カマキリの人生
彼岸キョウカ
あぁ、これで俺の人生は終わった。最高の人生だったような気がした。
お前らたちはいいだろうな、カマキリの人生を知らなくて。
俺たちは「愛する者」のために命やる、そういう人生なんだよ。
この話を聞きたいってなら、話してやってもいい。あれは——
「おい、シュウ何してんだよ。とっとと行くぞ」
「あと一匹食ってから」
俺の名前はシュウだった。
ガキのころはアブラムシが好物だったが、今は水分補給のために飲むジュースみたいなもんで、何匹食っても腹の足しにはならねぇ。
ガキのころは、みんなで行動してたな。作戦を考えて、コオロギでもとってたな。あの時は。
「おぉうまいみんなで食った方がうまいな。シュウ」
「あぁ。そのとおりだ」
みんなで笑い、みんなで食っていい時だった。
でも、ある事件が起こった。
それは、仲間同士の「共食い」だったんだ。その時は、何日も餌が手に入らなかったんだ。
「何日も何も食べてねぇ。もうガマンの限界だ」
「俺も。こうなったらお前を食ってやる」
俺はすぐに逃げた。仲間の血は見たくなかったんだ。
こうして多くのカマキリが死んだ。
俺は気を失っていた。
逃げる時に木に引っかかったりして、羽が破れたんだ。
目を開けると、美人がいて俺は見惚れてしまったんだ。
「大丈夫ですか」
「は、はい」
照れながら言った。
「名前は?」
「わ、私ですか? ミリアです」
「俺はシュウ」
そして俺は立った。
早く行かないといけないからだった。さっきのやつらに追われたら大変だからだ。
「あ、まだ傷が治ってないです」
「大丈夫。俺は早く行かないと」
「どこへ行くんですか」
と、聞かれて、俺は曖昧に答えた。
「さあな」
ミリアが照れて言った。
「あ、あの。わ、私も一緒に行ってもいいですか」
「べ、別に」
俺は答えた途端、ミリアは、顔が少し赤くなった。
そして、俺たちは旅にでた。
二人で、バッタを食べたり、森の中で雨宿りしたり、いろんな事をした。そして時は来た——
俺たちは結婚をすることにした。もちろんプロポーズは、俺がしたんだぜ。
「そろそろ、卵を産む時期だ」
「え、ええ」
ミリアが下を向いた。
「わ、私。シュウを食べたくないよ……」
「いいんだ。俺を食ってくれねぇと、ミリアは卵を産めねぇだろ」
俺は、ミリアのためならなんだってやりてぇ、そう強く思ってたんだ。
「じゃ、じゃあ。今週の日曜日ね……」
そして今週の日曜日。
「ご、ごめんね。わ、私。ずっとシュウのこと愛してるよ……」
「俺も……」
「ごめんなさい!!」
「ガブッ」
こうして俺の人生は終わった。
それから——
15年後。私は、生まれ変わりました。あの、昔の話をした時、私は生と死の境目にいたと思います。
人間のかわいい女の子に生まれ変われた時は思わず両目から雨が降ってきたんです。友達が初めてできた時聞いてみたら「なみだ」だそうです。
こんな姿でも私はいつまでもミリアを愛しています。
カマキリの人生 彼岸キョウカ @higankyouka
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