『勇者は道端で倒れている魔王を発見した!』

雨琴

第1話


 最後の一撃。


雪菜ゆきな!」


 私の耳にそんな声が響く。


 これは世界を守るため、この世界に召喚された私の最後の仕事と言えるだろう。


 そんな思いものせて私は魔王めがけて聖剣を振り下ろしたのだった。


●●●●


「勇者様よ、良くぞやってくた。これでこの世界に平和訪れたと言えるだろう。それで褒美は何がいいかな」


「元の世界に戻りたいと思います」


 王様の問いに私は迷いなく答える。


「迷いは無いようだな。我としてはこっちに残って欲しい気持ちは山々なのだが仕方あるまい。メル、頼んだぞ」


「分かりました」


 メルが泣きそう顔でこちらをみる。


「雪菜、本当に本当に帰ってしまうの?」


 そんな言葉に一瞬気持ちが揺らぎそうになる自分もいるが、私は元の世界に家族に会いたいのだ。


「うん、最初から決めてたからね。魔王を倒して役目を終えたら元の世界に帰るって」


「分かったわ。元気でね。私のことも忘れないでね」


「うん。忘れない。絶対に」


 私のその言葉と同時に足元に魔法陣が生まれる。これは勇者召喚の反転。一度しか使えない勇者送還だ。


 私は消えゆく中、メルに向かって最後の言葉を口にした。


「さようなら」


●●●●


「本当にお疲れ様でした」


「本当に疲れたよ」


「その割には最初はノリノリでしたけどね。異世界召喚!なんて目輝かせちゃって」


「最初だけだよ。今だったら絶対辞めてるもん」


「へー。知らず知らずのうちにメルさんたちを苦しめると言うんですね。なんて残忍な人なんでしょう」


「メルを出すのは卑怯!」


「まぁ、何にせよあの魔王を4人だけで倒したのは本当に良くやってくれました。私からもお礼をお言わせてください」


「いやいいよ。私が引き受けた事だし、みんなにも助けてもらったからね」


「日本に戻るにあたっての注意ですが、あなたが召喚された時間のままです。つまり、1秒も経っていませんので頑張って思い出してくださいね」


「それはちょっと時間かかりそうだな」


「では、さようなら。また会う日まで、、」


●●●●


 女神様の言葉の後に微かな浮遊感に襲われ、目を覚ましたのはベットの上だった。


 時刻は午前3時。そう言えば女神様に起こされた時は驚いたっけな。今日は金曜日だから明日は学校だ。勉強出来るかな。


「お姉ちゃん、起きて!今日学校でしょ!もう遅刻しちゃうよ」


「ん〜、もうちょっと」


「そういうお姉ちゃんは起きない!はい起きる!」


「痛っ!」


 掴んでいた布団を引き剥がされ、地面に落ちる私。


夏葉なつは、ちょっと酷くない?私の頭が割れたらどうしてくれるつもりだったの?」


「お姉ちゃんは石頭だから問題ないの!、、別に割れたら割れたで一緒に病院ついていってあげるけど、、、」


「ごめん、後半なんて行ったの?」


 尻すぼみに小さくなる声にわたしは聞き返す。


「別に何も言ってない!」


 そう言って部屋を飛び出して行ってしまった。私は久々に会った妹ともうちょっとお話ししたかったのだが仕方ない。


 私は制服を着て階段を降りる。その先には朝ごはんのいい匂いが廊下にまで漂っていた。


「おはよー。って誰もいないか」


 どうやら夏葉はあのまま学校に行ってしまったらしい。久しぶりに両親の顔も見たかったのだが、共働きで朝早くの出勤に夜遅くの退勤なので出会えないのだ。


 私は久しぶりの日本での食事というのに1人寂しく食べる。妹の手料理、なんて素晴らしいんだろうか。


 朝ごはんを食べ終わると食器を洗って家を出る。


 その日の学校は本当に酷いものだった。友達の名前も中々出てこないし、元からできなかった勉強はもはや訳もわからない。


 その日は部活も体調不良ということで休ませてもらった。ちょっとこっちの状況を整理する必要があると思ったからだ。


 しかし、そんな考えも壊されることとなる。学校からの帰り道、道の真ん中に倒れ込んでいる見覚えのある姿との出会いによって。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る