NO6 すきないろ




    「…これからどれくらい、此処にお世話になるんだろう。」


 “すまないね、急用が出来てしまったからこれからはこの子に任せるよ。“


仮面オジサンはそう言い残すと、私の肩に少し不気味な人形を乗せてにこりと笑いながら、光のない暗闇へと消えていった。



「…結局あの人は此処の場所の案内してくれないのね…というかこのぬいぐるみ…家に飾ってたものよりも少し重いような…」


「む、しつれいナやつだナ!!ただの食材フゼ―がズにノルナ!」


肩に更に重みが増した。



「え、ぁわ!?ちょ、え?…此処…へんなもの多すぎるよ…何なのこいつ…え、ほんとに喋ってたのよね?それとも喋る玩具なの?」


ぬいぐるみを両手で抱きかかえながら目を合わせる。



すると、ぬいぐるみの目がぎょろりと虫が蠢く様に回り、シルクのような優しいさわり心地の素材感であった身体は、威嚇する動物の如く一気に触り心地が悪くなってしまった。



「失礼なショクザイだな…折角オレサマが此処をあんなしテやるんだカラ、もう少しは大人しくしとケ!じゃないと、最後にジンニク加工室につれていくカラナ!!!」


「えぇと…大人しくすればいいってこと…?」


なんだかニーチェと性格が似ているような。

何故か少し可愛くも見えてきた。


「そうダ!! ――ヨシ、これからオマエをつれて、館内をアンナイしてやロウ!!」


そういうと、ぬいぐるみは私の髪をぐいぐいと強く引っ張りながら、口答で場所を案内しつつ、耳元でケタケタと笑いながら深夜の芸術館ツアーが始まった。





            ***





「そうイや、オマエは名前なンテいうんダよ、こたヱろ!!」


幾つか室内を訪れ、“


今日のツアー最後には特別に作品の飾られている部屋へアンナイしてやロウ“


ということで、目的地に向かっているときに耳元にテレビの砂嵐のような声が聞こえてきた。



「ノ…じゃなくて、モズ。名前の由来は確か…好奇心旺盛で落ち着きがないからとか言ってたような気がする。…そっちは名前なんていうの?」


「モズク?…へー、かわッタ名前だナ!!オレサマはディルだ!ディルサマとでもよんで崇めるがイい🈂!!」


再びケタケタと笑い出すぬいぐるみ――…ディルは、何処か楽しそうであった。




「さァ、ついたゼ。ここが作品を 菫晉ョ。している場所ダ。主人の趣味が荳ク蜃コ縺励〒縺吶#縺�°繧峨が繝ャ繧オ繝槭�螂ス縺阪§繧�↑縺�s縺�縺代←繝�!!」


「?…ディル?どうかした?何も聞こえないんだけど…」


ディルはカメレオンのように顔色を変色させた。

まるで今日の夕食に出た料理ニンゲンの色合いにそっくりだ。


「ウ“…オ“エ“、き“にす“んナ“。一種のノロイだからナ…それよりあれみてみロヨ。端から端まデ作品が飾られてルんだぜ。」


私の肩に乗せていたディルは、心配する私の首を無理矢理持ち上げて、作品に眼を向かせるように仕向けた。



そこにはずらりと並べられた人間食材の姿が綺麗に並べられている。



「…この人達は私の先客?色々な表情の人がいるね、にっこり笑っている人もいれば、無表情の人…それから――…」


展示物と化した作品人間に少しでも近づきたくなって、ガラス越しに手をかざしながら眼を瞑ってみる。すると。脳内には赤の絵の具を身にまとった二人の男女と、骸骨を抱きかかえた誰かの姿が見えて、そこに赤い傘を指した男性が――…、というところで映像は終了した。





「おい、――おい、…オイ!モズク!おきろねるンジゃねヱ!」



ディルの声が脳内の神経をしびらせる様に響き渡る。


「――…?あ、ご、ごめん。随分と長い明晰夢だなと思って。…とりあえず、今日はもう休もうかな。案内してくれてありがとう、ディル。」


にこりと笑いながらディルの頭を優しく撫でようとすると、不意に頭を硬いもので殴られて鈍い痛みが襲いかかるような感覚に陥り、咄嗟に近くの壁に寄りかかった。


「…アレ、最初よりも段々ゲンキうしなッテんな、モズク。ダイジョウヴ“なのカ?」


先程と形勢逆転し、今度はディルが私の顔を覗き込んできた。

きっと明晰夢のせいで疲れているのだ。


早くこの夢から醒めないと、私の身体が更にSOSを上げてきそうだし。



「大丈夫だよ。…じゃあまた。」


この明晰夢で“またね“なんて言っても、次会うことは二度とないのね。

――…なんて、夢の中で突っ込んでる自分も滑稽だ。




そこで夢から醒めようと、目を閉じると


         “まだ遊び足りない。“



歳の近そうな青年の甘くとろけるような声が聞こえてきた。

私はそこへ、逆らうこと無く重力に従うように下へ落ちていった。

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