【関係者以外立入禁止】

こばなし

プロローグ

 その看板には、ただ、「関係者以外立入禁止」とだけ書かれてある。


 登下校で使う道に立っている看板だ。

 看板の先の道はゆるやかなカーブを描いており、向こうまで見通すことはできない。

 

 看板に会社名や団体名などが書いてあれば、ここまで興味を惹かれることは無かっただろう。


 関係者とは誰なのか。その道の向こうに何があるのか。

 言葉足らずの看板だったからこそ、想像を掻き立てられるものがあった。




 降っているか、いないか程度の小雨が降る、梅雨入り前のある日の帰り道。

 

 その道をまっすぐに進めば僕の家、分岐する右の道を見つめると、いつも通り、その看板が立っていた。

 

 空を覆う厚い雲の隙間から何かが生まれそうな、そんな期待感も手伝ったのだろう。

 退屈しのぎになるかと思い、僕はその看板の忠告を無視して、その向こう側へと足を運んだ。


 待ち受けるであろう何かに胸が高鳴る。

 進むたびに、自分の中にある好奇心の風船が膨らんでいくようだった。

 軽く息を切らしながらも、一歩、また一歩とその道を進んでいく。

 なだらかな登り坂となっているその道を進んだ先には――。


 何もない空地が、ぽつんと広がっているだけだった。


 退屈な現実と言う針を刺された好奇心の風船が、ぷすぷすとしぼんでいく。

 足元に転がる石をひとつ蹴飛ばし、元来た道を引き返すことにした。

 雨は本降りの兆しを見せ、徐々に雷の音が近づいてくる。

 いずれ豪雨になるだろう。その前に、家に帰らねば。


 雨水が染み込み、ぺちゃぺちゃと気持ち悪い靴の中。

 不快さから逃げるようにして、ぬかるみ始めた歩道を駆け抜けていった。

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