主力が抜けた後の戦い
探検隊の隊長と副隊長が臨時パーティを編成して遺跡へと潜った。残されたサウロとプリモが地上で拠点の指揮を執る。探検隊全体の統括をサウロが、冒険者の管理をプリモが分担することになっていた。
この中でプリモは拠点から少し離れている遺跡の入り口にも警護の者を配置する。具体的には、直衛戦士団の戦士1名とホレスのパーティ3人だ。他の者たちは拠点でそれぞれの作業を担った。
夕方になると拠点と遺跡の入り口に
日没直前に見張り番から解放されたユウがブレントと一緒に荷役人足の作った粥を受け取る。拠点に腰を据えたことで温かい食事を作れるようになったのだ。
小さな岩へ腰を下ろして2人は椀の粥をすする。
「はぁ、温まるね」
「やっとまともな飯にありつけたな。やっぱりこういうのじゃないと力が出ないよ」
「これで肉がもっと入っていたら良かったのにな」
「俺、町に帰ったら肉入りスープを食べるぞ」
「それはいいね。後はひたすら拠点を警備かぁ。何も襲ってこなかったら楽でいいのにな」
2人が雑談しながら粥をすすっていると日が暮れた。夕食後は仮眠を取って休む。
休憩時間の終わり、見張り番のために起こされたユウは目を覚ますと
「ブレント、行こう。今回は北の方だよ」
「うう、寒い。篝火で温まってからにしたいなぁ」
「だったら起こされる前に起きないとね。次の休憩時間にやったら」
「
「くそ、こっち側からも来たぞ! 2体いやがる!」
のんきなユウの言葉をかき消すように見張りに付いていた冒険者たちの叫び声が上がった。その場が一気に緊張する。
バレリアノの高弟も魔法は使えるが1度に1体ずつだ。プリモと直衛戦士団の戦士に守られながらサウロは最も近い
それを見たユウは他の2体の相手をするために別の方角へ足を向けた。戦えない荷役人足のために時間稼ぎをしなければならない。
暗闇でよく見えない上に足場が悪いので走れないのがユウにはもどかしかった。しかし、近場なので時間をかけずに現場に着く。すると、人間の倍ほどもある
離れた所に遺跡の入り口前に設置された篝火の明かりを目にしながら、ユウは戦場の惨状を目の当たりにする。冒険者2人は岩場に倒れてて動かず、1人だけが逃げ回りながら
2体のうち1体の気を引きつけながらユウが叫ぶ。
「
「ユウか! 助かる! ヘイデンだ! 俺1人だけになっちまった!」
「こっちの1体は引き受けます! そっちはサウロ様のところへ誘導して!」
「わかった! 足を滑らすなよ! それで仲間が死んだ!」
暗闇で相手の姿がほぼ見えない中、ユウは声だけ交わして襲撃者と対峙した。背後から破裂音と歓声が聞こえたことから1体は倒されたことを知る。
昼間とは違い、視界が限られているため篝火から離れすぎるのは危険だ。苦労しながら回り込もうとするブレントの合図を待ちながら構える。あの硬い体は全身凶器のようなものだ。特に振り回される腕は注意しなければならない。
近づいてきた
「ブレント!」
「っぶねぇ! 当たったら即死だろ、これ!」
岩場で転がって攻撃を避けたブレントが顔をしかめた。足場が悪いため思うように動けていない。
背後から再び破裂音と歓声が聞こえてきたことからもう1体が倒されたことをユウは知る。これで残る
戦っているユウがそう思ったときだった。他の誰かが悲鳴のような声を上げる。
「また
楽観的な雰囲気は一瞬でかき消えた。しかも別の方角からも報告の声が上がる。まるで波状攻撃のようだ。
ブレントに狙いを定めた
一方、サウロは別の
有効な攻撃手段がなくなると後は一方的な戦いとなる。夜の戦いで視界が利かないこともあって誰も正しく戦況を把握できていなかったことも悪化に拍車をかけた。
顔を正面に向け直してユウは駆けながらブレントに叫ぶ。
「ブレント、遺跡の入り口に行くよ! ここはもう駄目だ! サウロ様もプリモ様も死んだ! 急いで!」
「嘘だろ!? くそ!」
再び
ただ、事態は更に進んでいた。遺跡の入り口にも既に1体来襲しており、直衛戦士団の戦士が1人で戦っている。その近辺の岩場には動かない冒険者が横たわっていた。
顔を引きつらせたブレントがユウに近づいて怒鳴る。
「おいどうするんだよ、あれ!?」
「遺跡の中に逃げるんだ! この様子じゃどうせ周りは囲まれてるし、足場が悪くて逃げ切れないから!」
「ちっくしょう! こんなことになるなんて!」
2人は背後に迫る
最初にブレントが板状の岩に飛び込んで滑り落ちた。その悲鳴を聞きながらユウは取り付けられた縄を手にして急いで下りる。
「ちくしょう、いってぇ!」
「うわ、やっぱり真っ暗だ!」
ブレントのうめき声を無視したユウは背嚢を背中から下ろして中を漁った。ほとんど見えないのでやりにくいが、どこに何があるのか覚えているため勘で手を動かす。
ようやく視界を確保できたことでユウは人心地付く。それからすぐにブレントの様子を窺った。右の二の腕にちょっとした裂傷があった。
「うわ、ひどいね。手当てしなきゃ」
「滑るってのは覚悟してたけど、床に叩きつけられたのはなぁ」
「松明を持っててよ。布はある?」
「背中の背嚢に入ってる。取り出してくれ」
前のめりになったブレントの背後に回ったユウは布を取り出した。自分の水袋から垂れ流した水で傷口を洗い、手拭いで丁寧に拭う。次いで自分の背嚢から傷薬の軟膏を取り出して塗る。最後は傷口に布を押し当てて包帯で巻いた。
手当を終えるとユウは取り出した物を片付けながらブレントに話しかける。
「終わったよ。これで無茶をしなければ傷は悪化しないと思うよ」
「助かった。ああ、ひどい目に遭ったなぁ」
一息ついたブレントが大きな息を吐き出した。それから板状の岩の先を見上げる。まだかすかに戦闘音がしていた。
2人の緊張が解けてしばらくすると足音が地下通路内に響いた。先の見えない奥からではない、板状の岩の裏からだ。
再び緊張したユウとブレントが足音のした方へと目を向けると、松明の明かりにホレスの姿が浮かび上がった。
目を見開く2人に両手を広げたホレスがにこやかに近づく。
「お互い大変だったよな。いや、ひどい目に遭ったぜ」
「ホレス、お前生きていたのか!」
「ああ、足を滑らせてここに転げ落ちてな。そのままこの岩の裏に隠れてたんだよ」
「仲間を見捨てて自分1人隠れてたって? 儲け話のときは人一倍しゃしゃり出てくるくせに、よくもそんなことを言えるな!」
「何言ってんだ。どうせオレたちの武器じゃかないっこないんだぞ。出ていっても死ぬだけじゃねぇか。ああ言っておくが、俺が足を滑らせる前に仲間は死んじまってたからな。直前まで必死に戦ってたんだぜ?」
「どうだかな」
まったく信用していないという態度のブレントにホレスは肩をすくめてみせた。ブレントの眉間の皺が一層険しくなるが務めて平静を保とうとしている。
「それよりも、ユウって言ったか? これから一緒に行動しようじゃないか」
「誰がお前なんかと!」
「ブレント、リーダー同士の話に下っ端が口出しするんじゃねぇ」
睨みつけられたブレントは口を開きかけたが閉じた。
一方、松明を手にしたユウは口を閉じたままだ。困惑した様子でホレスを見ていた。
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