第10話 ツール・ド・ラヴニール
少しの休憩が終わると、また、若干アップダウンのある平地を走り、山道へと入っていく。
まあ、そんなにきつい山道ではないが、斜度5%程度だろう。
だが、ヴィクトールとトマが遅れていく。え〜と、引いた方が良いのだろうか?
「フィリップの車が伴走する、気にせず走れ」
という事らしい。5人で山を登り、また下る。
そして、また、山に登る。今度の山はきつい。すると、チームリーダーのレオンが遅れていく。
「すまない、みんな」
そして、4人になる。だが、結構なスピードで登っている。山賀がきつそうだ。大丈夫かな?
すると、
「シン! スプリントだ!」
すると、山賀の目に光が戻り、アタックする。斜度的には10%の山道を一気に上がっていく。監督の車もスピードを上げ、追っていく。
「はやっ」
思わず、アドニスが叫ぶ。そして、しばらくすると。
「シン、ペースを落としてゆっくり登れ」
えっ、僕達はまだ山登り途中だった。だけど、見えてきた山頂には車も山賀も居ない。ということは、山賀は、次の山に登ってるのか?
僕達も、ダウンヒルに入り、テオがスピードを上げる。えっ、はやっ。
すると、監督の指示が飛ぶ。
「テオ、単独で登れ!」
僕達は、途中、山賀と合流。そして、そのまま登りきり、ゴールとなった。
そして、宿泊しているホテルに戻ると食堂に集まり、監督の話が始まる。
「分かっていると思うが、トマ。補欠だ」
「はい」
僕達が入った事によって、トマが補欠にまわされるようだった。
そして、
「クライマーのテオ、パンチャーのシン。そして、スプリンターのヴィクトールで、ステージ優勝を狙っていく。良いな!」
「はい」
そして、翌日の完全休養日、その翌日の調整日を挟んで、ツール・ド・ラブニールが始まる。
ツール・ド・ラブニールは、19歳以上23歳以下のプロも走ることの出来る、アマチュアのステージレースだった。期間は10日間。初日は、個人5kmと短い平坦のタイムトライアルだった。
まあ、ド平坦なので、山賀は、ほぼ最下位。危なくタイムアウㇳ寸前で、監督に怒られていた。
僕は、ちゃんと走ったが中位くらいだった。で、チームリーダーレオンさんが、3位に入る活躍を見せたのだった。
そして翌日は、獲得標高1700mほどのアップダウンの激しい、やや平坦なコース。これは山賀行けるか? と思ったが、あまりに細かいアップダウンにチームが分断されて、混乱のうちにレースが終わる。もちろん、監督に全員が怒られたのだった。
まあ、チーム走行の練習あまりしてなかったからね~。
そして、3日目は、チームタイムトライアル。で、
「ノブ! ヴィクトールとシンを引け!」
「はい」
27kmほどの、ほぼ平坦のタイムトライアルで、遅れそうになった。ヴィクトールとシンを引くよう指示が出て。レオン、テオ、アドニスの3人から離れて、1人引き。2人をタイムアウトさせる事なく、ゴールに運び、監督に誉められた。
チームの順位は、3人で走ったものの中位くらいだったそうだ。
そして、4日目から、5日目、6日目と、平坦レースだという話だった。
「しかし、結構アップダウンあるよな」
「だよね」
「ヴィクトールは、大丈夫そうか?」
「いやっ、駄目そうだね」
僕は、後ろを振り返り確認する。しかし、ヴィクトールは、集団後方であえいでいた。そして、監督の怒る声が、聞こえる。
「これだったら、トマを出してた方が良かったじゃないか!」
確かに。
さらに悪い事に、5日目に落車が多発し、それに巻き込まれてヴィクトールがリタイアする。大丈夫かな、ヴィクトール?
だが、6日目。平坦レースと言う名の細かいアップダウンのレースの最終スプリントで、山賀が5位に入るとようやく監督の機嫌も良くなったのだった。
で、これ以降は、山がちなレースとなる。今までは150km以上だったが、距離も短くなり獲得標高も2500m以上となった。
そして、7日目だった。
「アレアレアレアレ、シン!」
イヤホンから、うるさいくらいの絶叫が聞こえる。
前半、山をいくつも越えるアップダウンの激しい難しいコースで、後半は同じ山を2回登るコースだった。
そして、後半の2回目の登りで、集団は逃げグループをとらえたが、結構きつい登りで、次々と遅れ、小集団にはなっていた。
その小集団から、山賀が2回目の山頂手前でアタックを仕掛ける。すると、結構な人数が追走するが、山賀は、そのままトップで山頂を越えてダウンヒルに突入する。
すると、ダウンヒルの上手い山賀が、みるみる差を広げ、監督の絶叫の中、そのままゴール。プロ初勝利をあげる。
と思ったら、まだ、僕達は、アマチュアだったそうだ。まあ、でも賞金の高いアマチュアレースの初勝利だった。
「山賀、やったな」
「ああ。だけど、やっぱり凄いわ。U23レベル高いよ。登りで突き放せなかった。まだまだだな」
いやっ、充分凄いと思うけど。
ちなみに、テオは、調子あまり良くないようで、僕とアドニスで引っ張りゴールへ送り込んだ。しかし、小集団からも遅れてしまったのだった。さらに悪い事に、前半の登りで遅れたチームリーダーレオンが、タイムアウトでリタイアする。
翌日は、テオ向きのステージって言われてたんだけどな〜。きついかな?
そして、翌日のステージは、テオ向きのステージ。全長わずか98km。ド平坦が85km続き、最後に13kmで1300m登る平均勾配10%の登坂レースだった。
だが、一番の牽引役であるチームリーダーのレオンを失った僕達は、僕とアドニスで平坦を引っ張るが消耗し、大集団から遅れる事となった。
仕方なく、山賀を切り離し、ペースをあげて、山の麓でなんとか1分差まで挽回し、登坂に入った。しかし、テオの調子はあがらず、むしろ山賀が追いついてきて、そのまま4人でゴールとなった。
「今日は疲れてるね~。筋肉がなかなかほぐれないよ」
マッサーのヨシさんに、マッサージを受けていると、そんな事を言われる。
「確かに今日は疲れました。それに、何日も続くステージレース始めてだったので……」
「そうか~、まあ、今日はゆっくり寝て。回復をはかろう。そう言えば、シンは、凄い回復力だね。昔から?」
そう言われれば、そうだったような気もするけど……。
「すみません、分からないです」
「そうか~」
「作戦変更だ、逃げれたらテオ、アドニスで逃げをうち。そのまま逃げ切り勝ちか、無理そうだったら、逃げ待ち戦術をとってシンでいく。アドニス、ノブ、頼んだぞ」
「はい」
次の日のレース前、監督からこう指示が出る。色々、考えてやっていくんだね。
そして、山岳レースは続く。いきなり17kmで1000m登る登坂から始まる。そして、総合上位陣は下位と結構差が開いてきてたので、大勢の逃げを容認。見事に、テオとアドニスも逃げグループに入る事が出来た。
登りの後、結構長いダウンヒルをこなし、再び20kmで1500m登る登坂なのだが、今日はレース距離が71kmと極端に短いからか、追走集団が早めにスピードアップ。かなりの速さで逃げグループを追う。
さすがに、若手の有望株のクライマー、オールラウンダーの本気の登坂スピードにはついていけずに、僕達はちぎれる事になった。
逃げグループも散り散りになりつつ逃げるがとらえられ、先頭は総合順位の上位陣によって占められた。
そして、最後の登りは、2kmで200m登る斜度10%の登り。残っていれば山賀もいけただろう。ついて行けたら山賀向きの登りで、オールラウンダー2人とクライマー1人の独走となり、結局、首位のオールラウンダーが勝ち、ツール・ド・ラヴニールの勝利を、ほぼ確定させたのだった。
「まあ、こんな日もある。明日だ、切り替えるぞ」
監督にそう言われたが、テオはかなり落ち込んでいた。調子が良くなってきたのについていけなかったそうだ。
最終日、再び大集団の逃げが決まる。そして、再び、テオとアドニスも、逃げグループに入る事に成功する。
今日は、多少のアップダウンがあるが、基本80kmまで高低差2200mをダラダラ登り、その後は、ダウンヒル40kmで2000m下る。そして、最後の登りが、25kmで1300m登る斜度5%程の登り。というコースだったのだが。
「差、縮まってないよな~」
「ああ。これは逃げ切り勝利かな?」
「テオ、行けるかな?」
「さあ? 頑張って欲しいが」
僕達は、集団で登っていた。が、逃げ集団の先頭には追いつけなさそうだった。最後の登りに入り、差は10分。追走集団もスピードを上げたが、逃げ集団も、バラバラと遅れる人もいるようだが、逃げ集団の先頭は、差をなかなか縮めさせず。逃げ切り勝利が確定しそうだった。
「これは、大逆転あるかもな」
「えっ」
これは、テオの事では無く、逃げ集団の先頭に前日まで、5分くらいの差をつけられていた選手が入っているのだった。で、今は7分差。大逆転あるかな?
そして、先頭がゴール。テオも頑張って3位に入る。ナイス、テオ!
で、僕達は、逃げグループからこぼれてきた選手を捕まえつつ、ゴールを目指し、そして、山賀含めて複数人が、ゴール手前でスプリント。山賀が追走集団のトップでゴールするが、順位は12位。
そして、僕達集団もゴール。タイムは先頭がゴールして5分17秒。大逆転で、今日勝った選手が総合優勝したのだった。これだからステージレースは、面白い。
「テオ、良くやった」
「はい、ありがとうございます」
監督さんの一言で、テオは泣いていた。
そして、
「シン、ノブ、最高だ! 特にノブ、見事なサポートだったぞ」
監督さんに、褒められた。しかも、ステージ勝利した山賀ではなく、僕を。思わず僕も泣いてしまった。
「終わったな、始めてのステージレース……」
「ああ。グスン」
ちなみにこのレースには、日本も参加していたようだった。まあ、知ってる人は居なかったけど。そして、1人完走するにとどまったそうだった。
そして、その日本人チームを率いていた監督さんに声をかけられる。
「君達は、日本人か?」
「そうですけど……」
「そうか、ヨーロッパで走っているのか……。凄いな。優勝していたもんな。うん、立派だ。頑張ってくれよ」
熱い口調で、褒められてしまったのだった。
そして、この後、この監督さんが、日本に帰り、サイクルロードレースの番組で、僕達の事を熱く語り。
「来年とか、再来年には、日本人がツール・ド・フランスに出て、ステージ優勝するかもしれない」
なんて、語ったそうだ。
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