第16話 『水面の祠』の探索開始

 グリア領に現れたダンジョン、通称『水面の祠』は各層の殆どが水棲モンスターで構成された『水』を起点とした場所だった。

 

 元々、ダンジョンはその土地の気候や立地に大きく影響される。

 

 何故かはまだ分かってはいないが......。

 

 海が近ければダンジョン内に水が溢れ水棲型のモンスターがメインとなったり、火山地帯なら茹だるような暑さで鉱石系の魔物などがメインとなる傾向にある筈......なんだけど。

 

 ここは違う。

 

「どう見ても森よね、ここ」

 

 水面の祠の1階層、転移陣へ足を踏み入れダンジョンへ転移した瞬間に俺達の目の前に広がったのは鬱蒼とした森だった。

 

 フォクシーさんの救援に来た時は普通の水上ダンジョンだったんだけど......いや、違う。

 

 既にあの時から森へ変質していた。

 

「なるほど、やっぱり前から予兆はあったのね」

 

 でも、流石にコレは想像してなかったなぁ。

 

「いくらなんでもデタラメすぎるわよ......」

  

 想定外の光景ではあったけれど、光の魔工具を使わなくても階層自体が明るいのは助かった。

 

 けど立ち竦んでても仕方が無いな! 調査を始めるか。

 

「そうね、少し近場の木と壁のサンプルを回収しておくわ」

  

 周囲にモンスターが居ないことを確認すると背負ったバックパックから小瓶を取り出して地面の土や木の欠片等のダンジョンの生成物を少しずつ収集して行く。

 

 それを割れないように特殊な箱の中へ仕舞い、バックパックを背負い直した。

 

 うーん、木の種類的には初めて見るな......火は着きにくそうだ。

 

「そうね、水を吸いすぎてるのかしら? 簡単に削れるし削った箇所から水が滲んでるわ」

 

 ダメだ、薪には使えない事しか分からん。

 

 こうして採取したサンプルを学都『インディシア』へ送ると専属の魔工師が解析を行い、適応した魔工具の製作が始まる。

 

 そして、それが普及して初めてダンジョン攻略が進んだと言えるのだ。

 

「それじゃあ、次は目新しいのを探しつつモンスターの調査ね」

 

 ミリシアと共にダンジョンをマッピングしつつ探索を始めるが大量の水を含んだ地面がぬかるみ非常に歩きにくい。

 

 仮にここで戦闘するとなると色々工夫が必要になるだろうな。

 

「そうね、ちなみにレオスならどうする?」

 

 うーん、とりあえず木を足場にして戦う。

 

「相変わらず参考にならないわね」

 

 じゃあミリシアは?。

 

「......そこら辺に落ちてる岩の上を移動して応戦するかしらね」

 

 それも大概だと僕は思うなぁ。

 

「うっさい! アンタよりマシよ!」

 

『グアァア!』

 

 あーあ、ミリシアが大声出すからモンスターが怒ったー。


「よし、モンスターの前にアンタを泥に埋めてやるわ」


 俺たちの緊張感のない会話を聞きつけたのか木々を薙ぎ倒して一体の熊型のモンスターが姿を現した。

 

 首元に苔を生い茂らせ、木で出来た体はギチギチと軋む音を立てながら俺たちへ一直線に走って来ていた。

 

 フォレスターベアだな。

 

「えぇフォレスターベアね」

 

 俺達はあまりにも突然に現れた想定外の敵に開いた口が塞がらない。

 

 本来は森林地帯にしか現れない珍しいモンスターで、その体から取れる木材は建材として高価で取引されている。

 

 今までダンジョンでは目撃されていなかったけど......。

 

 とりあえず様子見るから少し下がっててくれ。

 

「えぇ分かったわ、危なそうなら下がりなさいよね」

 

 はいよ、了解。


 ミリシアが岩の上を跳んで移動するのを見届けてから、腰に下げた剣を引く抜き、構えずにフォレスターベアを迎え撃つ。

 

 唸り声をあげて突進をしてくるがそれを軽く跳んで避け、すれ違いざまに背後を斬りつける。

 

 腕だけの力で振り抜かれた剣は、フォレスターベアの背中を斬り裂いた。

 

 その手応えの無さに戸惑う。


 ん? 柔らかいな。

 

 着地して倒れるフォレスターベアの頭部へ剣を突き立てる。

 

 抵抗なく刃が突き刺さり、そのまま魔石へと変わった。

 

「どうだった? 随分とアッサリ終わったけど?」

 

 なんて言うか......弱い。

 

 フォレスターベアの体は生半可な剣では太刀打ちできない程に硬質な樹木で出来ている。

 

 あの程度の力で切り裂けるはずが無い。

 

 そう考えて視線を巡らすと近くで倒れていた木が目に入った。


 何気なくそれを斬ると答えが出た。

  

 多分だけど、斬った感触はここの木と同じかもしれない。

 

「なるほどね、このダンジョン固有の亜種とでも思えば良いわね」

 

 ミリシアの言葉に頷いて、落ちた魔石を拾う。

 

 その輝きに少し違和感を覚えながらダンジョンの奥へと足を進めた。

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