第28話 検索

 ハンバーグにオムレツ、冷製コーンポタージュにオレンジジュース。おまけに御飯はいつもの茶碗ではなく、お皿の上に盛り付けられたライスっと、気味が悪いほど豪華すぎる昼食を終えた。


「あーあー。花蓮ちゃんに食べて欲しかったなぁー」


 母はずっとこの調子で、机に突っ伏している。僕はその背中を哀れに思いつつ、なんとなくリビングの共用パソコンに向かった。

 花蓮は、みるくの情報を勝つために集めていると言っていた。ならば――少しずるい気もするが、彼女のことを知っておくのも悪くないと思ったのだ。


 検索にかけると、六百四十万のサイトがヒットした。めまいすら覚える情報の量。僕はとりあえず、誰もが書き込める情報ページを開いた。正しさに保証はないが、情報はきちんとまとめらているはずだ。

 クリックすると、以下のような記事が出た。


『相田 花蓮(あいだ かれん)は、日本のタレントである。主な活動はドラマ・映画で、若手女優としていくつもの賞に輝いている。また、白鳥ちせらとともに町田市観光親善大使を務める。 東京都町田市出身。ピミットプロダクション所属』


 基本的な情報を読み終え、画面をスクロールしていく。その中で一箇所、気になる記事があった。


『花蓮のデビューは実兄である相田 鈴緒(あいだ すずお)との共演である、『兄妹ソウルマティック』。また、二つ年上の相田 鈴緒は現在タレント活動を休止している』

「……なにが気になるんだっけ?」


 頭の中のひっかかりを探ってみる。しかし思い当たるものは特に出てこなかった。それからしばらくもネットサーフィンを続けたが、めぼしい情報は出てこなかった。いつか聞いたマフラーのエピソードも本人に会ったあとでは冗談でしか思えないように、花蓮の作られた人格に関するものとしか思えない。


 パソコンを閉じる。それから、しばし花蓮の言葉について考えてみた。

 何かを選ぶこと。

 大切なもの一つ見定めて、他の物を切り捨てること。この僕に……そんなことが、出来るのであろうか、とか。


 例えばジミィですら、今では悪印象をほとんど持っていない。彼は彼なりに生き残るために策略を練り、そして真っ向から戦っているだけだ。

 僕はあのゲームで出会った人の誰ひとりとして、消したくはないのだと思う。それは、本当に心の底からそう思う。


 このゲームは……残酷だ。

 嘘をついて人を蹴落とし、誰かを消失へと近づけて、生き残るために生き返るとはいえ人を殺させる。

 一体――何がさせたいのだ。

 こんな戦いはしたくない。僕は普通に、平穏に、ただ緩やかに生きていきたい。今まで当たり前に喜受していたものを、これからも当たり前に受け取っていきたい。


 それなのに――今の状況は、まるで袋小路だった。

 何をするにしても、誰かを傷つけ、何をするにしても、自分を傷つける。

 雛乃に都を殺せと言われたとき、僕はそれをしたくなかった。その気持ちに嘘はない。絶対に、もう二度と、裏切ってはいけないモノのように思えた。

 何より――自分自身の気持ちを。


「……製作者、か」


 その人物を見つけ出して、鼻っ柱の一つでも叩いてやれば、この状況から救われるのだろうか? そうかもしれない。しかし、人間の動きが止まるような、世界を異世界に変えてしまうような、そんな人物である。

 歯向かうことは――可能なのだろうか?

 まず、どこの誰かも分からないし、相手は本物の悪魔かもしれないのだ。閉じたパソコンを開いてみた。検索ワードに悪魔といれて調べてみる。四千二百三十万がヒットした。


『悪魔(あくま)は、特定の宗教文化に根ざした悪しき超自然的存在や、悪を象徴する超越的存在をあらわす言葉である』


 なんともぼやっとした説明文句だなと思った。

 再びパソコンを閉じる。これから、何をすべきなのかを考えた。

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