不安なのかい? そりゃいいや!

梧桐 光

第1話 プロローグ


 たしかに人型のようではあった。


 腕が二本、足も二本、頭がおそらく一つの黒い影。


 おそらく、というのは頭があるはずの部分が見えないからだ……あまりにも高過ぎるところに位置しているために。


「バカな……なんだこれは……巨大すぎる」 


 男は呆然と見上げていた。


 視線の先にある「それ」はあまりに高くあまりに巨大で、人間の形をしていると認識するのに時間がかかる。


 高さは高山に匹敵するだろう。顔らしい部分は雲に隠れて見えない。


 肩幅だけで一千メートル以上はあるだろう。肩幅の分だけ歩くだけでも、十分以上かかるはずだ。

 夕暮れ時。

 茜色に染まる空の雲で首から上を隠された、規格外の大きさの黒い影のような巨人が立っていた。


「なんなんだ……なんなんだこのバカでかいM3エムスリーは!」


 彼も自分が現出させた人型のM3の肩に乗っている。


 その大きさは五階建てのビルほどもある。

 辛い訓練の末、ようやくそこまでの大きさに「拡大」できるようになったのだ……。


 だが男のM3も、目の前の巨大すぎるM3から見れば鼠程度にしか見えない。


 ビルは確かに大きい。だが高山とは比べようがない。


 男は目前の圧倒的な量感を伴った恐怖から逃れるように、喉から声を絞り出した。


「お前は何者だ!」


 自分の非力さに震えながら男は叫ぶ。


「どんな〈不安〉を抱えていたら、そんな巨大なM3を扱えるのだ……?」


 彼の視線は巨人の足元に立つ一人の少年に向けられていた。


 少年の名は居所探いどころさがすといった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る