記録

地球的な

我々は宇宙人である。

今回は訳あって、地球的な言葉で記録をつけている。

時間という概念は人類に譲るとして……。

便宜上「今この瞬間」を宇宙411型惑星歴1004CCB00年と定めた。

ほんの5F5E100年前までは見られなかった現象が、最近の地球ではそこかしこで見受けられるようになった。

人類は「酒」というある種の毒を定期的に体内に取り込み、よく正気を失う。

人類は「煙草」という植物を燃やしたものを吸い、自ら呼吸器を負傷させる。

人類は「薬」という化合物を使い、場当たり的な対処をする。

人類は「カネ」という集団心理を用いて、群衆を、社会を動かそうとする。

人類は「神」という存在を妄信し、時に争いの火種とする。

人類は……。

ある程度、人類についての調査が完了しここで記録を止めた我々だったが、引き上げる直前に興味深い「ある個体」を発見したのだ。

その個体とは――。

酒を飲まず、

煙草も吸わず、

薬も使わず、

カネも持たず……。

なにより神を信じていなかった。

我々はその個体を詳しく解析するため、少々手荒であったが（地球的に表現すると）「誘拐して」母船に持ち帰った。

ここまでが我々の記録である。

より正確に表現するのであれば、この記録とは「わたし」が我々に加わってから任された最初の仕事でもある。次の記録からは新しく教わった我々独自の手段で記す。

地球よ、さようなら。

（アブダクションシリーズ『記録』　おわり）