ショート短編集

無駄職人間

第1話 肌寒い朝に空を見上げながら約束した

 雪が降りそうな灰色の空の下。

 今か今かと雪が降るのを待っているかのように、男は空を見上げていた。

 それを取り囲むように警察と機動隊、報道関係者、地元のやじ馬たちは男を見ていた。

 ある者は男が何を見ているのか彼の見つめる先を目で追っていた。

 また、ある者は男が何か危険な事をしないのかと警戒をしていた。

 また、ある者は男の体をなめるように見ていた。(発達した胸筋と下半身)


 そう、男は全裸であった。

 まるで未来から送られてきた暗殺ロボットが題材の映画冒頭みたく、男は産まれた状態であった。

 男の足元には脱いだ衣服と靴がキレイに畳んだ状態で置かれている。

 ここまで固唾を飲むような沈黙が男によって破られた。

「これより私は約束を終えて帰ります」

 男は右手を挙げて、まるで選手宣誓かのように高らかに言う。

 現場の指揮をとっている人物、第893機動隊青海苔部長はメガホンを手に取った。

「何が『約束』だ。貴君は公然わいせつで刑期を終えるまで留置所送りだ。帰るのはそのあとだ馬鹿モンが!」

「仕方ないのだ。帰るときは地球のモノは持っていけない。それにこの姿は全裸ではない」

「じゃあ、どうして貴君の陰部はボロンしているのだ! おかしいではないか‼」

 青海苔部長は叫ぶ。

 男の陰部は共鳴し震える。

 メス犬はくしゃみをした。

「ボロンはしていない! 『ドゥルン!!』しているのだ‼」

「どっちも露出している擬音ではないか⁉」

「これは露出ではない。第一、宇宙人に陰部はないであろう」

「なにを言って――」

「ウルトラマンが戦っているときにブラブラしていますか? ありません。コンボイ司令官が爆発するときに陰部が飛び散りましたか? ありません。全裸に近いプレデターが狩りをするときにボロンしてますか? ありません」

「貴君は本当に一体何を語っているのだ⁉ しかもどこかで聞いたセリフだなオイ」

「でも、ドゥルン!! はしているんですよ」

「だから貴君の言うドゥルンとは何なんだ!」

 青海苔部長の絶叫と共に空から突如、赤い球体が現れた。

 その球体は男の陰部に憑依するやいなや、男の体は宙に浮かびだした。

「一体全体どういうことだ・・・・・・」

 青海苔部長は目の前の光景が信じれない様子です。当たり前です。

 それに同調するように周りの人たちも驚きの声音を上げる。

 メス犬は喘ぎ声をあげる。

「それでは皆さんサヨウナラ。これから私はドゥルンを使います。離れてください」

 男の輝く陰部を支点に体は仰向けに、四肢をだらんとさせて高速右回転を始めた。

 時たまに汚い橙色の汁が青海苔部長を襲う。

 その回転は球体から円盤状に形を変えて、空へと飛び去って行った。

 残されたモノ代表として青海苔部長はこう語った。

 先ほどから文章内に紛れ込んでくるメス犬に対して、

「・・・・・・誰だ今の」

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