第51話 二人の女勇者
私は《鑑定眼》を発動させ、ちらっとフレイアの姿を捉える。
他の眷属達と同様、名前と職種以外の情報はエラー表示された。
予想だとレベル50は超えていると思って良さそうね。
そんなフレイアに問われ、私と香帆は無言で頷いて見せる。
仮にも『召使い奴隷』という設定なので、詳しく説明するのも不自然な話だ。
「そうですか。あれほど頑なに断り続けてきたタフミル王が、ここにきて統合の要求を呑むとは……些か疑念を感じずにはいられませんわ。貴女達は王からなんと言われて来ましたの?」
「私達は奴隷の身……ただご命令の通り来ただけですので」
用心深い性格からか、私達からも事情を聴き探ってくる。
既にゲルマンことトックから内容は聞いているよね?
てか、そのトックの姿がどこにも見えないわ。
(……何か嫌な予感がする。アイリス、その辺でいいから探って頂戴)
『了解しました。けどあまり女神をこき使わないでください』
アイリスは私の肩から離れ、不満気に頬を膨らせて飛び去った。
私達以外には見えないから偵察には打って付けだ。
たとえ駄女神だろうと使えるモノはとことん使ってやるわ。
アイリスが戻るまで時間を稼いでおくか。
「……あのぅ、私達はどうなるのでしょう?」
「貴女達は評判通り器量は良いので、当面はわたくしの傍に置いてもよろしくてよ」
「ありがとうございます。それでご主人様にお仕えする上でなんとお呼びすればよろしいのでしょうか?」
「自己紹介が遅れましたわ。わたくしはフレイア、『氷帝国』を代表する勇者であり執政官の立場です。またこうして軍を統率する総督でもありますの」
『氷帝国』は共和制であり君主こと国王はいない。
したがって民から選ばれた者が代表として国を統制する元首の大統領、あるいは執政官と呼ばれる。
聞こえはさも民意を反映させた平等っぽい感じだけど、大抵は出来レースで決められるパターンが多いと聞く。任期があろうとなかろうと然程変わらないみたい。
また王家と違い歴史や風習なんてあったもんじゃないから、ある意味個人のやりたい放題ね。
勇者でありながら他国に脅威をもたらしている、この一連の騒動こそが何より物語っているわ。
現実世界でも情報統制して戦争仕掛けてくる独裁者がいるくらいだから、異世界じゃ余計に質が悪いってものね。
「――帝国の民達はお嬢様を『閣下』とお呼びしております」
不意に後方に控え置物と化していた大男が丁寧な口調で言ってくる。
お嬢様とはフレイアのことか。
「この者は『タイガ』。我が『氷帝国軍』を誇る軍団長にして、わたくし専属の執事でもあります。今後彼のことは『徳永』とお呼びなさい」
「徳永?」
「私からの要望でございます。お嬢様を始め、眷属から部下に至るまでそう呼んで頂くようお願いしております故」
……徳永ね。
もろ現実世界、しかも日本人の名字じゃない。
てことは、その大男は転生者。
きっとフレイアも同じだわ……今回の手口やあの眷属達といい、巧みに情報戦を操る辺りなんてそれっぽいもの。
間もなくして、アイリスが戻ってくる。
やたら血相を変えていた。
『はわわわ! み、美桜さん、大変ですぅ!! トックさんが地下の牢獄で拘束され逆さに吊るされていますぅぅぅ!!!』
やっぱりバレてたのね!
あいつアドリブが下手だから問い詰められていくうちにボロを出したに違いないわ!
(それでトックは変身を解いているの!?)
『いえ、まだゲルマンの姿をしたままでした……』
そうか、なら挙動不審で疑わしいってだけで拘束された感じね。
フォーリアの勇者ってことまでは知られてない筈よ。
同伴した私達も怪しいとは思われているけど、まだ確信を持てないから探られている状況かしら?
どおりで兵士達が多い気がしたら、それ故の厳重体制ってことね。
もう潮時か……別にいいわ。
目的は果たしているようなものだしね。
私は思念で香帆に合図を送る。
「貴女達の名前、まだ聞いておりませんでしたわ。なんて仰いますの?」
「はい、私は美桜。聖光国フォーリアの勇者です――」
私は立ち上がり《アイテムボックス》を出現させ、瞬時にフル装備状態となった。
今回は《
女子としての美桜だ。
「同じくファロスリエン、勇者ミオの眷属だよん」
香帆も同様に
不意をついた勇者の出現に、左右の兵士達はざわつき「なんだと貴様ァ!?」「おのれぇ、謀ったなぁ!」と声を荒げ腰元の剣を抜いた。
反面、フレイアを始めとする執事の軍団長と眷属達は動じずにじぃっと見据えている。
「……ふ~ん。大方、そんなことだろうと思いましたわ。だって貴女達、奴隷の目をしておりませんもの。キラキラと希望に満ちた美しき瞳の輝きを宿していますわ。しかし、ミオさんと仰いましたね? 正直意外でしたわ」
「何がよ?」
「貴女が勇者だということですわ。確か、フォーリアが召喚した五人の勇者には女子はいないと聞いておりますが?」
「話せば長くなるけど敵を騙すには味方から……いや私にとってはどっちもどっちね。ひと言でいえば自分の身を守るため、普段は男として偽っているのよ」
「では今は?」
「あんた達に偽る意味がないからよ。私からも一つ聞いてもいいかしら、『氷帝の魔女』さん?」
「フレイアで結構ですわ、それで?」
「ゲルマンに扮した奴、投獄して地下牢で吊るしているでしょ? どうして偽物だと気づいたの?」
「いくら姿や形、癖や仕草など完璧に似せても目を見れば大体はわかります。それにわたくしを見つめてはやたら鼻息が荒かったり、質問に対する説明もしどろもどろ……どう見ても不審者でしたので捕らえてみたまでですわ。やはりあの方も勇者でしょうか? 魔法による変身ではないようなのでユニークスキルですわね?」
やっぱトックの奴め。
アドリブ不足の上にフレイアを見てスケベ心で興奮したのが運のつきだったようだわ。
あいつ変装は得意でも演技自体は糞下手なのが致命的ね。
「そうよ。けど別に仲間でもなんでもないから煮るなり焼くなり好きにしていいわよ。てか邪魔でしかないから、今すぐやっちゃってぇ」
「まぁ貴女達、勇者同士は険悪の間柄とも聞いておりますわ。用済みになれば解放しますのでご安心を」
別にガチでヤッちゃってもいいんだけど。
寧ろ解放された方が安心できないわ。
にしても、さっきからこの女……さっきからこちらの事情に詳しいわね。
私が女子ってこと以外はお見通しって感じだわ。
まさか、こいつ……。
「間者がいるのね? オクタールや周辺の同盟国以外、フォーリアも含めて」
「ええ、仰るとおりですわ。相手を制するのに情報戦は不可欠ですからね。しかしミオさん……貴女、どうして仲間の勇者が地下牢に吊るされていることを知っておりますの? ここに来られたのは初めてにもかかわらず……その聡明なところといい、わたくし次第に興味が湧いてきましたわ」
フレイアはフッと笑みを浮かべ玉座から立ち上がった。
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