棍棒が砕けた!
そして、及第点ということは戦力になるということだ。今までは森の中でもある意味保護されるだけだったユウも、以後は戦える者として改めて迎え入れられることになる。当然それだけ扱いは厳しい。
「あああ!」
襲いかかってくる
崩れ落ちる目の前の魔物から目を離したユウは周囲を見る。
「次、あいつ!」
「ユウ、
背後からレックスの声がユウに届いた。振り向くと
ここは
襲撃直後はともかく、その後は乱戦となっていつどこから魔物に襲われるかわからない。そんな中で仲間の位置をある程度把握しつつ戦うというのは簡単にはできなかった。
更に1匹の
「フレッド、1匹は僕がやる!」
「よっしゃ任せたぜ!」
返答の声と共にフレッドが
立ち直らせる暇を与えず、ユウはその頭にめがけて棍棒を振り抜いた。棍棒は
崩れ落ちる目の前の魔物には目もくれず、ユウは手元から完全に折れた棍棒に視線を注ぐ。長年使ってきた相棒がついに力尽きた瞬間だ。いつかはこうなると知りながら、それはまだ先の話だと勝手に思い込んでいたユウは叫ぶ。
「あああ!?」
ユウの悲鳴が夜明けの森に響いた。
戦いが終わり、討伐証明のために魔物から部位をそぎ落とすときがやってきた。ジェイク、フレッド、レックスは手慣れた様子で部位をそいでいる。
一方、ユウは砕けた棍棒の主立った部位を地面に集めて眺めていた。その隣でアーロンが両手を腰に当てている。
「あーついに折れちまったかぁ。まぁあんだけ使ってりゃ、しょーがねぇよなぁ」
「薬草採取をしていたときから使っていましたから、結構長いんですよね。2年くらい?」
「そりゃまた使い込んだもんだな。で、これからどーすんだよ?」
「どうって言われても、とりあえず帰るまではダガー1本で何とかするしかないですよね。悪臭玉は使っていいですか?」
「まだダメだな。この辺りの魔物なら俺たち4人だけでも遅れはとらねぇ。だからお前は森から出るまで
「うわぁ。厳しいですね」
「何言ってやがる。普通の冒険者ならマシになったって喜ぶところだぞ。普通は棍棒なんて使わねぇからな」
「そう言われても、僕は棍棒の方が慣れていましたから」
「確かにな。ともかく、これからはダガー1本で何とかしろ」
じっと棍棒の残骸を眺めていたユウだったが、やがてため息をついて踵を返した。
魔物の部位を集め終わると
真っ先に水袋の数を揃えたユウが渇きから解放されて久しい。今や帰りの中でも充分に喉を潤せる。昼下がりの小休止でユウは笑みを浮かべて水袋を咥えていた。
そのユウにレックスが話しかける。
「なぁ、ユウ。お前棍棒が壊れたんだろう? 次の武器は何にするんだよ?」
「え、何って、それは」
話しかけてユウは口ごもった。
通常、武器を買い換える場合は同じ武器を選ぶ。剣なら剣、斧なら斧というようにだ。そもそも余程強い動機がない限り、違う武器に乗り換える理由がない。
では、ユウの場合はというと、さすがに新たな棍棒を買うということはなかった。そうなるとどの武器を選ぶのかだが、実のところまだはっきりと決めていない。
そんなユウに対してレックスが目を輝かせる。
「どうせならよ、オレと同じ
「ああ、うん」
「レックス、やめろ。ユウには自分で選ばせるんだ」
「わかってるって、ジェイク。別に強制なんてしねぇよ。ただ、一番乗り換えやすいから勧めてるだけじゃねーか」
「確かに棍棒からの乗り換えやすさで言うなら
「だろ? フレッドの
「せめて体がもうちょいできあがってからでないとな」
水袋から口を離したジェイクがユウの体格を眺めた。大きくもなく小さくもない普通の体格だ。
自分の武器を話題に出されたフレッドがユウに顔を向けた。顔色を変えないまま話しかける。
「ユウはどんな風に考えてるんだ?」
「僕ですか? 正直なところ、色々と考えられるほど武器に詳しくないんで何とも言えません。せっかく棍棒で戦えるようになったんで同じように扱える武器がいいのはわかってますが、他の武器にも興味がありますし」
「だろうな。ただ、自分の戦い方だけじゃなくて、体格にも合った武器を選ぶんだぞ。大きすぎると扱えないし、小さすぎると威力が不足する」
「難しそうですね」
「ああ、地味に難しいな。ジェイクは体が少し小さいから手斧2本で手数を増やすようにしてるし、レックスは殴る延長線上で扱えるから
「なるほど、体格はあまり考えていませんでした」
「まぁ全部をいっぺんに考えるのは難しいからな。ただ、ユウの場合はまだ体が成長する可能性があるのも厄介だぜ」
「そっか、成長期の問題もあったんだ」
「まぁあんまり悩みすぎてわからなくなったら、とりあえず目の前のものに飛びつくってのもありだぞ。これがバカにできないんだよなぁ」
何か経験でもあるのか、フレッドが遠い目をした。
色々と話を聞いたユウは、武器1つ選ぶのにも考えなければいけないことがたくさんあることを知る。自分に扱える武器なら何でも良いと思っていたところもあるので、この助言を聞けたのは幸いだった。
ここまで考えて、まだアーロンの話を聞いていないことにユウは気付く。
「アーロン、僕の武器選びで何か助言はありますか?」
「俺か? そうだな。一番大切なのは、自分の都合を最優先にする、だな」
「え、そうなんですか? 仲間のことは考えなくてもいい?」
「自分の次だ。その武器を持って戦うのは誰だ? お前だろう? だったら、自分の戦いやすい武器を選ぶべきだ。でないと自分が仲間の足手まといになっちまう。それじゃ仲間のためにならんだろう」
「なるほど」
「これは自分勝手な考え方とはまた違うからな。そこは履き違うなよ」
「わかりました」
「ところで、ユウ、お前にとって棍棒は扱いやすかったか?」
「え? ああ、うん。どうなんだろう」
「まずはそこから考えた方がいいかもしれんな。そもそもユウに棍棒が合っていたのか。実は合っていなかったとしたら、どんな武器が合っているのか。ダガーはどうだった?」
「ダガーは、ダガーそのものより、格闘術の方が大変でした。ケヴィンさんに基礎を教わったときもそうでしたが、ジェイクと稽古しているとたまに自信がなくなっちゃって」
ユウへと向けていた顔をアーロンはジェイクへと向けた。半目で睨みつける。
「てめぇちゃんと加減してんだろーな」
「大丈夫だって、そこはちゃんとやってるから。ユウの筋は悪くないって」
「いやー、ついやっちゃうこともあんじゃねーの?」
「てめぇレックス! 余計なこと言うな!」
横から口出ししてきたレックスにジェイクが噛みついた。そのジェイクの姿をみてフレッドが笑う。
その様子を見たアーロンが呆れた。再びユウへと顔を向ける。
「まぁ今はひたすら食らいついていけ。そうしたらどうにかなる。それよりも、武器は自分に合った物を選べ。周りを気にするな」
「はい、わかりました」
「なんかありきたりな結論になっちまった。まぁいいか。よし、休憩終わり! お前ら立て! ジェイク、レックス、遊んでんじゃねぇ! 仕事中だぞ!」
立ち上がったアーロンが怒鳴った。ユウとフレッドはそれを見て笑いながら立ち上がる。
和気藹々とした雰囲気で全員が
引き続きアーロンにどやされながら他の4人は一列縦隊になる。そうして、夜明けの森の外を目指して歩き始めた。
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