北の台地を目指して
北の台地の探索をするために探検隊
もちろん、漫然と集まって行動しているわけではない。探検隊の構成員を適切に配置することで探索を成功させようとしている。
探検隊の前衛は6人パーティ2組と4人パーティ1組が担当し、プリモと直衛戦士団の戦士1名が指揮していた。立ち塞がる獣や魔物を粉砕するのが役目だ。
次いで中央には隊長のバレリアノ、副隊長のリカルド、高弟テルセオとサウロを含む探索員6名、そして直衛戦士団8名である。遺跡についてからが本番の者たちだ。
最後に後衛は荷役人足10人と4人パーティ1組、そして2人パーティ2組である。ユウはこちらに配置されていた。
日の出と共に出発した探検隊は一路北を目指す。未開の街道を丸1日歩き、西に向かう街道から外れて真北へ1日向かった。
ターミンドの町を出てから3日目からはいよいよ帰らずの森に入る。探検隊の中枢はもちろん、冒険者もここからは気を引き締めた。
戦える人間の大集団に向かって牙を剥いてくる獣は基本的にいないが、魔物の中には数の差を恐れず襲いかかってくるものもいる。そのような魔物に襲撃されたときは毎回立ち止まった。
森に入って3日目の昼下がり、もう何回目かの停止で探検隊は足止めされている。攻めてくる方角は大抵北からで、たまに東西からも襲ってきた。後衛のユウたちは東西からやって来た魔物を1度ずつ撃退した以外は歩きっぱなしだ。
前衛が魔物と戦っているため立ち止まっているとブレントがつぶやく。
「普段の仕事よりも楽だね」
「こんな大集団を襲う獣や魔物なんてほとんどいないしね。それに、いても大抵他のパーティが対処してくれるし」
「冒険してるって気がしないのがなぁ」
「そんなこと言われてもな。ブレントがやりたいって言ったんじゃないか」
「返す言葉がないね。でも、これは俺が思ってた冒険とは違うよ。せめて遺跡に入れたらなぁ。そうだ、これが終わったら、俺たちだけで北の台地に行かないか?」
「2人で行けそうならね。あ、終わったみたいだよ」
前方からの戦闘音がなくなったことに気付いたユウは北へと顔を向けた。出発するのはもうしばらく後だ。
探検隊がターミンドの町を出発して以来、ユウとブレントはずっと荷役人足と一緒に歩いている。雇い主の自分たちへの接し方から見て補助戦力扱いなのはわかったので、何もなければこのままだというのが2人の見解だ。
中央のリカルドから出発の号令がかかった。再び探検隊が動き始める。この日はこれ以上襲撃を受けなかった。
4日目の朝、リカルドから全員に訓示がある。ここから先には
この
訓示の最後でリカルドは冒険者たちに宣言する。
「尚、
話が終わると探検隊は出発した。誰もが白い息を吐きながら歩く。
この日、朝の間は魔物に遮られることなく進むことができた。おかげでこまめな休憩ができずに歩きっぱなしだったわけだが、探検隊全体で見れば非常に順調である。
昼休憩でユウとブレントは木の根に座って昼食を囓っていた。かじかむ手をこすりながらブレントがユウに話しかける。
「森に入ってから今日が一番順調だな」
「そうだね。でも、どうして魔物は襲ってこなくなったんだろう?」
「さすがに探検隊には勝てないってわかったんじゃないのか。どんな襲撃も楽勝で返り討ちにしてたしね」
「だといいんだけどな。何か違うような気がする」
「何かって、何が?」
「それがわからないから何かって言っているんだ。うーん、もやもやするなぁ」
危険だとわかっていても何が危険なのかわからないことにユウは身もだえた。
そんな冒険者1人のいい加減な勘で調査隊は止まらない。昼休憩が終わると再び北の台地へと進む。
その後もしばらくは順調だった。しかし、ついに昼下がりに強敵が現れる。
「
前衛からの声が後方にいるユウにまで聞こえた。少し間が空いてから戦う音が届く。
その間、中央が少し慌ただしくなり、薄黄色の麻製ローブをまとった3人が直衛戦士団の半分に守られながら前衛に向かった。
後衛にいるユウたちは樹木や草木のせいで前衛の戦いがよく見えない。ただ、人型の岩の塊が暴れているのはわずかに窺えた。
怒号と悲鳴から前衛の戦いは激しいことがユウたちにもわかる。新たな指示がない限りは待機なのでわずかな焦燥と大きな安堵が胸の内に渦巻いていた。
緊張する時間がゆっくりと流れていたが、突然大きな破裂音が後衛にも響く。続いて冒険者たちから歓声が湧いた。
首を傾げたユウが隣のブレントに話しかける。
「今の音って何だと思う?」
「リカルド隊長の話からすると、魔術師が魔法を使って
「なるほど、魔法ってどんなのかなぁ」
「ユウは見たことないのか?」
「うん、今まで一度も見たことはないよ。ブレントはあるの?」
「あるわけないだろう。この探検隊に参加するまで魔法使いに会ったことさえないんだぞ」
雑談している間に再び大きな破裂音が前方から聞こえた。またしても冒険者の歓声が湧く。しばらく間が空いて再び3度目の破裂音と歓声が耳に入った。
こうなるとユウも魔法がどんなものか気になってくる。しかし、その機会は当面なさそうだった。
強敵だったはずの
その間に、冒険者の配置換えがなされる。犠牲者の出た4人組パーティの3人が後衛に下がり、ヘイデンのパーティが前衛に上げられたのだ。
指示が出た後、後衛にやって来たパーティの代表者を見てブレントが顔をしかめる。
「あーあ、なんてこった」
「前衛にいた4人パーティってホレスのところだっけ」
一緒になってユウも見ていると、相手のホレスも気が付いた。一瞬嫌そうな顔をしたがすぐに小馬鹿にした表情になる。それを見たブレントが目を剥いた。
渋い表情のユウがブレントの肩を押さえる。
「ブレント、ちょっと待って。今は探検隊に雇われているんだから、喧嘩はまずいよ」
「くそ、わかってる」
止められたブレントが地面を蹴った。
そっぽを向く仲間をよそにユウはしばらくホレスのパーティを眺める。最悪なのは近くに配置されることだが、ヘイデンと交代ということもあって荷役人足を挟んで反対の西側だった。少なくともお互い無視できる位置だ。
その後は襲われることもなく日が暮れて野営となる。
しかし、人間側の思惑など
明け方に確認をしたところ、昼間に1人犠牲者を出したパーティから新たに2人の死亡者が出ていた。更には荷役人足にも1人犠牲者が出る。
朝から騒然となる探検隊だったが、リカルドとプリモが冒険者たちをなだめて回った。一方、荷役人足はテルセオが落ち着かせる。
ここで再び冒険者の配置換えがあった。ホレスのパーティが再び前衛に回されたのだ。3人に減った6人パーティの補填である。ホレスは渋ったが、最終的にはリカルドに命じられて前衛に向かった。
後衛の護衛が4人まで減った中、探検隊は出発する。
荷役人足の東側を歩くユウとブレントは後方を警戒しながら歩いた。あまりさえない顔のユウが不安そうにつぶやく。
「これ大丈夫なのかなぁ。じり貧になってきている気がする」
「今のところ俺たち冒険者が4人、荷役人足が1人、死んでるんだよね。まだ台地に上がってもいないのにこれか。ちょっと不安かな」
「台地の上ってどうなっているんだろう」
「そんなの行ってみないとわからないって」
何とも言えない表情のブレントが答えた。
そのとき、前方に斜面が見えてきた。前衛から順にその坂を上っていく。
ユウとブレントも黙ってその坂を上った。
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