第19話 1.3.3 直奈if

 これは俺がタイムリープする以前の話だ。今日も俺は残業で遅くなっていた。公務員だと比較的残業が少ないと聞いていたのだが全然そんなことはなかった。普通に日によってはてっぺんまで残業することも多いし、それに比べては今日は全然早い方だった。最近は働き方改革が叫ばれているのにこの現状である。霞ヶ関に勤めているからだろうかそれとも部署によって忙しさが違う?来年は異動希望を出すかなどと電車に揺られながらぼんやり考えていた。


 俺にはお嫁さんがいる。世界一可愛いお嫁さんだ。このお嫁さんのために仕事を頑張っていると言っても過言ではなかった。どんなに仕事で苦しい場面を迎えてもそのお嫁さんの笑顔を思い出せば乗り切れるそんな栄養剤のような存在だった。


「ただいまー」


「おかえり、光介君。今日もお仕事お疲れ様」


 俺のお嫁さんである直奈の顔を見たら今まで仕事で感じていた疲れも吹き飛ぶかのようだった。


「直奈も家事ありがとう。いつも感謝してるよ」


 そう言って俺は直奈におかえりなさいのキスをする。ちなみに俺たちはいってらっしゃいのキスとおかえりなさいのキスを日課としている。軽い口ずけだったがやはり俺はこの子のことが好きなんだなと改めて思った。結婚したら愛情が冷めるという話をよく聞くが自分たちには無関係で交際しているときもイチャイチャして結婚してからもイチャイチャする、典型的なバカップルだった。


「光介君、ご飯にする?お風呂にする?それとも……?」


 俺は直奈の顔を赤らめながらそう言う姿にキュンキュンした。そして俺は直奈を抱きしめる。


「あ……光介君……ダメ……ここ玄関だよ」


 そのまま俺はキスをする。さっきの軽いキスではなく舌と舌が絡み合う深い深いキスを。


「ハァ……ハァ……光介君、来て?」


 その言葉に俺の中の理性は吹き飛んだ。


 ☆


 その後、俺は2回戦をし、夕食をとり、風呂に入っていた。直奈との思い出を振り返っていた。

直奈に対する俺の第一印象は俺の後ろをちょろちょろついてくるウザいやつというようなものだった。出産予定日が同じでかつ家が隣同士だったので親同士が仲良くなり俺の隣には常に直奈がいた。つまり俺たちは幼なじみだったのだ。物心ついた頃には光介君、光介君と言いながら後ろをついてきてた。


「光介君、大好きー。将来は光介君と結婚する!!」


 というのが直奈の口癖だった。まだ小さかった俺は直奈から向けられる好意にどう対応すればいいのか分からなかった。


「あー、はいはい。大きくなったら、大きくなったらな」


 と適当に受け流すのが習慣となっていた。


 俺の中で直奈が俺の後ろをちょろちょろついてくるウザいやつから恋愛対象に変わったのは家族旅行でのことだった。


 俺と直奈は家族ぐるみでキャンプに来ていた。

その場所は満天の星空が綺麗な場所だった。大人たちは酒を飲んでおり俺と直奈は2人きりで星空を楽しんでいた。


「わー、光介君!!お星様がいっぱい!!綺麗だねー」


 俺は直奈のその無邪気な様子に不覚にもドキリとしてしまった。


 ……あれ、こいつってこんなに可愛かったっけ。


 星空は綺麗だが直奈はもっと綺麗だった。


 これが俺の初恋だった。


 だが別れは突然だった。直奈の家が転勤で東京に引っ越すことになったのである。


「ううっ……ひっぐ……ひっぐ」


 別れの日、直奈は泣きじゃくっていた。


「直奈、泣きやめよ……」


「だって……だって〜」


「直奈、聞いてくれ」


「え?」


 俺は真剣な顔で直奈に話しかける。


「俺は大きくなったら絶対直奈に会いにいく。それまではこれを俺だと思ってくれ」


 そう言って俺は四つ葉のクローバーがデザインされたペンダントを手渡す。それにはローマ字でkousukeと印刷されていた。


「直奈がkousukeの分を預かっててくれ。俺がsugunaの分を持っておく。再会したらこれを自分の分と交換しよう。……あとこの2つのペンダントを合わせたらハートマークになってLoveになるだろ」


「光介君、そ、それって……!?」


「好きだ、直奈」


「ええええ!?本当!?」


「ああ、本当だ。俺は直奈のことを愛してる」


「嬉しい……。光介君からそんな言葉聞けるなんて思わなかったよう。一方通行の恋だと思ってたから……」


「それは本当に申し訳なかった。俺がこの気持ちに気づいたのがこのまえの家族旅行だったんだ。長いこと待たせて本当にごめん」


「光介君、謝らなくていいよ、でももう一度好きだって言ってくれないかな?」


「俺は直奈のことが好きだ」


「えへ……えへへ、嬉しい。でもでも私の方がずっとずっと光介君のこと大好きなんだからね!!」


「このペンダントを見せ合うことでもし大きくなってお互いの顔を忘れたとしても一発で俺たちだって分かるだろ?だからこれを俺だと思って大切に持っててくれないか?」


「うん、分かった」


 俺は小指を差し出す。直奈も小指を差し出してくれた。


「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます!!ゆーび切った!!」」


 結局、この後、直奈に再会するのは10年後のことになる。




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