第15話 レオスの黒歴史

 ミリシアが過去の悪夢を見ている同時刻、奇しくもレオスも昔の夢を見ていた。

 

 王都の商隊を壊滅させた大規模な山賊を討伐せよ。

  

『おらぁ死ね冒険者!』

 

 国王から直接発令された山賊の討伐依頼を受けて王都近郊の森へ単身出向いた『銀級冒険者』レオスは手にした剣を構えて山賊の振り下ろした斧を受け止めた。

 

 その硬直の間に山賊が2人、背後から棍棒と火の付いた松明で襲い掛かる。

 

『テメェらが死ね!』

 

 斧を剣で絡め取り奪い取ると背後から襲いかかる棍棒の男へ投げ、同時に松明を持つ男の腕を斬り落として痛みで絶叫する男を蹴り飛ばす。

 

『そらよ!』

 

 投げられた斧に怯んだ棍棒の男の首を振り上げた剣で喉を切り裂き返しの刃で斧を持っていた男の胴体を切り裂いた。

 

 臓物が飛び出し、レオスの顔も鎧も赤く染めるがお構いなしに念入りに息の根を止める。

 

『ほら、かかって来いよ。どうせテメェら全員、陽を見る事は出来ねぇんだ......なら俺のざまぁへの踏み台になれよ』

 

 煌々と目が光り、来るべき時の為に全てを取り込もうとする悪鬼の如き貪欲さ。

 

 それを肌で感じ取った山賊達は仲間が殺された事すら忘れて狂乱に陥った。

 

『なんだこのバケモンは!』

『たっ助けてくれ!』

『頼む! もう山賊からは足を洗うから......』

 

『あぁ良いぞ! 来世で頑張れよ』

 

 レオスの剣が山賊達へ襲いかかる。

 

 悲鳴をあげて抵抗する者、言葉すら忘れて逃げ惑う者、その悉く斬り殺される。

 

『人様の命で楽を覚えたテメェらに明日があると思うなよ』

 

 無数の死体の上で無表情で空を見上げるレオス。何かを思い出したように懐から小さな瓶を取り出して地面に叩きつけた。

 

 山賊達の無念で死後にアンデッドが生まれる事を防ぐ為に聖水を振りかけたのだ。

 

『コレで依頼完了......クソみたいな仕事だな』

 

 依頼内容の人数と転がる死体の数を確認したレオスはうんざりしたように溜息を吐いて血塗れのまま王都へ。

 

『パパ......ママ! どうして』

 

 子供の泣き声が聞こえた気がした。気のせいかもしれないがそれでもレオスの耳にしっかりと届いた。

 

『クソ! 今日も厄日だな』

 

 レオスが走る、声の主が手遅れにならない様に。

 

 /////////

 約束だよ! 絶対待っててね!。

 

 手を振って小さくなって行く少女を見ながらレオスは悪態を吐いた。

 

 少女に、では無く裏で動いた誰かに向けて。

 

『あぁクソ! 面倒クセェな!』

 

 少女が住んでいる村から光が立ち上る。


『コレでガキの問題は解決......次は怪しい本か』

 

 聖女の祈りが込められたロザリオが効力を発揮した時に現れる光を確認したレオスは、焚き火を消して少女に見つからないように急いで王都へ向か事にした。

 

『アレスに小言言われそうだが、緊急事態って事で勘弁してくれよな』

 

 レオスが走る。

 

 踏みしめた地面を砕きながら、その力を全て使って跳ぶように王都への道を一瞬で走破する。

 

 景色が凄まじい速度で流れる。

 

 途中ですれ違う冒険者達からは血塗れで走り抜ける姿を見られて怯えられたが、それに構わずにレオスは冒険者ギルドの扉を開けた。

 

 もちろん、冒険者ギルドの鍵は閉まっていたが、お構いなしに蹴り破る。

 

『ありがたいありがたい面倒事を持ってきやったぞ! どうせ居るんだろ、出てこいマリオン!』

 

 レオスは我が物顔でギルド内をズカズカと歩き、受付カウンターの後ろの扉も蹴り破る。

 

『クソほどめんどくせぇ厄介事だぞ!』

『......今のキミ以上に厄介な事ってあるかい?』

 

 その部屋に備え付けられたベッドの上で上半身を起こして抗議する、ボサボサ髪の青年。

 

 後に冒険者ギルドのマスターとなる『マリオン』は血塗れのレオスを見てタオルを投げつけた。

 

『まずは血を拭いてくれ、正直臭い』

『んな事はどうでも良いんだよ、それより違法魔工具が出回ってんぞ』

 

 レオスの言葉にマリオンは目を見開いて溜息を吐いた。

 

 違法魔工具、それは他者の精神へ干渉し支配する事を目的に作られた非道な物だ。

 

 その危険性から遥か昔から違法として禁じられていたはずの代物、それが出回っている。

 

 マリオンはそれを信じることが出来ずにレオスを睨むが直ぐに諦めてベッドから降りた。

 

『キミが断言するって事は間違い無いんだろうね、聞かせて何があったのか』

『聞きたく無くても聞かせてやるよ』


 レオスは先ほど会った少女と家族の事、そして聖女のロザリオが反応した事を伝える。

 

 最初は思案顔だったマリオンだったが、ロザリオの話が出た瞬間に天井を仰いだ。

 

『聖女様のロザリオが反応したって事は間違いないね』

『だろうな、あのクソ聖女は能力だけは本物だ......違法魔工具とかめんどくせぇ奴も本物って事だな』

 

 2人揃って溜息を吐いた。

 

『とりあえず報告はしたぞ』

『そうだね......キミはどう動く?』


 立ち上がり何食わぬ顔で帰ろうとしていたレオスを呼び止めてマリオンは問う。

 

 それを表情を変えずに吐き捨てるように答えた。

 

『んなもん、いつも通りだ。いちいち言わせんじゃねぇよ』

『そう、それならオレもいつも通りに言うよ。『やり過ぎないでね』』

 

 それに答えずにレオスは部屋から出ていった。

 

『まったくアイツは何をするにしても派手だね』

 

 嵐のように来て、嵐のように出ていった王都最恐の冒険者。

 

 それが巻き起こした部屋の惨状を見て苦笑いを浮かべながら呟いた。

 

『あの言葉と言動さえ治せばすぐに金級に上がれるのに勿体無い』

 

 背後から微かに聞こえた声を無視してレオスは冒険者ギルドから外へ出る。

 

 周りを見渡しても陽が登る前だからか周辺には誰も居ない。

 

 けれどレオスには関係のない事だった。すぐに商業ギルドの目の前でニコニコと笑う狐顔の子供が立っていたからだ。

 

『ふふん! レオちゃん、お疲れ様! 今回の依頼はどうだった! 血塗れだけど怪我してないよね! 冒険者ギルドから荒々しく出てきたけど何かあった! もしかしてわたしに用かな?』

『待て待て、質問が多い。後で話してやるから少し待て』

 

 物語に出てくる英雄に出会えたかの様に目を輝かせる、クフクフ笑う少女の頭を撫でながら頭を揺らす。

 

 目を回したフリをしてふざける少女を見て。

 

『フォクシー、情報を買いたい』

 

 その言葉にフォクシーはふざけるのを辞めてレオスを見上げて首を傾げた。

 

『もしかして厄介事?』

『あぁとびっきりのな』

 

『女......下手すると子供を囲っている奴と本を扱ってる商人の情報をくれ』

『うわぁ、そんな人居るの?』

『言うな、俺だって信じたくねぇ』 

 

 自分の言葉の酷さに気まずそうに目を逸らすがフォクシーが視線の先へ先回りして告げた。

 

『残念だけど......変態さんは居るよ』

『マジで?』

『マジで! わたしも声かけられたもん。変な本を見せられたし』

 

 それを聞いたレオスは慌ててフォクシーの肩を掴んだ。慌て過ぎてフォクシーの首はカクカクと揺れるが当の本人はクフフと笑っている。

 

『だっ大丈夫か! 変態野郎にその......へっ変な事されてないか!』

『だいじょぶぅだよぉー』

 

 フォクシーの言葉に慌て過ぎたと顔を少し赤くしたレオスが咳払いをしてもう一度、フォクシーに問うた。

 

『大丈夫なんだな?』

『もちろん! レオちゃんにもらったお守りが割れちゃったけど......』

 

『そのお礼じゃないけど......情報を聞きたい?』

 

 フォクシーの言葉に俺は迷わずに頷いた。

 

 /////////

 目が覚めた。

 

『あぁクソ! 面倒クセェな!』

 

 うわぁ、うわぁああ!。

 

 恥ずかしい! 恥ずかしすぎるよ俺!。

 

 なんで夢で見た! 8年前ぐらい......16歳ぐらいの香ばしい記憶を!。

 

 ヒィイ、忘れろ! 忘れるんだぁ俺!。

 

 ベッドの中で悶え苦しみながら、恥ずべき記憶の中で見た懐かしい顔を懐かしんだ。

 

『約束だよ! 絶対待っててね!』

 

 今頃どうしてるんだろうか......そういえばミリシア達の村もあそこら辺だった筈だよな。

 

 今回の件が落ち着いたら聞いてみようか。

 

 恥ずかしさは遠くへ放り投げて元気よくベッドから飛び降りる。


 よし、そうと決まれば気合を入れ直して行くか。

 

 おっミリシアだ。......どうしたんだろう? 少し機嫌が良いけど悪いような。

 

 おはようミリシア!。

 

「......バカ」

 

 朝から酷くない!?。

 

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