第10話 日常
いつものように七時頃に父さんが帰宅した。母さんが用意していた夕ご飯を並べる。今夜のメニューはサラダとから揚げ、そしてみそ汁だった。白米を口に頬張りながら、四人でテレビを眺めつつ会話をする。
テレビ画面には、ここ一年で人気が出てきた十六歳のタレント少女が映っていた。
「かわいいねぇー。相田花蓮ちゃん! もう、キュート&プリティーで思わずペロペロしたいくらい!」
母さんがうっとりした眼差しでそんなことを言う。父さんは少し、むっとしているようだった。
「そんなに可愛いかね、この子」
「何言ってんのよあなた! このくりくりの大きな瞳! 程よい長さのボブカット! まるでさくらんぼも入らないような小さなお口! とってもとっても可愛いじゃない!」
「……そ」
「…………あれ? なに、もしかしてすねてるの?」
「……」
「ねえ、ねえ、すねてるの?」
母さんがつんつんと肘で父さんをつつく。父さんは顔を若干赤めつつも満更でもない雰囲気だった。
いい年こいてなにやってんだか、と思わないこともないが、両親の仲が良好なのは悪くない。僕は無表情を意識してからあげに箸を伸ばした。
父さんと母さんは、前はこんな感じではなかった。仲が悪かったわけではないが、ここまで熱々というのは、姉さんが部屋に引きこもって以来のことだった。仲の悪い国同士に手を取り合わせるには、共通の敵を作るのが一番という理屈は、一般家庭でも採用されるらしい。
「まあでも、花蓮ちゃん良いよねー。可愛いだけじゃなくって、性格も良いし! うちも大好きだよー」
紅那が両親の会話へと混ざっていく。いつもなら僕も適当に参加するのだが――
「ごちそうさまでした」
「あら直也。おかわりはいいの? からあげは大好物じゃない」
「うん……今日はちょっと、食欲がなくて」
実際、茶碗の中も半分ほどが余っている。申し訳ないと思いつつ、食べる気がしなかったのは事実だ。
「あら。夏バテにしては早いんじゃない?」
「そんなんじゃないよ」
ただ、人の死体を見ただけだ。人を殺しただけだ。人に殺されただけだ。
そんな言葉を思い浮かべて、喉の奥が再び気味悪くうごめいた。僕は立ち上がり食器をキッチンへと運び、家族に声をかけて自室に上がった。
そのままベッドに倒れこみ、僕は泥のように眠った。
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