表舞台に立ちたくない悪役

次回は9時と18時に更新です!( ̄^ ̄ゞ


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『クリアナ・ファンタジー』の舞台は学園だ。

 クリアナ王国直々に運営するクリアナ王立学園は毎年各都市の貴族を始め、才能ある平民や異種族などを招集し、国のために育て上げている。

 そこへ、主人公を初めとしたヒロイン達が集まり、様々なストーリーが動き出す。

 この瞬間こそ、『クリアナ・ファンタジー』の開始といっても過言ではない。


 本来であれば、悪役アルバくんも公爵家の人間として入学する予定であった。

 しかし、学園は破滅フラグのオンパレード。どのヒロインと関わってどの悲しいフラグが立つか分からない。

 だからこそ、アルバは家を出て遠い山奥でスローライフを送っていたわけなのだが───


「考え直しましょう、シェリアさん。学園はダメよダメダメです」


 教会からのお手紙が届いてからの昼時。

 アルバは神妙な顔つきで山小屋の中にあるテーブルに肘を着いていた。

 この時、アルバは何故か今から大事な会議でも始めんとせんばかりの雰囲気を醸し出していた。


「むぅー……私、学園に行ってみたいです」


 昼食が並べられているテーブルの対面には、可愛らしく頬を膨らませる聖女様が座っていた。

 偶然助けられ、しばらくお休み中の間に転がり込んでいるシェリアである。


「俺だって男だ。男に二言はない……が、学園だけはダメよダメダメなのです」


 一緒にいるというお言葉を撤回してしまえば男の名が廃る。

 一度口にしてしまった以上、勝手に行けなんて言えるわけもない。

 そのため、ストーリーに関わろうとするヒロインをなんとしてでも説得しなければならなかった。


「どうしてですか?」

「俺が死にます」

「死ぬんですか!?」


 この世界が主人公とヒロイン達が織り成すゲームの世界であることを知らないシェリア。

 当然ながら、アルバがどうして学園に行きたくないかなど知る由もない。


「アルバってお強いですよね? なのに死んじゃうんですか?」

「世の中腕っ節だけじゃないのです」

「でも、腕っ節が強ければ殺されることもありませんよ?」


 まぁ、ご最もであるのだが、身に覚えのないヒロインの復讐に巻き込まれて不意打ちで殺されることだってある。アルバの言う通り、この世は腕っ節だけが全ての生存戦略というわけでもないのだ。

 とはいえ、シェリアに「俺って転生してさ〜、実は俺ってヒロインに殺される悪役なんだよねぇ〜、あっはっはー!」なんて言えるはずもなし。

 言ってしまえば、純粋無垢なシェリアに頭か心の心配をされることだろう。


 なので、ここはそれっぽい言葉でシェリアを誤魔化さなければ。

 文字通り、学園に行くかどうかはアルバにとって死活問題なのだッッッ!!!


「いいか、シェリア。学園は怖いところなんだ」

「怖いところ、ですか……?」


 真面目な顔つきのまま、アルバは口にする。


「あぁ、そうだ。学園は多くの人間が集まる場所。権力をひけらかす怖い貴族もたくさんいる。国が堂々と管轄しているから他国や王国に直接狙われることがないとはいえ、可愛い女の子を狙う狼さんはたくさんいるんだ」

「ですが、その分お友達になれる人もたくさんいますよねっ!」

「……それだけじゃない。しなくもない勉強を強制的にさせられ、自由な時間を拘束される恐れがある」

「今まで聖書のお勉強しかしてこなかったので楽しみです!」

「…………更には、今まで慣れていない環境で過ごすことは心身ともに疲弊を───」

「新しい場所、ワクワクします!」


 ダメだ、伝わらねぇ。

 ポジティブ思考な美少女を目の前に、アルバはさめざめと泣いた。


「あぅ……でも、アルバが嫌だって言うなら諦めます」


 シュン、と項垂れた姿でフォークを手に取るシェリア。

 学園に入学するのはあくまで任意だ。入学できるような年齢になったからこそ教会が学園に入学できるよう手を回しただけであって、シェリアが行かないと言えば行かなくても済むだろう。

 シェリアの目下願望は大好きなアルバと一緒にいること。

 学園で一緒に学生生活を送ってみたいという気持ちはあるのだが、アルバがいないのであれば行かないを選択する。

 だが───


「くっ……その顔はずっこい!」


 アルバはアルバで葛藤していた。

 己の一身上の都合でこんな美少女に悲しい顔をさせてもいいのかと。

 とはいえ、行けば死に直結する可能性もあるので中々首を縦に触れない。

 美少女と死。ある意味男にとって贅沢で究極の選択がアルバに強いられていた。


「あ、そういえばアルバ宛てに教皇様からお手紙が届いてました」

「俺に?」


 なんだろう、と。アルバはシェリアから渡された手紙を受け取る。

 シェリアがお休みを頂いている関係で、アルバのことは教皇の耳に届いていた。もちろん、素性は明かしていない状況で。

 しかし、それでもどうして教会のお偉いさんから手紙などくるのだろうか? 不思議に思いながらも封を開ける。

 すると、そこには───


『拝啓、アルバ殿。春の風が心地よく感じる季節になってきました───

 〜以下略〜

 

 〜以下略〜

 教皇より』


「………………」


 飾りっけのない言葉が一番怖かった。


「なんて書かれてあったんですか?」

「……教皇って、どんな人だったっけ?」

「優しいお父さんみたいな人です!」

「……そっか」


 将来、この子が誰かと結婚する時は大変そうだ。

 アルバは堂々たるお手紙命の危険を握り潰し、誰かも分からぬ未来のシェリアの伴侶に両手を合わせた。


「それで、学園の事なんですけど───」

「あー……うん、オレモガクエンイキタイナー」

「本当ですかっ!?」


 ガタン、と。テーブルを叩きつけて勢いよく立ち上がるシェリア。

 よっぽど嬉しかったのだろう、瞳がこれでもかとお星様のように輝いている。

 精気を失ったアルバの瞳とは大違いだ。


(なんで、俺はどっち転んでも八方塞がりな運命に立たされるんだろう……?)


 世界はアルバにとても厳しかった。


「ふふっ、楽しみですね! 私、学園に通ったことがないので本当に楽しみですっ!」


 確かに、これで悲しい顔をさせることはないだろう。

 平民生まれで、女神からの寵愛を賜ったシェリアにとって、お金のかかる学園は行けるだけでありがたいのだから。

 瞳を輝かせ、主である女神に感謝を捧げ始めたのがいい証拠。


(ほんと、可愛い顔してんなぁ……)


 アルバも、そんなシェリアに続くかのようにどこにいるか分からない神へ祈りを捧げた───


(おいコラ、クソ神……いつかてめぇの顔面叩き割ってやるッ!)



 いつか罰当たりがきそうなものだが、今のアルバのお心には関係のない話。

 ───こうして、悪名高い悪役の表舞台への登場は、全てのお膳立てが整ったのであった。

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