馬鹿な天才

舟木 長介

馬鹿な天才

 私は天才だ。


はっきり言ってアインシュタインだって目じゃない。

実際、私のいままでの功績を見せれば、多くの者は首を縦に振るだろう。

だが、それでも過去の天才たちの方が、知力が勝っているという者は少なからずいる。

そして、こういう輩は決まって私に悪魔の証明を差し向ける。

「君が実際に、過去の天才たちを打ち負かすところを見られたなら認めよう」

死人と知恵比べすることは不可能だと、高を括ってこのように話すのだ。


 普通の天才ならそんな戯言、凡夫の僻みだと無視するところだが、

しかし私は真の天才だ。

ここはひとつ、不可能を可能にしてやろうではないか。


 そう考えた私はとある計画を実行に移すことにした。


 それは……

 

 タイムマシンの開発だ。


これが完成したならば、私が人類史上で一番の天才だと証明することができる。

「よし……タイムマシンなど、すぐに完成させてやるぞ」

そうひとりごちると、私はさっそくパソコンに向かう。

ちょうどその時だった。


 背後で突然光が弾けた。私は慌てて後ろを振り向く。

そこには見知しらぬ……いや、どこか祖父に似た老人と、見たこともない機械が現れていた。

私はこの光景を見てすぐさま思い至った。


これは未来の私、そして未来の私の作ったタイムマシンだと。


「なるほど……真の天才である私が、タイムマシンを作ると心に決めたのだから、それは完成したのと同義という訳か!」

「まったくその通りだ! 私にしては随分時間がかかってしまったが、過去の私に一言成功を伝えたくてな」

私は未来の自分と抱き合って喜びを分かち合う。


「そうかそうか! 私なら成し遂げると思っていたが、ひと安心だ」

「ああ、さすが私と自分を褒めておこう。それと……念願だった過去の天才たちとの勝負だが……」

「皆まで言うな。結果はわかり切っているさ」

「ふふふ……それもそうだな」

お互いに笑いあう私たち。

「しかし、未来の私よ……随分と老けたな……」

「まあ、致し方ないさ」

「ふむ……だが、タイムマシンが出来上がるのに、ここまで時間がかかるとは……これは世界の損失かもしれないぞ」

「過去の私よ。どういうことだ?」

「つまり、タイムマシンを作るよりも、もっと別の何かをした方が、有意義なのではないか?」

「何を言っているんだ、私?」

「つまり、私が真摯に取り組めばタイムマシンができることは立った今証明されたのだから、もう作る必要はないだろう?」


「あ! 馬鹿――」


「何!? 馬鹿というやつが馬鹿なん……あれ?」


私は先ほどまで誰かと話していたはずだ。

しかし目の前には誰もいない。

それはそうだ。私の部屋なのだから。

「…………? まあいいか」

私は頭を切り替え、自身が比類なき天才であると証明するため思索を始めた。


 私は天才だ。


はっきり言ってアインシュタインだって目じゃない。

実際、私のいままでの功績を見せれば、多くの者は首を縦に振るだろう。

だが、それでも過去の天才たちの方が、知力が勝っているという者は少なからずいる。

そして、こういう輩は決まって私に悪魔の証明を差し向ける。

「君が実際に、過去の天才たちを打ち負かすところを見られたなら認めよう」

死人と知恵比べすることは不可能だと、高を括ってこのように話すのだ。


 普通の天才ならそんな戯言、凡夫の僻みだと無視するところだが、

しかし私は真の天才だ。

ここはひとつ、不可能を可能にしてやろうではないか。


 そう考えた私はとある計画を実行に移すことにした。


 それは……


 

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