第29話 気にしているのは父親くらい

『では改めて自己紹介しようか』


 画面はゼノの元の黒に戻った姿が映る。


『正直破炎のゼノと言う呼び名は認めていないので、ただの魔界に住む者だ。ゼノと呼んでくれ』


「では僕のこともアルフレッドと。こちらは従者のクレイグ。彼は確かに天使族だが天より僕を選んだ変わり者でね。あなたたちを害したりはしないので安心して欲しい」


『天使族が降りた地には何も残らない...。その言い伝え通りなら天使族は危険な存在だが、今は君の言葉を信用するとしよう。従者だけでなくアルフレッド、君も十分変わり者だ。天使族を側に置き、俺の黒を見ても何も言わないとはな』


 アルフレッドもゼノのことを知っていたとはいえ、人族であれば黒持ちに対して何らかの反応をすると思われたが言葉にも目にも負の感情は見受けられない。


「僕は僕自身の見たものや聞いたものを信じているだけ。周りに踊らされるような真似はしないのでね」


『それで天使族を側に置いても平気な顔をしているわけだ。魔界の者に対しても同様ということか。


 アルフレッドのような者がシアと仲良くしてくれるとこちらも娘の知見が広がり喜ばしいことだ。だが、話のスケールがあまりにも大きい。その提案に乗るかは内容次第だな。下手をすれば多くの国、魔界をも巻き込む話だ。俺の一存で決められる話ではない』


「それは当然のこと。では最初にも言った通り、シア嬢を城へと招き詳しい話をしたい。そこで加えて紹介したい者もいるのでね」



 ゼノはしばらく考え込む素振りを見せた後、シアに尋ねる。


『シア、今回の旅のメインはシア自身だ。だからこの後の旅の予定を決めなさい。どうしたいか、こちらのことは考えず自分に正直に。それに俺も従おう』



 彼の提案に乗るにはシアの旅の予定は否が応でも変更することになる。最悪はゼノが直接アルフレッドの元へ訪れてもいいのだ。相手は天使族を控えさせているとはいえ、手荒な真似をするとは思わない。それなら最初から娘のシアを人質にすればいい話だからだ。

 隣国の怪しい動きも懸念すべきことだが、彼らと手を組まなくてもこちらには勝算は十分にあるのだ。彼らと手を組んだ方が楽ではあるが。


「私は...もともと旅の予定は融通効くものだし、私個人としても魔界に、父様に害をなす存在がいるっていうのなら放っておけない。

 それに、さっきは父様を狙って近づいたのかと思ってとっさに攻撃しちゃってごめんなさい。許してくれるならあなたと友達になりたい」


「僕は気にしていない。あそこで試すような真似をした僕自身も悪かったしね。

 友達になりたいなんて真っ正直に向かって言う者も珍しい。友達というのを僕はよく知らないが、君と親しくするのも面白そうだからいいだろう。その友達とやらになってあげようじゃないか」


「ありがとう! じゃあ父様! 私友達の力になりたい!! だからアルフレッドの話聞こうと思う」


『協力するかは話を聞いてからだ』



 ゼノは危ないようならシアを強制的に連れ戻すことも視野に入れている。だが、ゼノもシアに友人になりたいと思わせたアルフレッドという少年自身に興味を持ったのも事実だ。



 単純な生まれた地を見に行くだけの旅だと思えば、ドラゴンを引き連れて人族の王と友人になる。この引きの良さは一体誰に似たのだか。ゼノ自身は不思議に思っているが彼の配下の者が聞けば十中八九どころか全員が口を揃えてトラブルメイカー体質はゼノ様似ですと答えただろう。



「じゃあ次はアルフレッドの家についてから連絡するね。


 またね父様!」




 ブツ、とシアとの通信が切れた後、ゼノの執務室にいたファルルが何の気無しに口にする。


「あらあら、シア様ってばさっそく美少年を捕まえるなんてやりますね。ファザコンなので年上趣味だと思っていたのだけれど、意外と年下趣味だったのかしら? 


 うちの子たちももっと頑張らないとうかうかしてられないですね」



 その言葉にゼノに衝撃が走る。


 たった今ゼノは可愛い一人娘を男友達の家に行く許可を自分が出してしまったことに気がつき後悔に項垂れた。


 シアを狙っている不届者ではないかとゼノに疑われているアルフレッド本人は、この後シアの情勢の疎さに気づき人族の国の地理から王の名前、情勢などについて教えてくれるありがたい存在になる。

 そして時にスキンケアや髪の手入れについても口を挟み、身だしなみや言動などに関する小言が絶えず、シアの野生児から淑女教育が為されて行くことになるのだが、その二人の様子は年頃の娘と口うるさいおかんの図にしか見えないことをゼノは知るよしもない。


 いつまでも気にかけているゼノに対しレナードの慰めのために発した言葉が追い討ちをかけた。


「男女間の友情が成り立たないと思っているのは古くさい考らしいですよ。今どき普通なのであんまし気にしなくてもいいかと」


 それを聞いたゼノが机に突っ伏した。




 その頃シアはゼノの言う風呂上がりには牛乳という言葉に従い、代用としてヤギを捕まえて乳を絞っていた。そしてアルフレッドが再びシアに呆れた目を向けていた。


 そんな二人の様子を見ることが叶わないゼノはシアからの通信が来るまでひたすら悶々として過ごすのだった。

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