第11話 最近の名前は一発で読めないものが多い

「ゼノ様の魔界における常識の欠如が露見したため、本日は魔界常識講座を急遽開催いたします」



 はい、初っ端からみんな嫌いな座学のお知らせです。



「今まで大丈夫だったし、昨日はそのたまたまではないか」


「今後それで揚げ足を取られるようなことがあっては困りますので、潔く諦めてください」



「講師にはわしもおるぞ」



 チェスターだけでなくエイブラムも乗り気だ。



 引きこもりなのになぜ連日俺の前に現れる?


 いいから大人しく引きこもってくれていても、こっちは全然構わないというのに。



「名の重要性は昨日聞いたが、まだ何かあるのか?」


「ではまずは大前提から」



 チェスターの説明を受け、エイブラムがより詳しい補足や歴史的事件を例に出し分かりやすく教えてくれた。

 俺自身も疑問に思った箇所にところどころ質問しながら二時間程が経った。


 要約するとこうだ。


 魔界での名前は大まかにファーストネーム・セカンドネーム・ファミリーネームに分けられる。


 大抵はファーストネームとファミリーネームのみで、魔界で名前を名乗るときはファーストネームのみ名乗るのが通常だ。あくまでも生まれを説明するものという感覚で、だいたいはファミリーネームを名乗らない 。


 そして魔界において非常に重要視されるのがセカンドネーム。

 貴族や力のあるものはセカンドネームを持ち、これがある者をネーム持ちという。通り名とは違うが、このセカンドネームにちなんだ通り名が多いようだ。

 魔界では人族の貴族のようにファミリーネームは重要視せず、このセカンドネームを持っているかを重要としている。

 これは力が全ての個人主義な魔族の特徴がでていると思う。


 さらにセカンドネームには先天性と後天性の二パターンがある。   

 生まれつき桁違いの魔力を持つなど、最初からネーム持ちのものが先天性。

 力をつけて名を馳せたり、ネーム持ちなどの強い相手を倒したときに得られるのが後天性。後天性は後から自分の名前に付属してついていくため、力を持つ者ほど名前が長くなるのが通例だ。

 ちなみに先天性のネームと後天性のネーム両方を持つこともある。その場合は先天性の後に後天性のネームが続く決まりだ。


 そのため上級魔族ほど名前が長くなる。全ての名前を名乗ることはないが、名前の長さで相手の強さが表されているのが魔界式の名のようだ。


 昨日騒ぎになった名前を変えるというのは、セカンドネームはファーストネームに付随するため、名前を変えてしまうとせっかく得たネームを失うことになってしまうらしい。

 名を奪われるというのは力を奪われることであり、力を重んじる魔族にとって大変屈辱的な行為だとか。


 そして、自分の名前を全て名乗るのは、自分の持ち得る力全てを捧げるという意思表示になり、従属を示す時に行うようだ。

 それに主人となる者が応えることにより名乗った者が配下に下る仕組みとなっている。

 この行為は唯一無二と定める主に捧げるものであり、強要はできない。隷属と違い力を持った者の力を損なうことなく、そのまま服従する形になる。



 うん?



 俺、みんなから自己紹介されたな。


 魔界って名前長いやつが多いんだな、自分の名前覚えるの大変そう、とか思っていたのだが、もしやみんなネーム持ちだというのか?



 俺は人族だし孤児で拾われ児だったからファミリーネームなんてものは知らず、『ゼノ』とだけ返した。


 これって、俺は知らない間にみんなを服従させていたということになるのか...!?



「最後に説明した名乗りはゼノ様もよくご存知のことかと。


 ここの城内にいるほとんどの者はネーム持ちになります。

 ゼノ様も最初にお会いした時から比べるとネームが増えましたし、今後も増えていくことでしょう」



 聞き捨てならないセリフが聞こえてきたぞ。


 そういえば俺は自分の名前をちゃんと知らない。


 ゼノという名前も誰がつけた名前か知らないのだ。



「ものすごく初歩的なことを聞くことになるが...ネームが増えたりするのに、自分の名前の確認はどうやってする?」



「ああ、そうですね。


 私たちはゼノ様の配下になったことにより、主君の名が魂に刻まれることになります。

 そのためゼノ様の名に変化があればすぐ知ることができますが、ゼノ様ご自身はこちらを使っていただくことになります」



 かなり気になる言葉が出てきたが深く突っ込まずにおこう。


 俺は素直にチェスターから渡されたものを受け取った。


 手渡されたものは黒曜石のような真っ黒な石のカケラだ。


「それに魔力を込めていただけると名前だけではなく、現在の自身の力量が細かく数値によって表されます。

 大抵の者は戦いにおいておおまかな自身の力量を把握していますが、より正確に知りたい場合は便利です。

 まずはお名前だけでいいのでしたら、名前のみ浮かぶよう念じていただければよろしいかと。


 注いでいただく魔力はほんの僅かで構いません」



 黒いカケラへと魔力を注ぐ。


 カケラが光り、脳内へと直接映像が流れるようにステータスのようなものが浮かび上がった。




_____


"ZN・イグニス・インペリウス・ノクテナタクウァエダム"


称号

異端者・炎の支配者・永遠の闇から生まれし一族


通り名

破炎のゼノ

_____




 なげぇよ!!!


 厨二オンパレードな称号ばっかだな!


 過去の俺が泣いて喜ぶよ!!


 そして最後のファミリーネームの『永遠の闇から生まれし一族』って不穏な気配しかない!!!


 この世界での実の親の顔何も知らないけどな!!


 


「ちょっと待て。


 俺の名前はゼノじゃないのか?


 チェスターやエイブラムは知っていたんだよな、俺の名前の表記がゼノじゃないって」



「ええ。


 通常の魔界表記とは異なるお名前だとは知ってはいましたが、見たこともない文字のためお伝えされた名前がその文字の読み方だと思っていました」


「わしも同じだ。


 これでも多くの知識を得ていると自負しとるんだが、見たことのない文字であったし、歴史書や今は亡き失われた文字の中から探してみたがどこにも見つからんかった」



 では俺を最初にゼノと呼んだ者にはこの文字が読めていたのだろうか。


 一体誰が最初に俺をゼノと呼んだのか。


 この世界での自身の出自がこんなに気になったのは初めてだった。

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