第22話 話を聞いてほしい
クラウが部屋に来た時、ミアは風呂上りだった。
「クラウ様……。どうされたんですか? こんな時間に」
「あぁ、少し話せないかと思って」
「話……ですか」
改まった雰囲気のクラウにミアの顔が暗くなる。
「どうぞ……」
「あぁ……」
二人の間に気まずい雰囲気が漂う。
「ミア……あのさ……」
「あ、お茶でも入れましょうか……」
ミアがポットの方へ行ったとき、クラウがその腕を取った。
「話を聞いてくれないか」
「話ですか……?」
「あぁ、お前が俺を避ける理由が分かった。カルノに変なことを吹き込まれたそうだな」
カルノの名前を出すとミアは悲しそうに顔をゆがませた。
「カルノが俺の部屋へきて一晩過ごしたと……」
「……はい。正当なこの国の血統が必要なのだと言われました」
「血統……?」
ミアの言葉にクラウは考えるような表情をする。
「まずは、カルノのことだけど。カルノが一晩俺と過ごしたって話は嘘だ」
「嘘?」
「確かに部屋には来た。俺に抱いてほしいと泣きながら来たよ。でも無理だった」
クラウはそっとミアの手を取る。
「俺はミア以外の女に触れたくない。ミア以外欲しいと思わない」
「クラウ様……」
「カルノはすぐに追い出した。指一本触れなかったのが気に入らなったんだろう。ミアに嘘をついたんだ」
本当なのだろうか。
ミアはクラウの心を探るような目でじっと見返す。
「信じてほしい。俺はカルノとは何の関係も持っていない」
「本当ですね? 私に嘘はついていませんか?」
「本当だ。誓って言えるよ」
真剣なまなざしに、ミアは頷く。
クラウの言うことが本当なのだろう。
ホッとして心の荷が下りる。
「良かった……。良かったです」
ずっと怖かった。
クラウにカルノとのことを謝られたらどうしよう、このくらい許せと言われたらどうしよう、そればかりを考えていた。
もしかしたら嫌われたのかもとすら思っていたくらいだ。
「それと、血統の話だけど……」
「それについては覚悟が出来ました。私は隣国の女で、もし子供を産んでも正式な血統の子供は産めません……。側室が必要なのもよくわかっています」
「わかっていないな」
ばっさり切り捨てるような言い方に目を丸くする。
「側室? 誰が側室をもらうといった?」
「え? しかしこの国の王室は側室をもらうのか禁止していないと聞きました。だからクラウ様ももちろん……」
声がどんどんと小さくなる。
しかし頭上からクラウ様の大きな手が頭の上に乗った。その手が優しく頭を撫でてくれる。
「もらうこともできる、という話だ。父も祖父も側室はもらっていないし、俺もそのつもりだが?」
「え……? でもそしたら正式な血統は……」
「その正式な血統ってやつだけど」
クラウは苦笑した。
「ミアは母親の血筋をどこまで知っている?」
「え? お母さん?」
急に話が変わって戸惑う。
母の血筋ってどういうことだろう。
「母は南部の田舎で踊り子をしていました。そこで父に見初められ、愛人になったんです」
「お祖母さんのことは?」
「祖母ですか? いいえ、私が産まれた時には母方の祖父母はいなかったので……」
「そうか。君の祖母は同じく南部の踊り子をしていた。しかし、生まれはカラスタンドだ」
「え……」
祖母がカラスタンド王国生まれ?
初めて聞いた話に目を丸くする。
「カラスタンドで生まれた君のお祖母さんは両親が旅芸座をしていたことで、君の母国へと渡った。そこの南部で生活し、出会った君のお祖父さんと結婚したんだ。そしてお母さんが生まれた」
「本当の話ですか……?」
「あぁ。王宮の調査は性格だよ。君のことを調べた時、王宮の調査部隊がより深く調べたようだ。そしたら、君がカラスタンドの血を引いていることが分かった」
ふと、夢で母が出てきたことを思い出した。
そこで自分のルーツをわかっているのかと聞かれたのだ。
つまり、私がカラスタンド王国の血を引いていることに……。
「だから正式な血統とかそんなものは気にしなくていい」
「っ……」
ポロポロと流れてくる涙を止められなかった。
胸につかえていたものが落ちた気がした。
正式な血統この言葉がミアに大きくのしかかっていたのだ。
押しつぶされそうなった。
「不安にさせてごめん。俺がちゃんと話をしなかったからだね」
「いいえ……、怖かったんです。クラウ様のことがどんなに好きでも、抗えないものがある。その時、どうしたらいいのかわからなくて……。好きだけではどうにもならない事があるのはわかっていましたから……」
「不安ないように迎えたつもりだったんだけど、俺がミアを迎えられたことで浮かれていて君の不安や怖さや疑問点や多くのことを話ができていなかったんだ。本当にごめん」
クラウがそっとミアを抱きしめる。
「もう不安になるようなことはないと思うんだけど……。こんな俺と結婚してくれるか?」
「はい……! 私はクラウ様だから側に居たいんです」
ミアはクラウの背中に腕を回す。
小さな体がすがるようにきゅっと抱き着いてきて、クラウはたまらない気持ちになった。
愛おしさが溢れて苦しかった。
「結婚式まで待つなんて……、もう無理だ」
色気のある低い声がミアの耳をくすぐった。
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