白昼夢 ー学校ー
幼馴染と別れ、各々のクラスへと向かう。
自分のクラスである1年2組が近づくと、何やら異様な気配を感じた。
教室の入り口を開けると、がやがやと騒がしい声。
騒ぎの中心に目を向けると、ある男子生徒の机の上に、花びんが置いてあった。
当然のごとく花びんには花が挿してあり、男子生徒への嫌がらせ、もしくは面白半分でやんちゃな生徒がそこに置いたものだと思われた。
その男子生徒はしばらく不登校となっており、はや数週間ほど彼の顔を見ていない。
教室に担任教師が来たところで、その机を一瞥すると、群がっていたクラスメイト達は席に着いた。
「突然ですが、皆さんにお話があります」
チャイムが鳴り、始まったホームルーム。担任は神妙な面持ちで語り始める。このクラスでいじめが起きている、と。
「この件に関して、何か知っていることはありますか?」
不自然なまでの沈黙が広がる。
僕はそっと左右に視線を振り、周囲を見渡してみたが、担任の問いかけに反応する者は一人としていない。まあ、そうなるだろう。
それで再度、担任の顔を見ると。
その目は大きく見開かれ、僕だけをにらみつけていた。
瞳は漆黒に染まっており、底知れない、闇の色をしていた。
普段の担任の姿では無い。まるで得体の知れない怪人が、目の前にいるようだった。
ナニカ知ッテイルナ?
口は開いていないはずなのに、低い声、それも本来の声とは違う声で、担任が喋っているように感じた。
しかし、にらまれる筋合いはない。
彼のことなど、ほとんど知らない。
彼と僕との接点と言えば、彼がテスト前に消しゴムを無くしたと言って、僕はそれに対して「予備を持っていないから、ごめんね」とやんわり断ったことくらいだ。
そんなことをいじめにカウントされてしまえばたまったもんじゃない。
それを言ったら、僕なんかよりももっとずっと酷いことを彼にしている、このクラスの奴らの姿を僕は見ている。
だから、僕がにらまれる必要はないはずだ――。
担任がにらむべきはこいつらだろ、と、見渡した時には既に。
先ほどはうつむいていたクラスメイト達の目が、一斉に僕だけに注がれていた。
彼らの瞳は総じて、漆黒の、底知れない闇の色に塗りつぶされていた。
「ひいっ」
異様な光景に情けない声が漏れる。
第三者が見ればコミカルな反応に見えたかもしれない。
――オマエガヤッタンダヨナ?
――関係ナイダナンテ言ワセナイヨ。
――君ダッテ同罪ダカラネ。
頭の中に次々と声が降ってくる。
その間、クラスメイトたちは微動だにせず、漆黒の瞳で僕をにらみ続けていた。
「僕は関係ない」
それらを振り払うようにして、無関係を主張する。
「僕は何も知らないぞ」
気付けば立ち上がっていて、自分が制御できなくなっていた。
「おい、どうしたんだ? 体調でも悪いのか?」
先ほどと打って変わって、いつもの調子に戻った担任が言う。
「何か知っているのか? 彼のことについて」
「……いえ、何も知りません」
すみません、取り乱して。と言って席に着く。
「うーん、何か知っていそうな感じだが……君は確か」
えっと、アレだよ、アレ。と担任は何かしらを思い出そうとしている。
「先生、アレですヨネ」
担任に声をかけるクラスメイトの声が、突然、ボイスチェンジャーでも使っているかのような違和感に満ちたものとなり、体中に鳥肌が立つ。
「関係者ノコトデスヨネ」
「アア、ソレソレ。君ハ、関係者ダカラ」
担任とクラスメイト達の目が再び異様なものとなり、僕を見つめる。
その視線に耐えられなくなり、「うああ」と叫びを上げる。
それから誰の目も憚ることなく、一目散に教室から跳び出した。
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