第4話 打算

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 一階に降りると先輩探索者のスレイスが待っていた。


 スレイスは、ぼくより三歳年上で三年早く探索者になった先輩だ。


 駆け出しだった頃、ぼくたち『同期集団』に色々親切に教えてくれた人だった。


 ぼくと同じ裸猿人族ヒューマンの戦士職。


 個人としての探索者ランクは、D。パーティーとしても、Dだ。


 三年前に初めて出会った時も、Dだった。


 平均よりちょっと遅い成長速度だ。


 たった三年でノルマルたちにランクを追い抜かれた時には、どんな気持ちを抱いたのだろう?


「ニャイから聞いた。飲みに行こうぜ」


 今日の探索帰りにギルドでニャイと話をしたのだろう。


 連れて行かれたのは、いつもの居酒屋だ。


 個室でスレイスのパーティーメンバーの残り三人が待っていた。もう酒が入っている。


「お前、うちのパーティーに入れ」


 呑み始めてすぐ、スレイスが言った。


「前にも言ったろ。お前の才能はノルマルたちじゃなく俺たち寄りだ」


 それはそう思う。もっと言うと、ぼくはスレイスたちにすら寄れていない。


「同情じゃないぞ。お前を誘うには打算があってさ。俺たちもそろそろCランクに上がりたい。仮にもお前は速攻Cランクの奴らと、ずっと一緒だったんだ。普段そういう奴らがどんな行動と心がけをしていて、俺たちには何が足りないのか違いを知りたい。実際にパーティーの中から見れば、よくわかるだろ」


 同情ではなく打算で誘うと言ってくれる心配りがありがたい。


 それじゃあ、まるでぼくが必要とされているみたいだ。


 パーティーメンバーの他の三人も飲み物を置いて、ぼくの顔を真剣な表情で見つめていた。


 だから、本気で誘ってくれているのだと、ぼくはわかった。


「ずっと一緒だった、ぼくが全然育ってないんですけど」


「どんまい」


 スレイスは笑った。


「それと普段の探索範囲も。穴場とかあったら教えてほしい」


 あ、それもあるのね。


 でも、そういうのは特にないなあ。


 ギルドに高く売れる魔物が出やすい秘密のポイントがあるとか、そんなことはない。


 自分たちでは、いたって普通の探索を続けていただけのつもりだ。


「明日の朝、街を出るつもりです」


 ぼくは答えた。


「まあ待て。思うんだが『同期集団』のお前以外は、みんな優秀だ。凡人が優秀な奴らに混ざって実力を発揮できるわけがない。それじゃランクだって上がらなくて当然だろう」


 そう言われると一理ある気もしてしまう。


 探索者カードに、ぼくはノルマルたちに寄生しているだけの奴だと思われていたからランクが上がらなかった説。


 別パーティーでの探索だったならばランクが上がるかな?


 スレイスたちとの探索から帰って、ギルドの受付に探索者カードを読み込んでもらおうと手渡す自分を思い描いた。


 受け取るのはニャイだ。


 未練かな。


 本当は、ぼくはまだ、この街で探索者を続けたいのだろう。


「試しに一度俺たちと探索に行かないか? お互い得るものがあるかも知れない」


 けれども、ぼくの答えは変わらなかった。


「明日の朝、街を出るつもりです」


 もたもたしていると戻ってきたノルマルたちと顔を合わせて気まずい思いをする羽目になる。せっかくのギルドマスターの配慮が台無しだ。


「そのついでで良ければ、普段流す探索ルートを案内しますよ。何か気付けたら指摘もします」


「そうこなくちゃな」


 スレイスは嬉しそうに声を上げた。


 喜ぶ理由は『同期集団』の探索ルートを知れるためか、それともぼくを引き留めるとっかかり・・・・・ができたためか?


 後者だったならば嬉しいな。


 やっぱり未練があるみたいだ。


「そうと決まれば今夜は飲むぞ」


「いえ。お酒は終わりです」


 早速、ぼくは、スレイスたちと『同期集団』の違いを指摘した。


「『同期集団』は探索前日は絶対に飲みません」

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