クビになった万年Fランク探索者。愛剣が『-3』呪剣でした。折れた途端無双です。
仁渓
第一章 ロングソード『-3』
第1話 勧奨脱隊
1
探索者ギルドのギルドマスター執務室。
本来であれば、ぼくみたいな万年Fランク探索者が足を踏み入れられる場所ではない。
ないのだけれど探索者ギルドの規則で、ぼくみたいな
所属しているパーティーに対して、お荷物となっている探索者への脱隊の勧奨だ。
「バッシュくん。念のため、もう一度確認するがパーティー全体、もしくはパーティー内の特定の誰かに対して君が常時、もしくは一時的にバフの力を付与していて、その結果、本来の実力以上にパーティーやメンバーの力が底上げされている事実はないのだね?」
「ありません」
「だとすると、君がパーティーから抜けることで次第にパーティーが弱体化していき今更戻ってきてくれと言われてももう遅い、などという事態になることも?」
「ありません」
バッシュというのは、ぼくのことだ。
男。
十八歳。
職業は戦士だ。
バフどころか魔法の
生粋の戦士職だ。
個人としての探索者ランクはF。
三年前、十五歳の成人を機に実家に飾られていたロングソード一本を勝手に拝借して田舎を出た。
この街で探索者ギルドに登録したが、以来、まったくランクアップしていなかった。
登録時初期ランクのままだ。
探索者ランクは個人としてもパーティーとしても七段階ある。
上から、S、A、B、C、D、E、Fの七段階だ。
ギルドマスターがパーティー脱退の勧奨をする場合の条件は二つ。
一つ目は勧奨脱退の対象者個人の探索者ランクが所属するパーティーのランクと比べて二段階以上低いこと。
二つ目は勧奨脱退の対象者を除外して計算したパーティーランクが勧奨脱退の対象者を含めて計算したパーティーランクより一段階以上高くなることだ。
二つの条件に同時に当てはまる探索者がギルドにいる場合、探索者ギルドのギルドマスターは対象となる探索者に対して面談を行い、必要に応じてパーティーからの脱退を勧奨しなければならない、とされていた。
さすがにパーティーリーダーからパーティーの足を引っ張っている本人に対して、お前はお荷物だからクビだ、という話は直接にはなかなか言いづらい。
普通はね。
そのため客観的にパーティーのお荷物になっていると見受けられる探索者に対してギルドが先回りをしてパーティーからの脱退を勧奨する仕組みになっていた。
パーティーに所属するメンバー個人の探索者ランクを数値化して合計しパーティーの人数で割り戻した平均値に相当するランクがパーティーランクだ。端数切り上げである。
最低のFランクの点数を一点とした時、ランクが一段階上がるごとに点数を二倍にしていき、Eランクは二点、Dランクは四点、Cランクは八点、Bランクは十六点、Aランクは三十二点、最高のSランクは六十四点というのが探索者ランクの数値化だ。
ぼくが所属しているパーティー『同期集団』は四人組であり、ぼくがFランクであるのに対して残りの三人は前回の探索でCランクに昇格した。
三人ともほぼ同時期に各地からこの街に出てきて、お互い素人の状態で探索者ギルドに登録をした同期だ。
それなのに、いつのまにか大きな差がついてしまっていた。
三年でCランクまであがれる探索者は十年に一人くらいの逸材であるらしい。
近くにいた同期同士で物は試しと適当に組んだだけの四人組パーティーなのに、それほどの逸材が三人も所属している期待の星が、ぼくたちのパーティーだ。
パーティー名も、その場のノリで適当に決めたものだった。
普通はFランクからCランクまで到達するのに最低五年はかかると言われていた。
さらに五年から十年でBランクに到達し多くの探索者はBランクで現役を引退する。
ぼくたちのパーティーはAランク入りも夢ではないのではないかと噂されていた。
ただし、ぼくさえメンバーに入っていなければだ。
通常FランクからEランクにあがるまでは約半年と言われている。
結論から言うと、ぼくの探索者ランクが万年Fランクであるのに対して、ぼくを含んだ場合のパーティーランクはD、ぼくを除いた場合のパーティーランクはCになった。
もともと一つ目の勧奨脱退の条件は満たしていたが二つ目の条件も満たしたため、こうしてギルドマスターの執務室に呼び出されて直々に面談を受けているところだ。
ちなみに、ぼく以外のパーティーメンバーは、この街のギルドから他都市にあるギルド本部への急ぎの配達依頼を依頼され、急遽、街を離れていた。
前回の探索で、ぼくがちょっとした怪我を負ってしまっていたため治療中のぼくの回復を待つ間にギルドから手軽なお使いのお願いをされたのだ。
怪我自体は治癒魔法で治っているのだが治癒魔法後はなるべく安静にする期間を確保したほうがいいと言われている。
往復二日の配達にみんなが出ている間、ぼくは宿で静養に専念する予定だった。
その一日目の午前中に、ぼくはギルドマスターから呼び出されたのだ。
今思えば、すべては面談後にぼくがパーティーのみんなと顔を合わせなくてもすむようにという探索者ギルド側の配慮なのだろう。
面談の最後にギルドマスターはぼくに告げた。
「客観的に君の存在は君のパーティーのメンバーにとってお荷物になっている。メンバーの意向は特に確認していないが君がメンバーの成功を願うならばランクにあった別のパーティーに入りなおすか、いっそ引退も考えるべきと考える。どうだろう?」
「抜けます」
こうして、ぼくは
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