第19話 隠れながら
けたたましい足音が何十と響き渡る。
それぞれが思うように口を開きその内容は定かではないが口々に人間という飛び交うワードだけは包鉄の耳にしっかりと入り込んでいた。
時間からすれば捜索隊が組まれる程には針が回っている。
大慌てって感じかね。
魔物の一人が近づく気配から包鉄は息を殺す。
「あれ!? おいお前ら、こっちの方に通らなかったのか?」
「来てねーよ。また何処かの小道に入ったんだべ」
二匹の会話が聞こえる。
状況から言って両側から虱潰しに探している中鉢合わせたって所だろうな。
「ちょこまか面倒くせー!! また戻るんかい!」
「同感だべな。でも人間なんて入れておいたままにしとけーねーべ」
「ったく、仕事終わりの酒が台無しだよ!」
その言葉を最後に段々と足音は遠ざかって行った。
「…………行ったか?」
静けさに確信を抱くと包鉄は小さく口を開いた。
「行きましたね」
「行ったようで」
二人の声を確かに聞いて、小屋の中で山積みになっていた稾の中に身を隠していた包鉄はそこから飛び出した。
そして地面へと腰を下ろし、ある程度の硬さを帯びている筈の軟体は溶けるように項垂れた。
「隠れるとなると緊張するなぁおい。やっぱり向いてないわ」
静かにセラーレイと選択の二人も藁の中から姿を現し、セラーレイは全身に纏わりつくゴミを振り払うと包鉄の前に立つ。
「誰の、せいで、こうなったと、思ってるんですか?」
包鉄の溶けた体をセラーレイは前足で思いっきり叩き付ける。
その向かう先は包鉄の尻であり、ピンポイント過ぎるだろと思いつつ食い込む爪が絶妙な痛みを与えていた。
「いでででで!! 悪かった悪かった! でもボロは出して無い筈なんだが!」
警戒していたからこそ小出しに訊ねたんだが、あんなに早く勘付かれるとは思わなかった。
予想外であるが、まぁこれに関してはままある事だ。どうにでもなる。
包鉄の考えとは裏腹に叩く痛みが増して行く。
「余計な口滑らせて不利益を被るのはあの人と同じですね。……思い出したら尚ムカついて来ました」
「あででででで」
これは八つ当たりじゃないか?。と思わずにいられなかった。
「……走りながら少し考えていたが、原因はもしかしたら魔物側に把握出来ている事が俺達には出来ていなかった。これなんじゃないですか?」
「あー痛い……。見えている物、聞いている事が違うって話か?」
セラーレイの気が晴れたのか包鉄漸く解放されて尻を摩る。
「恐らく。この呪文は姿形は変えるだけで魔物に成る訳ではない。この辺りにヒントがあるのではと」
「魔物には見えて人間には見えない仕掛けが施されている可能性。魔王が療養中って話だからそんなシステム組んでいる事も有り得るな」
勇者を葬り去った事実に人側がヤケ、若しくは弔い合戦を起こすかもしれない。
少なからずダメージを負っている魔王の喉元にまで辿り着かれると万が一に。ってな具合で予測を立てるのは筋道としてあり得る。
まぁ人間側が攻めきれず痩せ細ったってのが今の状況だろうけど。この祭りも魔物側の余裕あってのものだ。
はてさて、どうしたもんか……。
包鉄は色々と思案に耽ていると目を細めて見詰めるセラーレイに気がついた。
「……色々考えられるならもう少し慎重に会話して下さい」
「面目ない」
過ぎた事を後悔しても何の足しにもならんからな。気にしない気にしない。
「これからどうする? 探るにも探れませんが」
「もういっその事全員やっちまうか。この街はある程度自治めいた事もしてるし、騒げば目的に近しい魔物も姿を現すだろうからな」
「失敗してしまった以上俺も賛成です。時間が経てばそれだけ警備を強固にするだけだ」
選択と俺は同意見。慎重派なセラーレイはおそらく反対してくるだろうな。
「魔王は狡猾だとお話ししましたよね? 魔物だけに理解出来る何かしらが編まれているのなら、同時に人に向けた罠も仕掛ける性格なんですよ。傷を負っていようと、いや傷を負っているからこそ幾重にも対策が為されている筈」
断固たる強い声色でそう言い切る。
ほらな。仲間がやられた事のトラウマがそうさせるのか、はたまた元来の物なのかは判断しかねるが。
包鉄はニヤリと笑う。
「正面から破るのが勇者ってな」
「ふざけないで下さい」
「半分は冗談さ。……取り敢えず現地勇者や他の仲間の犠牲は無駄じゃなかった。稼いだ時間が次に繋がったのなら、確かにそこに意味が作られた。収穫だな?」
包鉄はセラーレイにそう投げかける。
無意味に無価値に死んだ訳じゃない。俺達がこうして意志を継いだからこそ見出す事が出来た。
「…………」
セラーレイは黙って何かを考え込んでいる。
殆ど答えを言っちまったな。話の流れだから仕方ないけど。
まぁでも流石の堅物でも自分の役割と託された物は何だったのか理解出来る。
最初から分かってりゃ墓守と化してる時間はなかった筈だぜ。
「全力でやってるなら道半ばで倒れても何かしら残るもんだからな。少なくとも汚名返上完了だ」
続けて包鉄はそう言った。
「……一先ず呪文は切ります。これ以上は足枷にしかなりませんから」
「そうだな」
三人は煙の様な物に包まれるとその姿は元の人の形へと戻る。
体感あまり変化した実感が無いので、戻っても特別感動する事はなかった。
「さーてどう挽回するか……」
考えるのは先である。
すると……。
「……あの、すみません」
突然に気配を落とさず、そう声を掛けられる。
包鉄はその主に向かって咄嗟に抜いた拳銃を向け、その相手を視界に映した。
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