第6話 『首無しライダー』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第6話
『首無しライダー』
「うぃーす!!」
玄関を開けて元気よく挨拶して褐色の人物が入ってきた。
「いや〜、今日は部活が早く終わったので、速攻来れましたよ〜!!」
楓ちゃんが部屋に入ると、部屋の奥から流れ出る熱気に一瞬足が止まる。
「う、なんですか、この熱気は……」
「あ、楓ちゃん……」
私はソファーに倒れて団扇で顔を仰ぐ。
「いや、エアコンが壊れちゃって……。修理は明後日になるんだって……」
私は汗を流しながら状況を説明する。
「マジですか……。この真夏にこれはキツイですよ…………」
楓ちゃんはロッカーにバックをしまうと、
「師匠とリエちゃんは?」
「タカヒロさんとリエはあっち……」
私はダラけながら二人がいる方を指差す。その先ではリエと黒猫が扇風機を独占していた。
「楓さんが来ても、交代はまだですからね」
「そうだ。じゃんけんに勝ったのは俺たちだ」
リエと黒猫はいつにも増して団結を見せる。
「ジャンケンってなんですか……」
楓ちゃんが呆れた顔で聞いてくる。もう答えはなんとなく分かっているのだろう。
「扇風機の前を賭けてジャンケンしたのよ………………もう我慢できない!!」
私は扇風機の前に飛び込む。
「ちょ、狭いです!!」
「良いじゃない!! あんた幽霊でしょ、体温無いから大丈夫でしょ!!」
「幽霊でも暑いものは暑いんですよ!!」
私とリエ、黒猫が揉み合いの喧嘩をしている中、楓ちゃんがテーブルに置かれたあるものを見つけた。
「あれ、もしかしてこれって……」
楓ちゃんがそれを拾い上げると、そこには依頼書と書かれていた。
「レイさん、これって依頼書ですよね! 依頼が来たんですか!!」
楓ちゃんが嬉しそうに私達の方を向く。
その頃私はリエの肌に顔を押しつけ、その冷たさを堪能していた。
「汗が気持ち悪いのでやめてください」
リエに私を突き飛ばされる。そして転がった私は、楓ちゃんの方を向き答えた。
「ええ、依頼よ」
それを聞いて楓ちゃんは嬉しそうに飛び上がる。
「早速やりましょう!!」
「えー、でも、暑いよー」
「やりましょう」
「はい」
日が落ちて街灯が街を照らす。そんな中、私達は夜の住宅街を歩いていた。
「そういえば、依頼内容ってなんなんですか?」
リエが依頼書を持った私に質問してくる。私は依頼書を広げる。
「依頼内容は首無しライダーの除霊ね……」
「首無しライダー?」
リエが不思議そうに首を傾げる。そんなリエの後ろから黒猫を抱っこした楓ちゃんが割り込んできた。
「僕それ知ってます!! 最近噂になってるやつですよね! 学校でもよく話している生徒がいますよ!!」
「ええ、この依頼だけじゃなくて、他にも何件か来てて……。暑いから外に出る依頼はやりたくなかったけど、流石にやらないとね……」
首無しライダー。頭部を失ったバイクに乗った幽霊であり、ここ数日、この街で見掛けられるようになった。
夜になると騒音を出しながら、住宅街を暴走する。そして出現するルートは毎回決まっている。
「では、その出現する場所で張り込みするのはどうですか?」
リエがそう提案する。それに対して私は
「ええ、そのつもりよ。それに今歩いてるこの道もそのルートだしね」
と答えた。
「じゃあ、そろそろその首無しライダーが出てくるかもしれないってわけか……」
楓ちゃんに抱っこされている黒猫は耳をピンとさせると、辺りを警戒する。
「確か、現れるのは0時丁度のはず……そろそろ出てきても良いはずなんだけど…………」
私はそう言って腕時計を確認した。
それからしばらく歩くが、例の首無しライダーには遭遇しない。
「そろそろ疲れてきたね。ちょっと休憩しない……」
歩き疲れた私はみんなに相談した。
「そうですね。確かこの辺りにコンビニがあるはずなので、そこで休みますか」
コンビニに向かうことになった私達。
コンビニに着いた私達だが、コンビニの前にある駐車場が騒がしい。
「なんでしょう?」
コンビニの前を見ると、そこにはバイクに跨った若者達が集まっていた。
エンジンの音を聴かせ合い自慢しあったり、コンビニで買った夜食を食べていた。
柄の悪そうな集団が屯い、コンビニの前を独占していた。
「騒音の集団って、この人達なんじゃ……」
リエがそんな集団を見ながらそんなことを言った。
確かに首無しライダーはバイクの音で騒音を出しながら、住宅街を走り回る。
この暴走集団が首無しライダーと勘違いされていてもおかしくはない……のかもしれない。
「じゃあ、僕聞いてきますね!」
そう言うと、楓ちゃんは黒猫をリエに託して、その暴走集団の元へと歩き出した。
「え、ちょっと、楓ちゃん!?」
私達はついて行く勇気はなく。路地から楓ちゃんの様子を見守っていた。
楓ちゃんは不良達の前に立つと、楓ちゃんを見つけた不良達が楓ちゃんを囲む。
「なぁ、嬢ちゃん、こんな時間にこんなところ来たら、危ないぞ〜」
「俺たちみたいな、兄ちゃんがいるからなぁ」
不良達に囲まれた楓ちゃん。しかし、冷静に返す。
「嬢ちゃんじゃないです。坊ちゃんです」
「…………え?」
不良達の表情は固まる。そんな中、楓ちゃんは不良に聞く。
「あなた達、首無しライダーって知ってる?」
それを聞いた不良達は動揺しザワザワとし始める。
そんな様子を私達は遠くから見守る。
「なんか、騒ぎ出しましたね……」
「首無しライダーについて聞けたのかな? …………あ、なんか、奥から強そうなの出てきたよ!!」
首無しライダーの話が出ると、不良達の中からリーダーらしき男が出てきた。
190以上はあるだろう。長身で筋肉質な身体。スキンヘッドでイカつい男。
「おい、なぜ、首無しライダーのことを知ってる?」
「除霊の依頼で調査してるの」
「除霊……? ああ、そういえば、そんな話をどっかで聞いたな」
スキンヘッドの男は仲間の方を向くと、
「今日は解散だ。すまないな、俺が呼び出したのに」
「良いっすよ、副総長」
不良達はそれぞれバイクに乗ると、バラバラになって帰っていった。
そしてスキンヘッドの男だけが残る。
「首無しライダーについてだったな……」
スキンヘッドの男はそう言った後、私達が隠れている路地を親指で差した。
「そこに隠れてる奴もお前の仲間だろ。呼んでやれ」
スキンヘッドの男に呼び出された私達は、コンビニの前に集まった。
とはいえ、リエは幽霊のため見えていない、タカヒロ&ミーちゃんは猫のため、呼ばれたのは私だけだ。
スキンヘッドの男はバイクに腰をつけて寄っ掛かる。そして
「首無しライダー……それは俺たちのことだ」
それを聞いた私達は驚く。そして楓ちゃんが聞き返した。
「首無しライダーってどういうことですか? 実は幽霊なんですか!?」
「そんなわけないだろ。俺達には今、リーダーがいない。だから頭がいない族、首無しなんだ」
首無しライダー。その正体はこのスキンヘッドの男達の組織だった。
スキンヘッドの男は夜空を見上げる。
「数週間前のことだ。兄貴は彼女との三年目の記念日のためにプレゼントを買いに行ったんだ。だが、その帰りに事故にあった……」
スキンヘッドの男は悔しそうな顔をする。
「兄貴はとても立派なんて言える人じゃなかった。だが、俺は、俺たちは尊敬してた。だからこそ、あの人についていったんだ。気まぐれで自由人で俺を拾った時もそうだったし、あの事故も気まぐれだったんだろうな……。らしくない事故だ……」
スキンヘッドの男はそこまで言った後、バイクに跨った。
「俺もオカルトは嫌いじゃない。だから死んだ兄貴に会えるかもって、集会まで開いた……だが、首無しライダー……その正体は俺達だ。除霊って言ってたが、お前達も諦めて帰りな」
そしてスキンヘッドの男は夜の中に消えていった。
スキンヘッドの男の話を聞いた私達は、事務所に帰ろうとしていた。
「結局、首なしライダーの正体は暴走族だったんですね……」
リエが黒猫を抱っこしながら残念そうに言った。
「そうね。幽霊関係じゃないなら、私達の出る幕じゃないしね……」
住民への騒音被害は警察の仕事だ。私達が首を突っ込む必要はない。
スキンヘッドの人も私達を巻き込まないために、仲間を解散させてから事情を説明してくれた。
「でも、そうしたら依頼はどうなるんですか?」
「事情を話して納得してもらうしかないかな」
「そうですか……」
そんな会話をしながら、もう少しで事務所のあるビルに着くという時。
私達の後ろからバイクの音が聞こえてきた。その音は近づいてくると、すぐ横を通り抜かして行く。
そのバイクは紫色で長身のライダーが乗っている。だが、そのライダーの肩から上はなく、首のないライダーだった。
「本物の首無しライダーだぁぁぁ!!」
私達は叫ぶと、そのライダーを追いかけて走り出す。
だが、バイクのスピードと人の走る速度。到底追いつく事はできない。
「はぁはぁはぁ、このままじゃ逃げられる……」
私が息を切らしながらそう言うと、隣を走っていた楓ちゃんが、
「ここは僕に任せてください!!」
そう言うと私達を越して、バイクに追いつく速度で走り出した。
「な、どんな運動能力してるのよ…………」
「前も言ったろ。あいつの身体能力はすげーって……」
リエに抱っこされた黒猫はドヤ顔で楓ちゃんのことを自慢する。
「確かにそんな話してたけど……」
人間の力を超えてる。
楓ちゃんはバイクの後ろに追いつくと、ジャンプして飛び上がり、ライダーの背中目掛けて飛び膝蹴りを喰らわした。
楓ちゃんの蹴りを喰らったライダーは、よろめきその勢いで近くにあった塀に突撃して倒れた。
楓ちゃんが腕で額の汗を拭う中、私達が追いついた。
「首無しライダーを一撃で……流石楓だな」
「いや〜、師匠に褒められると照れちゃいます」
黒猫に褒められた楓ちゃんが顔を赤くして照れている中。私とリエは首無しライダーを見る。
バイクは近くの電柱に寄りかかるように倒れ、首無しライダーの上半身は塀に埋まり、こちらには尻が向けられていた。
「ねぇ、これってどうなってるの。大丈夫なの?」
私は心配そうにリエに聞く。
「私達幽霊は物体を通り抜けることができます。塀を通り抜けてるだけで、塀も壊れてないし、怪我もないはずです」
「いや、でも……」
ライダーの尻はピクピクと痙攣するように動くが、戻ってくる気配がない。
「ねぇ、本当に大丈夫なの?」
「しょうがないですね。ちょっと見てきますね」
リエはそう言うと塀をすり抜けて反対側に消えていく。しばらくすると、塀の中からリエの顔だけがヌッと出てきた。
「わっ、びっくりした」
出てきたリエは困った顔で、
「ちょっとヤバイですね」
「え?」
「塀は無事にすり抜けられたみたいなんですけど、庭に捨てられてた壺に両手がハマって抜けないみたいです」
それを聞いて私は驚く。
しかし、壺に両手がハマってどういう状況なのだろうか。
「捨てられてた壺。それなりに霊力があるみたいで、霊によっては触れるみたいなんですよね。そんな壺に楓さんに蹴られた時に、勢いよく突っ込んでしまったようで…………」
私は頭を抱える。
「どうやったら壺から抜けられそう?」
「壺は塀に引っかかるので、私がライダーさんを掴みます。その私をレイさんが引っ張ってください。そうしたら抜けるはずです」
「荒っぽいけどやるしかなさそうね……」
リエがライダーの両足を持ち、そのリエの背中を私が引っ張る。
「ヨイショ!」
二人で同時に引っ張るが、ライダーが痛くて暴れているだけで引っかかってるのか、動かない。
「ねぇ、楓ちゃんとタカヒロさんも手伝って」
私は後ろで黒猫を撫でまくっている楓ちゃんを呼ぶ。
二人も私の楓ちゃんと黒猫も加わって、ライダーを引っ張った。
「ヨッコラショ!」
どこの大きなカブだろう。
そんなことを思いながらも、どうにかライダーを救出することができた。
黒いライダースーツを着込んだ、首無しのライダー。
頭がないのだが、塀から出てきたライダーは私達に頭を下げて礼をした。
「いえいえ〜、当然のことですよ」
私がライダーに対してそう答えると、ライダーは両手を振って違うとアピールしてくる。
さっきから一言も喋らないライダー。もしかしてと思った私はライダーに質問した。
「もしかして喋れません?」
するとライダーは親指を立てて、正解をアピールしてきた。
そしてその後、ライダーは両手で何かを書く動作を見せる。
「何か書くものですか?」
再びライダーは親指を立てる。
「ねぇ、誰か書くもの持ってない?」
私はリエ達に聞くと、楓ちゃんがバックの中からノートとペンを出した。
そしてそれをライダーに渡す。
ライダーは無事に楓ちゃんの渡したノートとペンを持つことができて、早速何か書き始めた。
そして……
『さっきケったやつ誰だ、ぶっころすぞ』
そこには迫力のある文字で脅迫に似た文字と、最後に可愛らしいウサギの絵が添えられていた。
ウサギの絵は可愛いが、明らかに怒っているライダー。私とリエが怯えて、何も言えずにいると……。
「あ、僕です」
楓ちゃんが手を上げた。
ライダーはノートを捨てて立ち上がると、楓ちゃんを見下ろすように見る。
だが、そんなライダーに臆する事はなく楓ちゃんは、
「さっきのウサギ可愛いですね!」
屈託のない笑顔をライダーに向けた。
それを聞いたライダーは捨てたノートを急いで拾う。そして恥ずかしそうに抱き抱えた。
「恥ずかしいなら書かなければ良いのに……」
「あのライダー、ちょっと照れてますよ」
怖いキャラなのか、可愛いキャラなのか、はっきりしてほしい。
ライダーは再びペンを持つと、ページを進めて文字を書く。
『なんのようだ?』
と書かれたノートを私達に見せた。私はそれに答えた。
「あなたを除霊に来ました」
ライダーは文字を書く。
『俺を、か?』
「はい」
それを聞いたライダーは下を向いてしばらく固まった後、またノートに文字を書き始めた。
『俺にはまだやり残したことがある』
すると私の隣にいたリエが私に話しかけてきた。
「この方も私と同じです。現世にやり残したことがある。だから成仏できないんです」
「え、このライダーも漫画家に?」
「いや、そうかもしれませんが……そうじゃないと思いますよ!」
私はライダーの方を向くと、
「あなたのやり残したことを教えて、私達が手伝えることなら手伝うから」
ライダーはノートに綴る。
『無くした彼女へのプレゼントを探して欲しい』
そしてそのプレゼントの内容が書かれていた。それはシルバーのハートのついたネックレス。
首無しライダーは彼女と会うために走行中に事故に遭って、そのネックレスを無くしてしまった。
その無くしたネックレスを見つけ出す。それが彼の願いだ。
「それで事故が起きたのはどこなんですか?」
リエがライダーに聞くと、ライダーはノートに道を書いた。それは首無しライダーが現れると噂の道。
ライダーはネックレスを探すために、霊力が強くなる夜になると、バイクに乗ってネックレスを探していたようだ。
ライダーはページを捲ると、
『事故の時の記オクは飛んでしまって思い出せない』
当日に通っていた道は覚えているが、どこで事故に遭ったのかは思い出せないらしい。
「ま、通ってた道が分かれば十分よ。一人で探すより、みんなで探した方が早いでしょ!」
私達もライダーと一緒にネックレスを探すことにした。
ライダーがノートに書いた道のりを、歩きながら探していく。
「……と、さっきから気になってたんだけど…………」
私はライダーの方を見る。
「なんでバイクにずっと乗ってるの!?」
楓ちゃんに蹴り落とされたライダーだが、ネックレスを探す間、ずっとバイクに乗ったままだ。
私達の歩くペースに合わせているため、すごく大変そうなのだが、頑張ってバランスを保っている。
ライダーはバイクを止めると、ノートに文字を書く。
文字を書くライダーのために、私達は足を止めた。
『バイクは俺の命だ』
「ノート書く時くらいは降りよ! テンポ悪いよ!! それに乗ったままだと、探しにくいでしょ!!」
私が抗議するとライダーはノートに書く。
『イヤだ』
「降りろー!」
私はライダーをバイクから降ろすために掴みかかる。ライダーは抵抗してバイクから降ろされないようにバイクにしがみつく。
私達がそんなことをしている中、楓ちゃんとリエは真剣に地面を見ながら探していた。
「なかなか見つからないね」
「そうですね」
探しながら楓ちゃんはリエに質問する。
「このまま見つからなかったらどうなるの?」
「どうしてそんなことを聞くんですか?」
「あのライダーさん。ネックレスを見つけるために、この世に残ってるんだよね。でも、何日も経ってるし…………。もしかしたら……」
楓ちゃんはリエの方を向いた。リエは地面を見つめて、静かに答えた。
「さぁ、でも考えない方が良いですよ……」
リエは答えた後、道の先を見た。すると、道路の右側に公園を見つける。
「あ! 楓さん! あれは公園ですか!!」
リエはさっきまでの雰囲気とは全く変わり、高いテンションで楓ちゃんに聞く。
「そうだけど、公園来たことないの?」
「はい! 私ずっと、あの土地から出られませんでしたから! ちょっと見てきます!」
リエは目を輝かせて公園に向かって走っていく。
「ちょっと、リエちゃん!!」
楓ちゃんもリエを追いかけて公園に向かう。公園に向かって走る二人。
私と揉めていたライダーは、その二人の様子を見て、ノートを落とした。
そして手を震わせる。
「どうしたの?」
ライダーは震えた手でノートを拾うと、汚い字を書き始めた。
『思い出した。俺が死んだ時のことを』
ライダーは公園の入り口まで徐行すると、そこにある排水溝の蓋に手をかけた。
「見つけたんですか?」
公園に行っていたリエと楓ちゃんは私達の様子を見て、興味を持って近づいてきた。
ライダーが蓋を開けると、そこには泥まみれになったネックレスが落ちていた。
ライダーはそのネックレスを拾い上げた。
「私なんかが渡して良いの?」
ライダーはノートに書く。
『俺は死んでる。たのむことしかできない』
私の手に公園の水で泥を洗い流したネックレスが渡される。
「……ま、あなたが成仏できないところを見ると、渡すところまでが未練なのね」
私はネックレスを手にインターホンを押した。
赤い屋根の一軒家。そこに高い音が響き渡る。
すると二階から階段を駆け降りて、急いで玄関に向かってくる足音。
「ユウキ!!」
扉が開くと、そこには髪がボサボサな女性が出てきた。目元は腫れていて、玄関にいる私達を見て女性は寂しそうな顔をした。
彼女の姿を見たライダーは驚きながらも、ノートに文字を書く。
『俺の彼女だ……』
だが、ライダーは彼女の姿に戸惑っている。
「……何の用ですか?」
「これを……」
私は彼女にネックレスを差し出す。それを見た彼女は目を丸くして驚く。
「……これって…………彼と一緒に見てた。どうしてあなたがこれを…………」
「彼の世からの贈り物です」
ネックレスを受け取った彼女が玄関を見ると……。
「嘘でしょ……」
私の後ろを見ていた。後ろを見た彼女の表情は目を細めて涙を流した。
「……」
彼女はそう言うとネックレスを大切そうに抱きしめる。
無事にネックレスを渡すことができた私達は、公園に戻っていた。
「これで良かったのよね?」
ライダーはノートのページを捲ると、文字を書く。
『ああ、これであの世に行けるよ』
ライダーの身体とバイクが淡い光に包まれる。
「え、え!? 光ってる!?」
楓ちゃんに抱っこされている黒猫が、ライダーを見て驚く。
「別れの時です。これで成仏できますよ」
驚く黒猫にリエが説明する。
ライダーはノートに最後の言葉を書くと、ノートを閉じてリエに渡した。
ライダーは私達に見守られながら、光に包まれて姿を消した。
ノートを受け取ったリエはページを捲り、最後のページを見る。
「ねぇ、なんて書いてあるの?」
私は最後にライダーが書いた内容が気になり、リエに聞く。すると、リエはノートを閉じて、
「『サンキュー』ですって」
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