幕間1 全ての始まり
ときたま雲の隙間から差し込む月明かりに照らされた広場に集まっている人々。
全身を黒のローブに包み、頭から被っているフードでその表情どころか性別すらも窺い知ることが出来ない。
地面に描かれた魔法陣を取り囲むように並び、薄明りの中で口々に呪文を唱えている様は、一見にして異様なものだった。
やがて魔法陣は強烈な輝きを発しだしたが――蠟燭の火が消えるように、不意にその輝きを無くした。
そして、皆力尽きた様に倒れていく。
「これは……どうなったのだ?」
その様子をずっと離れた位置で見守っていた初老の男。
「陛下……失敗でございます」
それを受けるように若い男が答える。
「術は確かに発動しましたが、全てを完遂させる為には魔力が足りませんでした……」
その口調には悔しさが滲み出る。
「魔力が足りないだと?我が国の魔導士の中でも最高位にある十二席全員で挑んだのだぞ!?それでも足りなかったと申すのか?」
陛下と呼ばれた男は信じられないという表情だ。
「私の見積もりが甘かった――いえ、甘すぎました。実際に試してみるまで分からなかったのというのは私の完全な落ち度でございますが、これを成す為には今の数百倍の魔力が必要と思われます……」
「な、数百倍だと!?そのような馬鹿げた魔力量をたった十二人で補うことなど不可能ではないか!!」
「いえ……方法はございます。ですが、しかし――」
よほど言いにくいことなのか、どうにもその物言いははっきりしない。
「構わぬ!方法があるなら言ってみよ!その方法を採用するかはそれを聞いてからだ」
「は!それでは――」
有無を言わせぬ強い口調に覚悟を決めて話し出す。
「このエトラの地は地脈が集まり、大陸の中でも魔力が集中しやすい場所でございます」
「そんなことは承知しておる。そのせいで強力な魔物が発生しやすく、その対抗策として異界より力あるものを喚び出そうとしておるのではないか」
「はい、その中でもこの王宮のある場所は更に魔力が集まりやすくなっております。それゆえこの場所が最適と考えたのです」
「……結論を言え」
何となく言わんとしていることが分かってきていた。
「これよりこの地に魔石を核として仕込み、集まってくる魔力を素に十二の魔結晶を作ります。それを用いれば十二人の魔導士でことを成すことが出来るでしょう。しかし……」
「どれほどの時が必要だ?」
言い淀んだ理由は解っていた。
「申し上げにくいのですが……百年を超える時が必要と考えます」
ふぅと大きなため息。
途中から予想出来ていた答えとはいえ、その落胆は大きかった。
「人に頼らずに自分たちで何とかしろということか。この地に建国を果たして二十年、まだまだ運命の女神は楽をさせてはくれぬとみえる」
それは自嘲を含んだような声。
「仕方がない、この老体に鞭打ってでも命尽きるまで王としてこの国を護ってみせようぞ」
誰にともなく、いや、自分自身を鼓舞する為にそう宣言する。
「だが、いつの日か、我が子孫が国の窮地を迎えた時の為に備えて、そなたの言を採用するとしよう。そしてシリウスよ、ロバリーハート国初代国王アンブレイカブル=ロバリーハートの名においてこの魔法陣の管理を命じる。その永き命をもって、いつの日かその時を見極めよ」
「は!この身命にかけて!」
「我亡き後のこの国の未来を頼んだぞ」
最後の言葉は、月が隠れ暗闇に沈む世界で優しく響いた。
そして、その時を迎えるまで、400年という月日が流れることになるのだった。
魔力不足で不完全な状態で発動した召喚術は、それでもその役割を果たすべく異世界へと飛んでいた。
そして一人の男を見つける。
肉体的にも弱く、魔力の欠片も感じない男だったが、これならば今の不完全な状態であっても連れ帰ることが出来るはずだ。
本来、魔法に自我などあろうはずもない。
しかし、それは最初から明確な意識を持って目的を成そうとしていた。
転移させるためにその男の身体を包み込み、いざ転移を実行しようとした。
その瞬間、男はふらついて足下を踏み外し、階段を激しく滑落していった。
虚ろな目で虚空を見つめ、ぴくりとも動かない男。
その生命は今にも終わりを迎えようとしていた。
この体はもう駄目だ。とても転移に耐えられない。
魂だけなら?その方が簡単だ。
そして、魔力で肉体作り、その中に魂を入れてしまえばいい。
存在は人間とは別のものになってしまうが、見た目が同じなら問題は無いだろう。
不完全に発動した魔法に奇跡的に宿った意識は、やはりどこか欠落のある不完全なものだった。
そして男の魂を元の世界へと転移させる。
無事に転移を終え、残った自分自身を男の肉体へと変換させる。
役割を終えた意識は眠るように消えていった。
そして、男は無事に新たな肉体を手に入れて異世界へ転生することに成功した。
召喚されたエトラの地ではなく、魔族と魔物たちの住む異世界へ。
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