転移魔法陣の探索と魔石の収集
動作不安定とスキエントが判断した転移魔法陣のある部屋から離れて、ユウは指示を受けながら通路を歩いていた。頭上で輝く光の玉のおかげで悪いなりに視界は安定して確保できている。
「スキエント、魔法陣のある部屋って行ける範囲だとどのくらいあるの?」
「さっきのを除いて2ヵ所だな。1つの
「無いものねだりをしても仕方ないから、今は1つずつ確認していこう」
「そうだな。次を左に曲がってくれ」
「こっちってさっき魔物がいなかった?」
「あー確かに。となると、回り道になるな。そのまままっすぐ進んでくれ」
広いとはいえ、限られた範囲を往来しているユウにも見知った通路というものが増えていた。魔物に追いかけられた嫌な記憶を思い出しながら危険を指摘して同じ過ちを避ける。
もう1度回り道をして2人は転移の間にようやくたどり着いた。期待しながら中へ入るとすぐに落胆する。半分が土石で埋まっていたのだ。見るからに使えないことがわかる。
「あーそうだよね。通路が土砂で埋まっているんだから、部屋だって埋まっていてもおかしくないよね」
「おかしくはないが、できれば無事でいてほしかった。仕方ない、もう1つの所に行こう」
小さくため息をついたスキエントがユウを促した。使えない魔法陣のそばに立っていても転移はできない。別の転移の間の行き先を教えつつ歩く。
少し遠い場所にあるもう1つの転移の間は他の2ヵ所に比べてきれいな方だった。もちろん壁や天井に亀裂はあるが、埃が積もっている以外は転移魔法陣もきれいに残っている。
「他の2つに比べてずっと状態がいいな! これならまともに動いてくれそうだ! ユウ、そっちから埃を掃いてくれ」
「ほうきは持ってないから足で横に寄せるくらいしかできないよ?」
「それでもいい。うぁっぷ、けほ」
しゃべりながら埃を足で魔法陣からかき出していたスキエントが舞った埃でむせた。それを見ていたユウはゆっくりと足を動かして埃が舞わないようにしていたが、力加減を間違えたときに同じくむせる。地味に厄介な作業だった。
埃を取り除くとスキエントが更に転移魔法陣を丁寧に見ていく。その顔は若干嬉しげだった。時間をかけて一通り見終わるとユウへと顔を向ける。
「この魔法陣は使えそうだ。あとは動力源の魔石があれば動くはずだぞ」
「となると、次は魔石の間だよね。ここからだと遠いの?」
「そんなに遠くはない。化け物がいなければあまり時間はかからないだろう」
「魔物かぁ。回り道しても通れるんだったらいいんだけどな」
この遺跡に入ってから厄介な魔物にしか出会っていないユウは儚い希望をつぶやいた。
脱出のための大きな発見をした後、ユウはスキエントの案内で魔石の間へと向かう。途中、
中に入った2人は目を見張る。かつて都市を維持するために使っていた魔石はすっかり砕け散って散乱していた。大小様々な半透明の灰色をした魔石の破片が部屋いっぱいに広がっている。
「ここが魔石の間?」
「そうなんだが、これはひどいな。使える魔石がいくつあるやら」
室内の風景を見た2人の驚きは正反対だった。ユウは瞳を輝かせ、スキエントは大きく肩を落としている。
まるで床に敷き詰められたかのように散らばっている魔石の破片をユウは1つ拾い上げた。大きさは目測で4イテック以上ある。
「すごい、魔石がこんなにある。全部持ち帰れたら大金持ちになれそう」
「なんだって? こんな割れた使えない破片が換金できるのか?」
「うん! これ4つで銅貨1枚になるんだ」
「どう見ても廃品だろう。ユウの言う銅貨の価値はわからないが、本当にそんな物に対価を支払う者がいるのか?」
「みんなこれを手に入れるためにあちこちの地面を掘り出していたんだよ。それがここにこれだけあるって知ったらなんて思うかな」
「待て。地面から掘り出していた? 魔石は普通作る物だろう。もちろん天然の物があることは知っているが、安定して魔力供給をするなら加工品を使うのではないのか?」
「それが、地面から掘り出される魔石って人工の物らしいんだ。それが森の地面のあちこちで当たり前のように採れるんだよ」
「ユウ、私はお前が何を言っているのかわからない。天然の物ではなく人工の物が地面の中から採れるのか? なぜ?」
「それがわからないらしいんだよ。僕は薬草を採る方が中心だったから、そういうものなんだとしか思わなかったし」
「一体外の世界はどうなっているんだ」
まったく理解できないといった様子のスキエントが天井を仰いだ。過去と現在の違いに追いつけないでいる。
「ところで、スキエントの言う魔石ってどんな物なの?」
「握り拳程度の大きさで透明な魔石だ。これが最低4つ、できれば8つ欲しい」
「中魔石くらいか。それで透明なの? この灰色みたいな色じゃなくて?」
「それは完全に濁ってしまって使い物にならない。確かに魔力は内包しているが、そんな低純度では魔法陣は動かないぞ」
「これって低純度なんだ」
「純度の高い物ほど透明になるのが魔石だ。これは基本だから覚えておくといい」
「この中から探すんだ。見つけられるかなぁ」
「見つけないと外に出られないんだから、探すしかないぞ」
嘆息に正論をぶつけられたユウは悲しそうな表情を浮かべた。しかし、スキエントが使える魔石を探し始めるとそれに続く。
足下には宝の山が敷き詰められているが、今のユウに必要なのはこの破片ではない。握り拳程度の大きさで透明な魔石を探すために破片をかき分ける。
天井近くで光の玉が室内を照らす中、2人は部屋の反対側から少しずつ調べていった。ユウなどは早々に
捜索の進捗は良くなかった。ひたすら地味な作業なので気が滅入る。
「スキエント、そっちは見つかった?」
「駄目だな。たまに砕けていない魔石は見つかるが、色が濁っていたりひびが入っていたりして使えない。ユウの方はどうなんだ?」
「僕の方も同じだよ。せっかくのお宝の山なのに今は必要ないって悲しいなぁ。あれ?」
「どうした?」
「もしかしてこれでいいの?」
部屋の隅近くで見つけた握り拳程度の魔石を手に取ってユウは立ち上がった。近寄ってきたスキエントにそれを手渡すと目を見開かれる。
「おお、これだ! どこで見つけた?」
「こっちだよ。この辺りにあったんだ」
「なるほど。なら更に探してくれ。もしかしたらまだあるかもしれない」
「どこかにまとまって残っていたら楽なんだけどな」
「まったくだ。最低あと3つ、できれば7つ手に入れたい。その調子で頼むぞ」
目を輝かせたスキエントから褒められたユウは嬉しそうにうなずいた。背嚢の脇に探し出した魔石を置くと捜索を再開する。
その後、ユウは更に3つ魔石を見つけ、スキエントは2つ発見した。合計で6つの使える魔石を手に入れたことになる。
この結果にスキエントは悩ましげな表情を浮かべた。
最低限以上の魔石が見つかって喜んでいるユウは不思議そうな顔で尋ねる。
「どうしたの? これで外に出られるんでしょ」
「ああ、確かにそうだ。しかしこれは、どうにも諦めきれない結果だと思ってな」
「何が?」
「あと2つで8つ揃うだろう。これだけあれば万全だからだ。1人で4つずつ魔石を使えると確実に魔法陣は動かせるし、少なくとも魔力不足で問題が起きることはないからな」
「それじゃ、別の魔石保管庫でまた探す?」
「そうしたい。が、構わないか?」
「いいよ。危険な状況だけど、まだそこまで追い詰められているわけじゃないから」
「よし、それならもう1つの魔石保管庫に行ってみよう。この調子なら残り2つくらいは見つけられそうだ」
希望で目を輝かせたスキエントが力強くうなずいた。
すぐさま見つけた魔石を背嚢に入れたユウはそれを背負おうとする。しかし、途中でその動作を止めた。視線は床に向いている。
「スキエント、ちょっと相談があるんだけどいいかな?」
「どうした?」
「ちょっとだけ時間をもらえないかな? ここの魔石を拾っていきたいんだ」
「もう都市も滅んだみたいだから構わないだろうが、これが欲しいのか?」
「さっきも言ったでしょ、これがお金になるって」
「そういえば」
「ちょっとだけでいいんだ。どうせ重くてたくさんは持てないし」
「わかった。その間待つとしよう」
「ありがとう!」
許可を得たユウは持ち上げかけていた背嚢を下ろして床に広がる魔石を拾い始めた。できるだけ大きな物を集めていく。
その様子を見ていたスキエントはわからないといった様子で首を横に振ったが、すぐに壁にもたれてじっと待った。
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