第24話 子供は知らない間に親に似る

「で、ドラゴンの件についての話がまとまったなら、肝心の防犯アイテムの話を始めていいですか?」



 少し目を座らせ、焦れたようにレナードが切り出す。


「おっと、そうだな。その話をすることをすっかり忘れていた」


 ドラゴンへの衝撃が強すぎて頭からすっぽり抜け落ちてしまっていたが、元々は防犯アイテムについて話すために繋げたのだ。



『防犯アイテム?』


「そう。シアの荷物に見慣れない物入ってなかった?」


『んー? 特に思い当たらないけど...。


 あ! 


 そういえばこの子に会った時、手当てしようと触れたとき何か急に魔法の発動を感じて攻撃かと思って咄嗟に阻害したけど、


 ......もしかしてそれが防犯アイテム?』



 うん、間違いない。


 防犯アイテムに設定していた触れたときに該当して発動していたということだな。



 レナードが手に持っている防犯アイテムを確かめる。

 


「なるほど。それでこっちに預かっている防犯アイテムに反応した形跡はないのか。それで作動せずにいたということなら、この防犯アイテムの改善が必要だね。今回のケースのように阻害された場合を想定して...」



 レナードが思考に集中し始めてしまった。仕方ない、ここは俺がこの後話すしかないな。


 一応誰が仕込んだかは名前を伏せて説明しておく。



「まあ、というわけだからそれが不要なら壊せばいいし、シアの思う通りにいい。


 持っていたところで使わないに越したことはないが、いざという時に持っておいても損はないからな」


『もう! 父様が言わなくても分かります! 絶対アーキスのせいですね!?


 マーシェやテッドは直球でそんなこと考えられるだけの頭はありませんし、ジェイクやキイカはこっそり仕込むような度胸はないのでアーキスしかいません!!


 まあ、でも。私も確かに壊すまではしなくてもいいと思うので設定し直そうと思います』



 名前を伏せた意味がないくらい速攻でバレたな。しかも何気にみんなに酷いこと言っていることに苦笑が漏れる。


 さて肝心の設定だが、とレナードを見ると魔法を大量に展開しており、執務室の一角が完全に埋まってしまっている。



「レナード? どうした?」


「完了です。


 防犯アイテムの改善も終え、オリジナルで新しい機能もつけておきました。後は再設定後にこちらからシアが持っている方と繋げて遠隔操作すればいいだけですね」


「では再設定するが、どのような設定にするんだ?」



 今の設定は三段階設定の内、シアに話しかけるでレベル1、触るとレベル2、攻撃を受けたときでレベル3にしてある。このままでは先ほどの話からするに、シアの方から手当てのためでも触れたということで反応してしまうようだ。これでは人が多くいる場所に行けば防犯アイテムが作動しっぱなしになってしまう。幸い今までの道中が山であったからドラゴンのとき以外に反応せずに済んでいたが、この先このままでは困るだろう。



『まずドラゴンちゃんがやられないように特訓をつけてあげたいと思っているので、ドラゴンブレスくらいには反応しないようにはしたいです』


 もうそれ防犯アイテムの意味ないだろ。


 ドラゴンブレス以上のものってなんだ。何で設定するつもりだ。



「じゃあ僕の作った子、自律思考型人工知能を導入する?

 組み込めばサポートアイテムとしても使えるから旅の手助けもできるし、防犯もトラブル時などに自動的に選択肢を提示したりできるよ」


『それ地図読むのに助かるかも!』


「確かにそれは便利だ」


 むしろ俺が欲しい。


 仕事を手伝って欲しい。そうすれば俺と、特にチェスターの負担を減らすことができる。



「それなら手間は一緒ですしゼノ様の方にも導入しておきますね」



 それじゃあさっそく、と言ってレナードは魔法を同時に大量展開して防犯アイテムに組み込まれた魔法式を書き換えていく。その無駄のない美しい手捌きは見事の一言に尽きる。


 魔法の光が収束し、作業を終えたレナードがふっと息を吐く。


「終わったので次は問題ないか動作確認をしましょう」



 ピロン。


 シアと俺の両方から音が鳴る。


“はじめまして、自律思考型人工知能のメーティスと言います。


 皆様のサポートをさせていただきますのでこれからよろしくお願いします”


 落ち着いた女性の声で、淡々と喋る感じが人工知能っぽさを出している。


「じゃあまず、シアはドラゴンに触れてみて」


『分かった!』


“ドラゴンが仲間になりたそうにこちらを見ている。


 仲間にしますか?


→はい

 いいえ

 こっち見んな"



 初っ端から人工知能であるのにクセが強い。



「すみません。教育には先輩も携わっているので......多少変なことを言うかもしれませんが気にしないでください」



『では仲間にする! で』



 ぎゃう、とドラゴンの嬉しそうな鳴き声が聞こえてきた。


“名前をつけてあげますか?


→はい

 いいえ”



『名前......? どうしよっかな。


 そうだ! 名前はタマで!』

「却下」


 俺も人のことは言えないがネーミングセンスが酷い。血は繋がっていないがこんなところで俺に似なくてもよかったのに...!



「シアってネーミングセンスなかったんだね。初めて知ったよ」


『え~丸くてころころしてるからぴったしだと思ったのに!

 じゃあシロで』


 続いて挙げられた名前も酷い。自信満々に言ってのけるあたり悪ふざけでもなんでもなく本気なことが感じられてなお悲しくなる。


 呆れたようにレナードが頭を抑え、心の底より吐き出したようなため息を吐き出した。


「せっかく綺麗な色合いをしているんだしもっと美しい名前にしてあげなよ」


『ええ~? 思いつかないし、そんなに言うならレナードなんかいい候補出してよ』


 シアは同い年のレナードにはけっこう気安く甘えるようだ。アーキスやテッドたち年上組には背伸びして見せたがるのだが。やはり同い年同士の気やすさがあるのかもな。


「雪のようにとも言える白さだが、鱗が光を反射して遊色を放っているのは真珠みたいだね。

 パールとかどう?」


『おお~それ良いね! なんかドラゴンちゃんのこと口説きはじめたと思ったけど良い名前!


 じゃあパーちゃんで決定だね。ね、パーちゃん』


 ぎゃーう、っとドラゴンも喜びブンブンと勢いよく振られた尻尾で地面が抉れている。それを気にせず微笑み合う少女とドラゴンだけ見たなら可愛らしい絵になるんだがな。

 あの尻尾で絶対に打たれないようにしよう。鞭のように肉が抉れそうだ。


「けっきょくそんな情けないあだ名つけて呼ぶのか......はぁ...」


 二人が話しているところを今日はじめて見たのだが、レナードはずいぶんとシアに振り回されているようだ。様子からして今までもこんな感じなのだろう。


 シアのこういうところは師匠に似ているな。俺もよく振り回されていたからレナードには共感できる。


 後で娘がいつも世話になっているお礼をしておこう。



 二人で話している様子を見て、俺と師匠もこんな感じだったのかなと懐かしく思いながら眺めたのだった。

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