2階の襲撃犯
現状自分たちの方が怪しいという事実に悩みつつもユウたち6人はガス率いる
提案したユウでさえ追いかけるのはもう止めようかと思い始めていた頃、ついに状況に変化が現れた。とある部屋から扉をこっそり開けて通路を覗いたところ、非常に混沌とした状況だったのだ。
その通路では、
扉の手前から覗いていたユウはガスの懐から伸びる淡い光の線に気を取られた。今までとは違ってほぼ真上の天井を指している。
ハリソンと交代して通路の様子を窺っていたケネスは舌打ちした。しかめっ面のまま扉から少し離れる。
「あれじゃ何がどうなってんかわかんねぇな」
「奥の3人を助けようとしているように見えるが、偶然通りかかったんだろうか?」
同じく扉から離れていたハリソンが首を傾げた。状況的には偶然のように見える。ガスたちが善意だけで助けるようには思えなかったが、何らかの見返りを求めるつもりで助けようとしている可能性なら充分にあった。
通路の様子を見て戻って来たジュードが難しい顔をしながら口を開く。
「ガスたちが単純に人助けをしようとしてるのなら助けるべきなんだろうが、な」
「そこが引っかかるんだよなぁ。どう見ても魔物に襲われてる冒険者を助けようとしてるぜ、あれ」
「ガスたちに先入観を持ってる俺たちの方に問題があるのか。ケネス、お前の勘はどうなんだ?」
「まだわかんねぇな。怪しいとは思うんだが」
「しかしこれはもどかしいな。人助けだとはっきりわかっていたら加勢するんだが」
動くに動けない状況に陥ったことを自覚したケネスとジュードが悩ましげに呻いた。
やはり扉の向こう側を見てきたキャロルが口を挟んでくる。
「
「起き上がれなさそうな3人のこともあるから、ガスたちが本当に危なくなったら割って入ろうぜ」
仲間の話を聞いたケネスはそう結論づけた。周囲にいたメンバーもうなずく。
やがて戦いはガスたちの勝利で終わった。最後の魔物が倒れると戦っていた6人が歓声を上げる。
立ち上がれなかった3人のうち、1人は
本来ならこれで終わりである。後は動けない2人を助けて
しかし、ユウたち6人はまだ立ち去れない。ガスたちがこれからどう動くのかわからないからだ。
扉の向こう側を覗いていたユウは
それを鼻から下の顔に覆うように被せて後頭部で端を結ぶ。それから腰にある最後の1つである悪臭玉を手にした。今まで残っていた最後の1つである。
「みんな、もしガスたちが何か悪さをしようとしたら僕が悪臭玉を投げるよ。それでしばらくあいつらは苦しむだろうから、その間に取り押さえよう」
「なかなかエグいのを持ってるな。助けるヤツも苦しむだろうがしょうがねぇか。みんな、ユウの案で行くぜ」
「ガスともう1人くらいは最低生かそう。冒険者ギルドに突き出して調べてもらうんだ」
ユウの提案にケネスとジュードが乗った。他の3人も黙ってうなずく。
その間にも通路の状況は動き続けた。剣を手にしたままのガスがいやらしい笑みを浮かべながら床に座る2人に近づく。
「よぉ、まだ生きてたんだな」
「助かったよ。1人は残念だったが」
「そうでもねぇよ。すぐにてめぇもこうなるんだからな」
通路の奥から聞こえてくるかすかな声を聞いたユウは息を飲んだ。代表してしゃべるガス以外のメンバーはにやにやしながらその様子を眺めている。いや、2人ほどは魔物に殺された冒険者の死体を漁り始めていた。
今からでは走っても間に合わないと判断したユウは扉を勢い良く開けて悪臭玉を全力で投げる。しかし、扉を開けた時点で生き残りのうちの1人はガスの剣で首筋を切られて倒れてしまった。
放物線を描いて床に落ちようとする悪臭玉に突撃するかのようにユウが走り出す。床にぶつかった玉から悪臭が立ちこめる途中で突撃することになるがそのための準備はした。迷うことなく突っ込む。
「あああ!」
今になってユウたちに気付いた
破裂した悪臭玉は強い刺激臭と共に周囲へと煙を拡散した。それに顔を包まれた者たちが次々に悲鳴を上げてもだえていく。
「あああ!? くっせぇぇぇ!!」
悪臭玉の煙を吸い込んだガスが思い切り叫んだ。そのためますます煙を吸い込むことになり、涙と鼻水と涎が止まらなくなる。
大混乱に陥った
勢い良く倒れたガスが床を転がって苦しんでいるところにユウが馬乗りになる。剣からダガーに持ち替えて両腕を刺し、抵抗できなくしてから殴りつけた。
その頃になると周囲でも
悪臭玉の効果が完全になくなる前にユウたち6人の奇襲は終わる。
自分で傷つけたガスの両腕を手荒く治療したユウは同時に短く切った麻の紐で腕を縛る。同じようにアダムも縛り上げた。
その間にジュードが生き残った被害者に片膝を付いて声をかける。
「げほっ、おい、大丈夫か?」
「かはっ、けほっ! 何だよこれ、ひっでぇな!」
「間に合いそうになかったから悪臭玉を使ったんだ。しばらくしたら完全に切れる」
「悪臭玉!?
苦しみながらも被害者の男が反論した。助けてもらったとはいえ、突然の不意打ちに巻き込まれたのだから言い返したくもなる。
渋面を作ったケネスが周囲の状況を見て回った。仲間は全員無事である。
「ひっでぇ臭いだな、こりゃ。とりあえず、作戦は成功したわけだが、ガス、まさかお前らが襲撃犯だったとはなぁ」
「ちくしょうテメェら、ブッ殺してやる!」
「んな有様でどうやってぶっ殺すんだよ。バカか、てめぇは」
「貴族様に逆らったらどうなるかわかってんのかテメェ!」
「貴族様? どこの誰だよ」
冷めた様子で受け答えしていたケネスの問いかけに、それまで暴れていたガスが急におとなしくなった。口を開けようとしては閉じることを繰り返す。
その様子を近くで見ていたユウはあまり会話を聞いていなかった。それよりもガスの腰の袋から伸びる淡い光の線に目を向けている。それはやはりまだ天井を指していた。
間近でそれを見たことがないユウは気になってガスの腰の袋に手を伸ばす。
「おいやめろ! それに触るんじゃねぇ! 返せ!」
「これは、水晶?」
暴れるガスから離れたユウは袋から取り出した1つの透明な玉を見つめた。手のひらに収まる程度の大きさの丸い透明な水晶だ。それが全体的に光り、一点に向けて淡い光の線を放っている。
興味を示したのはユウだけではなかった。ジュードも近寄ってくる。
「ユウ、それは?」
「水晶なんだろうけど、普通は光らないよね。もしかして、魔法の道具かな?」
「なんであいつが持ってるんだ?」
「さぁ? さっき言っていた貴族様からもらったのかな」
つぶやきながらユウがガスに目を向けると当人は途端におとなしくなった。あれだけ暴れていたのに震えながら黙り込む。
貴族という言葉でユウが最初に思い浮かべたのは中途半端に禿げた頭の不信感丸出しの顔だった。
何にせよ、今は襲撃犯と被害者と証拠の品をここから送り出さないといけない。
ユウは光る水晶を自分の懐にしまった。
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