第5話 『師匠との再会』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第5話
『師匠との再会』
私が窓の方を見ると、窓に人間が張り付いていた。
「師匠〜!!」
その人間は泣きながら家の中を見ている。
というか、ここは3階だ。
まるでトカゲのように壁に張り付いている。
私が驚いてティーカップを落とすと、その音を聞いてリエと黒猫がこちらの方を向いた。
「どうしたんですかぁぁぁぁぁ!? いやぁぁぁぁぁ!?」
リエは驚いて声を上げる。だが、リエとは対照的に黒猫は冷静にその人物の顔を見ると、
「お前、楓(かえで)か!!」
タカヒロさんの声でその人物の名前を呼んだ。
「し、知り合いなの!?」
「あ、ああ、中に入れてやってくれ…………」
中に入れると、その人物は褐色の肌に紺色のショートヘアの高校生。
身長は150以下だが、スラっとしたスリムな体型だ。
「それで楓ちゃん、……なんで窓から?」
窓から事務所に入れて、私は事情を聞こうとしたが、楓ちゃんは私の話を聞く前に黒猫に飛び込んだ。
「師匠〜!! ミーちゃん!!」
そして黒猫に顔を擦り付ける。
「良かっだぁぁ、師匠ぉぉぉぉ」
涙と鼻水で黒猫の身体は汚されていく。しかし、我慢してやられるがままに黒猫は耐え続ける。
そして黒猫に甘えて、楓ちゃんはやっと冷静になった。
「心配かけたな、楓……」
「はい、師匠……」
ハンカチで涙を拭いて、楓ちゃんは立ち上がる。
そして私の方を向くと深く頭を下げた。
「すみません、驚かせてしまって…………」
「いえ……まぁ、今度からは窓からはやめてね」
動揺していておかしかっただけで、根は良い子らしい。
「泣いて疲れたでしょ、お茶でも飲む?」
「はい、お願いします」
私はお茶を用意するために台所に向かう。台所ではリエが隠れていた。
「何やってるのよ……」
「いえ、私幽霊なので隠れていた方が良いのかなぁと思いまして……」
「幽霊なら見つからないんじゃないの?」
「……あ、そうでした。取り憑いてるあなた程度の霊力じゃ、普通人には認識すらしてもらえないですよね!」
「あんた、…………それに対して私はなんて返せば良いのよ……」
そんな会話をしながらもカップに紅茶を注いでいく。
注いで……注いで…………。ふと疑問が浮かんだ。
あれ、なんでミーちゃんとタカヒロさんが一緒にいることを知ってるの?
タカヒロさんはミーちゃんの身体に入ってしまって、すぐにうちに来た。
ミーちゃんの身体を危険に晒さないため、ここにいる人、または幽霊以外にはこのことは話していない。
しかし、楓ちゃんは黒猫に二つの人格があることをわかっているように接し、そしてタカヒロさんの声を聞いても動揺することはなかった。
つまり……
紅茶がコップを溢れて、コップの周囲を濡らす。
私はポットを投げ捨てると、楓ちゃん達の元へと急いだ。
「なんでタカヒロさんのこと知ってるの!?」
私が大声で聞くと、楓ちゃんは顔を赤くして
「僕と師匠は……深い絆で繋がってますから」
指をこねくり回して恥ずかしそうに答えた。私が黒猫の方を向くと、黒猫は背を向けて答える気がなさそうな態度をとっている。
「師匠が亡くなって、ミーちゃんも行方不明って聞いて、あれからずっと探してたんです。でも、見つかって良かった」
楓ちゃんはホッとした表情をしている。
「師匠とミーちゃんを保護してくれて、本当にありがとうございます」
「いえ、成り行きっていうか、なんていうか……」
「その、……台所にいる人も出てきてください。あなたにもお礼を言いたいです」
楓ちゃんはそう言って台所の方を見る。台所では私が投げたポットをキャッチして後片付けをしているリエの姿があった。
しかし、楓ちゃんに呼ばれて驚いたリエは、タオルを片手に固まった。
「え、私ですか……」
「はい、あなたもここの従業員なんですよね」
「いや、でも……私は…………」
台所の電気はついていなくて薄暗い。もしかしたら幽霊だと気づいていないのかもしれない。
「大丈夫です。私、あなたのような方を、何回も見たことありますから」
「…………え、楓ちゃん、もしかして……」
「はい、僕霊感強いので」
テーブルに座り、私は楓ちゃんも向かい合う。楓ちゃんは黒猫を抱きしめ、黒猫は大人しく抱っこされている。
「こちらをどうぞ」
リエがお茶を持ってきてテーブルに置いた。
「あなた、学生よね? 帰らなくて良いの?」
日は沈み、外は暗くなっていた。しかし、楓ちゃんは黒猫を嬉しそうに抱きしめて事務所に居座っていた。
「大丈夫です。僕の家、そういうところ緩いですから」
「緩いって……でも、女の子が夜遅くに帰ったら危ないでしょ?」
私がそう言うと、楓ちゃんは目を丸くして、驚いた顔をした。
「え……」
「……え?」
時間が止まる。お盆を持って横に立っていたリエも不思議そうに楓ちゃんを見る。
静まり返る事務所。外の通りをバイクが通り、エンジン音が近づいてすぐに遠ざかる。
「僕、男ですよ……」
再び時間が止まる。私とリエは楓ちゃんを見つめたまま固まった。
今度は事務所の前を暴走族らしき集団のバイクが通り過ぎる。
すると楓ちゃんは苦笑しながら
「よく間違えられるんですよ。なんででしょうね……ハハハ」
まだ頭の中で追いついていないが、落ち着くために私はコップを取ると紅茶を飲む。
一口、口に含んだところで、楓ちゃんがあるお願いをしてきた。
「私をここで働かせてください!!」
驚いた私は紅茶を変なところに入れてしまい、咽せてしまう。
リエがそんな私の背中を優しく摩る。
「なんで!?」
ここは客も少なく、やることは除霊。そんなの普通の学生からしたら、魅力のあるバイトとは思えない。
「僕……僕は師匠……いや、ミーちゃんと一緒にいたいんです」
そう言って楓ちゃんは黒猫を抱く力を強くする。
「僕……数年前にここに引っ越してきたんです。でも、学校で馴染めなくって悩んでいる時に、師匠に出会ったんです」
「さっきから気になってたんだけど、タカヒロさんは何の師匠なの?」
「猫愛好家の師匠です」
「猫愛好家?」
「はい、そうです。僕と師匠はあることがあって出会って、それからちょっと事情がありまして……」
「それで猫好き同士、仲良くなったと……?」
「はい!!」
楓ちゃんは笑顔で返してくる。
「でも、ここで働くほどなの?」
私が質問すると楓ちゃんは答える。
「あなた方にも恩返しがしたいんです。バイトさせてもらえれば、恩返しもできるし、師匠とミーちゃんに会いに来れますから!!」
楓ちゃんは満ち足りた様子で言った。
バイトを雇う費用はある。それに幽霊や猫以外の従業員がいた方が楽なのは確かだろう。
楓ちゃんに抱っこされた状態の黒猫が私に話しかけてくる。
「俺からも頼みたいな。俺は猫好きとしてこいつを認めてる。それにこいつの身体能力はすげーぞ」
確かに三階の窓から侵入してきたことを考えると、とんでもなくすごい。
黒猫の言葉を聞いた楓ちゃんは黒猫に頬っぺたを擦り付ける。
「ありがとう〜師匠〜!!」
そして坂本 楓(さかもと かえで)を従業員として迎え入れることとした。
それから数日後……
「師匠〜!! 部活終わったので、そのまま来ちゃいました!」
扉を勢いよく開けて、楓ちゃんが部屋に入ってくる。
「あ、楓ちゃん来たね!」
私はテーブルの上に置かれた段ボールから青いエプロンを取り出した。
「ふふふ〜、従業員も増えたからお兄様に頼んで、専用の服を作って貰ったの!」
「え、本当ですか!!」
楓ちゃんは嬉しそうに駆け寄ってくる。そして私からエプロンを受け取ると早速それを着てみる。
「……めっさかわいい」
私は楓ちゃんのエプロン姿を見て思わず呟いてしまった。
男の子だとは思えない可愛さ。本当に男なの? いや、男なんだよな、証明書にもそう書いてあったし…………。
私が楓ちゃんに見惚れている中、楓ちゃんは奥の部屋にいるリエと黒猫を見つけた。
「あ! 師匠用の服もあるんですね!」
楓ちゃんはそう言って二人の元へと駆け寄る。リエは黒猫を抱っこして、楓ちゃんに見せる。
「良いですね〜、似合ってますよ! 師匠!!」
楓ちゃんがそう言って顔を近づけると、黒猫は顔を逸らした。
「タカヒロさん、恥ずかしがってるんですか?」
黒猫を抱っこしているリエが揶揄うように言う。
「ば、バカ!! 楓は男だ、問題ないわ!」
「でも、今私に抱っこされてますよね」
「…………おろせ〜、おろして〜、ミーちゃん助けて〜!!」
黒猫は暴れるが幽霊に弄ばれている。そんな様子を見ていた楓ちゃんが手を伸ばす。
「リエちゃん、私にも抱っこさせて」
「嫌ですよ。さっき抱っこしたばっかりなんですから」
そしてリエと楓ちゃんで黒猫の取り合いが始まる。
「痛い! おい、引っ張るな。ミーちゃんが可哀想だろぉぉが!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます