第17話 カルノの不敵な笑み

その日、ミアは庭の花壇前で座り込んでいた。


(どこにいても居心地悪いわ……)


気分転換に外に出て花を見ているだけなのに背中に視線を感じる。

衛兵の姿は間近にないものの逃げられないように監視されていた。


(クラウ様はああいっていたけど、もう二日たったわ。でもなにも進展がなさそうだし……。逃げるつもりもないのにこんなに四六時中見られているのも……)


ハァとため息をつくと近づいてくる足音が聞こえた。

顔を上げるとそこにはカルノが微笑みながら立っていたのだ。


「カルノ様……」

「ミア様、ごきげんよう。もっと気落ちしているかと思ったけれど顔色がよろしいですね」

「何しに来たんですか?」


堅い声で聞くとカルノはフフっと不敵に笑った。


「クラウ様のこと、まだ諦めていないの?」

「……」

「クラウ様って本当素敵だものね。見目麗しく、剣術も学力も全てにおいて完璧。国民からの信も厚いし、みなさんクラウ様が国王になることを楽しみにされているわ」


「だからね」とカルノは顔を寄せてきた。


「クラウ様には他国の女よりもこの国の女と結婚し、正当な血統を残す必要があるの」

「正当な血統……」


確かにカルノの言う通り、クラウがミアと結婚したら正当なこの国の血を引く子供が産まれなくなる。

そこは少し思っていたところだった。


「ふふ。でね、昨日その話をクラウ様に言いに行ったのよ」

「え? 部屋に行ったんですか?」

「そうよ。正式な血統な話をしにね。そしたら……ふふふ」


カルノは頬を赤らめた。


「私を受け入れてくれたわ」

「え……、受け入れた……とは?」


含むいい方に表情が固まる。


「昨日は一晩、クラウ様の部屋で過ごしたの。これがどういう意味か分かるわよね?」

「え……」


ミアは言葉を失った。

カルノは嬉しそうに微笑むと庭から出て行った。

残されたミアは呆然とたたずむしかできない。


「一晩……」


いくら初心なミアでもこれが意味することくらい分かっていた。


「クラウ様がそんなことするわけない……」


(でも……)


この国は王妃以外にも側室を持つことは違法ではない。

特に王室なら後継者を多く残さなければならない。

そう考えるとクラウがミア以外に側室を持ち子孫を残すことはあり得ることだ。


ミアは目の前が真っ暗になった。

カルノは婚約者ではないが元婚約者。

本妻になれないのなら側室になろうとしているのだろうか?

それとも先に子を作ってしまい、ミアを追い出そうとしているのだろうか……。

考えれば考えるほど苦しくてうまく呼吸ができなかった。


(クラウ様には私以外の女性に触れてほしくない……。それにカルノ様はジルズ大臣の娘であるが元婚約者。昔から親しい間柄だった。実は前からそう言った関係性だったのでは……?)


そんなことあるはずがないとミアは首を振る。

クラウに限ってそんな風に女遊びをするとは思えなかった。


(だとしたら本気で……?)


ミアはいつの間にか涙が溢れていた。

その様子に衛兵も気が付いたのだろう。

こちらを伺う気配を感じる。

見られないように俯いて、涙を隠したまま部屋の中へ戻って行った。


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