白昼夢 ー通学路ー
「はッ、はッ」
肺が苦しい。絶えず入り込んでくる空気で、冷たくて痛い。
でもそんなこと、今は後回しだ。
とにかく恐怖から逃げ出したくて、学校から家までの道を全力で走っている。
「クソッ、クソッ!」
どう考えたっておかしい。
いくらなんでもここまでくれば、気持ちの問題などでは無いだろう。
幻覚か?
しかし、ヤバいクスリに手を出した覚えもないし、病気にかかった覚えもない。
「はあッ……はあッ……」
学校から数百メートルは離れたであろうところで、膝をつく。
全速力で駆け抜けた身体は、睡眠不足も手伝って疲労困憊だった。
ここまで来れば安心だろうか。学校の奴らも追ってくることは無いと思いたい。
少し、休みたい。頭を冷やす時間が必要だ。
無断早退だろうと何と言われようとかまわない。
とにかく、一度家で休んで冷静になろう。
そう考えた僕は、家への道を徒歩で進む。
途中、道路わきに、猫が横たわっていた。
車にはねられたらしく、既に息はしておらず、瞳孔も見開かれている。
痛ましいが構っている場合じゃない。今は自分のことで精一杯だ。
「お兄ちゃん」
通り過ぎようとすると、背後から声をかけられた。
幼い少女の声だ。
「あそこに、ねこさんが倒れているよ」
少女は僕の制服の裾を引っ張り、何とかしてあげて欲しい、とでも言いたげな様子。
「ごめん、今急いでて」
少女に努めて優しく言い諭そうとした。
「それに、あの猫さんはもう亡くなっているんだ。もうきっと、天国に旅立ってしまったよ」
天国だのあの世だのは信じないが、こうでも言って諦めてもらわないと困る。
「なんで、そんなこと言うの?」
気に障ったのか、少女は不満気に言葉を発し、見る見るうちにあどけない顔を歪ませ、大粒の涙を流し始めた。
サイレンのような大きな泣き声が、一帯に響き渡る。
「あ、いたいた」
どこからともなく大人の女性の声が聞こえてくる。
「うちの子がすみません」
どうやらこの少女の母親のようだった。よしよし、となだめるようにして、我が子の背中を撫でている。
「ところで」
そこで一旦は言葉を区切り――
「「関係者ノ方デスヨネ?」」
母子共々こちらに顔を向け、その言葉を呟いた。
その目は一切の輝きを失い、クラスメイトや担任と同じように、漆黒に染まっていた。
「「関係者ノ方デスカ? 関係者ノ方デス? 関係者ノ方ナンデスヨネ?」」
後ずさりしていると、親子は執拗に確認するかのように、僕の方ににじり寄ってくる。
更に、親子の後方から何か異様な気配が迫ってくるのを感じ、目を向ける。
同じように漆黒の目をした、僕のクラスの生徒、そして担任が居た。
「居タ」
「居マシタネ」
「関係者ノ方デショウカ」
アスファルトを踏み鳴らし、異常者集団は僕に迫ってくる。
その光景たるや、昨夜の夢が可愛く思えるほどの恐ろしさだった。
クラスのメンバーだけかと思いきや、その後ろから、更に見知らぬ人々の顔まで見えてくる。
すくみそうになる脚を必死で動かし、僕は自宅まで駆け抜けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます