気づいた。この時間に人がいるとは、珍しいことだと思った。予想以上の場所まで来てしまったと思ったが、ここで引き返すのはあまりに勿体ない。どうせなら、神社に入ってしまおう。私は一の鳥居をくぐってしまった。

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