第40話 魂の搾取
あれから10カ月ほどの月日が流れた。
「――《
「おのれぇ! 卑怯だぞぉ、このぅ女勇者めぇぇぇ!!!」
香帆は大鎌を振るい、魔王の首を刎ねた。
私を囮にした背後から不意をつく必殺の一撃だ。
魔王の名は「ダイ」と名乗っており、こいつも『邪神メネーラ』に転生された現実世界の人間であり魔族だった。
ちなみの現実世界は「早坂 大助」という、元空き巣強盗をしていた生粋のクズだとか。
そんな経歴もあってか魔王の癖にやたら
敵の素性とアビリティを看破する能力に長け、また武器や装備など強引に奪い取る《強奪》スキルや《搾取》スキルというHPとMPを奪うドレイン系のスキルを持っている。
さらにレベル50と明らかに前回の「タチャ」より強力で格上の魔王だ。
当時、私達は例の美少女冒険者こと「ミコちゃん&カホちゃん」に扮して、とあるクエストの討伐パーティ隊に加わっていた。
それは聖光国フォーリアと同盟を結ぶ隣国のダンジョンで異常発生した『モンスター
しかしそれは魔王ダイの仕業であり、勇者達をダンジョンに引き付けて空き巣となったフォーリア国を攻めようと罠を張っている最中だった。
そのためにまず、ダンジョンに侵入した冒険者を一網打尽にして『難解クエスト』として勇者達をおびき寄せようと試みていたが、まさか冒険者の中にその勇者が紛れ込んでいたとは当然ながら誰も知る由もなく。
唯一、《看破》スキルを持つ魔王ダイは私の存在にいち早く気づき大量のモンスターで襲わせるも、一緒に組んでいたパーティ達を囮にして《タイマー》で時を奪い返り討ちにした。
そして魔王ダイと対峙し戦闘となるが、先程述べたスキル能力で思わぬ苦戦を強いられてしまった。
私が女子であることは勿論、ユニークスキル《タイマー》の能力ですら見破られてしまったのだ。
魔王ダイは前回のタチャと同様に体を浮かせ、私のHPとMPを大量に奪い、武器や装備なども奪われてしまった。
しかしそこまではシリアス路線で戦っていた魔王ダイの態度が一変する。
「うほほほ~っ! あと一枚……その
「や、やめて、お願い……」
「ひゃはーっ! そんなピチピチでたまんねぇ体を前にしてやめられるかぁぁぁ! 全てひん剥いてエロゲーみたいに触手拘束プレイのぐちょぐちょまみれにしてやんよぉぉぉ!!!」
「――うっさい、変態ドスケベ野郎が! 魂ごと消えろぉぉぉ!」
不意に香帆が魔王ダイの背後で姿を現した。
彼女は私の指示で、新しく習得した《
索敵スキルの高い魔王に気づかれないよう、隙を見計らったタイミングで飛びつき、主力武器である『
そして香帆が放った《
「俺の油断を誘うために勇者が自らを囮にしただとぉ!? おのれぇ! 卑怯だぞぉ、このぅ女勇者めぇぇぇ!!!」
「ざまぁね。スケベ心を出したあんたの負けよ」
地面に転がりながら恨み節を吐く魔王ダイに、私は言い放つ。
しかし無惨に首を刎ねられたというのに、まだ意識があるのか?
やはり『邪神メネーラ』の加護を受けた者はそう簡単に死なないようだ。
定番のRPGとかなら第二形態とかになってそうね。
けど、香帆のユニークスキルはそんなに甘くない。
「ギャアァァァァァ! 俺の思考がぁぁぁ、精神がぁぁぁぁ、魂がぁぁぁぁ消えてしまうぅぅぅ! 嫌だぁ、消滅したくなぁぁぁ――……」
魂ごと刈り取られた断末魔の叫びの途中で、魔王ダイの意識は途絶え消失した。
残された肉体も塵と化して崩れ去り、レッドストーンの『
「終わったわね。香帆、ご苦労様」
「美桜ぉ、大丈夫ぅ? あいつに汚されてない?」
「……見ての通り無事よ。お願いだから変な言い方しないで」
私は魔王に奪われていた装備と武器を回収して身に纏う。
『二人共よく頑張りました。にしても美桜さん、今回はセクシー路線ですね? ついに行くところまで行って、やっぱエグイですぅ』
ずっと静観してアイリスが呑気な口調で思念を送ってきた。
ムカつくわ。好きでこうなったんじゃないんだけど。
「ポンコツ駄女神は放っておいて、香帆が覚醒したユニークスキル……《
何せどんな敵だろうと瞬殺だからね。
私は《鑑定眼》でその全貌を閲覧した。
〇ファロスリエン(水越 香帆)
【ユニークスキル】
《
〔能力内容〕
・攻撃を与えた者の魂を肉体から分離させるスキル。ある意味、一撃必殺のスキル。
・他のスキルと魔法と連動させ、様々な技を繰り出すことが可能。
・自身の幽体離脱も可能であり、分身と化したドッペルゲンガーを戦わせることができる。
〔弱点〕
・攻撃技を放った際、必ず9割のMPを消費する(残りMPが少なくても、残数値の9割は必ず消費される)。
・自身が幽体離脱した場合、5分以内に肉体に戻らないと完全に死に至る。
〔補足〕
・いくつかのバリエーションがあり様々な効果を持つが、『魂の採取』効果は変わらない。
なんともはや……。
ある意味でチート級、実際に魔王ですらオーバーキルだからね。
ただしどんな状況だろうと必ず9割のMPが消費する点だと連続使用はできない、それこそ必殺技として使うべきスキルだわ。
「美桜ぉ、あたしレベル上がって『レベル45』になったよぉ」
「そうみたいね。私も『レベル45』よ。レベリング自体は順調ね」
あれからアイリスが立てた悪辣な作戦通り、「ミコちゃん&カホちゃん」で高レベルのパーティに臨時で加入しまくっていた。
人は第一印象の80%は見た目で決まると言われているだけに、特に男性が多い冒険者パーティにはバカウケして初級冒険者だろうと怪しまれず即採用される。
そうしてクエスト中は強力なモンスター戦の時だけ、《タイマー》で時間を奪い二人で速攻で斃し経験値を稼いだ。
また今後のことを見据えて冒険者ミオとしてでも難易度の高いクエストを引き受けるため、ギルドでのランクを上げなければならない。
そのために多少、物足りないクエストでもランクが上がりそうな任務を果敢にこなしていった。
これら同時作業をこなしていったおかげで、本来のレベルとアビリティをギルドカードで表記される内容の帳尻を合わせ調整していく。
そんな中、受付嬢のルナから「お二人共、普通はありえません! いくらなんでも最速すぎますよぉ!?」と驚愕されてしまう。
けど剥奪されたにせよ、一応は勇者だし実際に魔王を斃している実績から「この人達は特別かもしれない」と割り切られてもいた。
そして定期的に陰キャ勇者コウキから、他の勇者達も順調にレベルアップしていると報告が入っている。
若干の差はあるが、それぞれレベル27となり『停滞期』を突破したと知らせだ。
しかし腰巾着勇者トックだけ、最近何か様子が可笑しいという情報もある。
まぁ、こいつは最初っから可笑しい奴だけどね。
さらにこんな噂もよく耳にしている。
最近、魔王だけでなく国同士のいざこざも絶えないと――。
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