第39話 刻を統べる勇者

 翌朝、私と香帆は謁見の間に呼ばれた。

 魔王タチャを討伐した報奨金を頂くためだ。


 しかし玉座には普段と異なる人物が座っていた。


「――ミオ様。父のヨハインは昨夜の宴にて喉を傷め、朝から声を出せない状態です。ご無礼ながら、この私が代理として対応させて頂きますので、どうかご察しのほどお願いいたします」


 クレア王女だ。


 どうやら国王はスピーチのしすぎで喉を傷めてしまい欠席となったらしい。

 結局おひらきになるまで延々と喋っていたようだからね。

 あれじゃ無理もないわ。

 けどそんなの回復薬ポーション飲めばすぐに回復するんじゃないの?

 

『王族の方って、そういうの極力避ける風習があるんですよ。ラノベで登場する王様だって栄養ドリンクをぐびぐび飲んでいるシーンや描写なんてないでしょ?』


 少なくても私が求める返答じゃないわね、アイリス。

 栄養ドリンクと回復薬ポーション、まったく脈略ない話じゃない。

 まぁ確かに多少の不調で飲むものでもないし、どうでもいいわ。


 それにヨハイン国王が欠席したことで、いつもは隣でスカして顔で立っているセラニアの姿もない。

 だからかしら? いつになくここの空気が綺麗なのは。


 私は王族への礼節に乗っ取り、クレア王女の前で跪いて見せた。

 香帆も揃って同じ行動を取る。


 昨日のふてぶてしい態度から一変した様子に、また周囲がどよめいた。


「クレア王女のご配慮。このミオ、謹んでお受け致します」


 ちゃんとしてくれる人には相応の礼儀を持って接する。

 それが私よ。


 けど何故かしら?

 クレア王女は「ミオ様……なんて麗しいのでしょう」と呟き、頬をピンク色に染めている。


(ありゃガチ惚れだねぇ。美桜ってラノベ主人公ばりに無自覚たらしだよねぇ……クレアっちに美桜を取られないよう気をつけよっと)


(はぁ? 何言ってんのよ! 私は女よ!)


 香帆まで可笑しなことを思念で言ってくる。

 この子、時折言動が百合っぽいのよね。

 クレア王女は男子の姿である私に気があるだけよ!


 それから特に揉めることなく報奨金を受け取る。

 気持ち良いくらいスムーズだわ。

 いっそ「クレア王女が国王やってよね」と思うくらいよ。


 肝心の報奨金の中身は、金貨100枚で1000万Gも入っていた。

 あのケチ臭いヨハイン国王にしては、あまりにも羽振りが良すぎる。

 きっとクレア王女がイロつけてくれたんでしょうね……。

 ガチでいい子、男だったら間違いなく惚れているかもしれないわ。



 こうして無事に王城に出から、送迎馬車で宿屋まで戻った。

 

「物凄く疲れたわ……けど収穫も多く、冒険者としては上々な成果ね」


『国中の悪評も払拭されつつありますし、四勇者の皆さんとも繋がりが持てましたしね』


「あくまで将来的な『肉の盾』としてだけどね。そういえばアイリス、あんたって私から離れて遠くまで行けるフェアリーなの?」


『ええ一応は……けどわたし、美桜さんの傍にいないと女神としての「神力」が維持できず、ただ蠅の如く飛ぶだけのフェアリーとなってしまいます』


 アイリスの話だと、ほんの僅か程度だが契約した私の魔力をフェアリー体のアバターに共有させているのだとか。


「それでも自分の意志を持ち、今のように私達にしか見えない存在なのよね?」


『はい。けど離れられてもせいぜい丸一日くらいですよ。それ以上だと、この体は消滅してしまいますので……それが何か?』


「いえ、時折スパイのコウキとやり取りする上で確認しただけよ。香帆のようにあんたを中継して思念でやり取りはできるけど距離や範囲だって限られているでしょ?」


『そうですね。国内じゃ問題ないですけど、国同士を跨いでしまうと流石に無理ですね。ただ、わたしが範囲ぎりぎりの中間地点にいれば、それだけ距離は伸びる道理ではありますけど……』


 まるでWi-Fiの中継機みたいなルールね。

 でも連絡ツールとしては使えるわ。

 それに斥候役としても問題ないようだ。

 特に敵陣や他の勇者達の監視役に打ってつけね。


 これぞバカと駄女神は使いようってところかしら(笑)。


『……美桜さん、わたしに対して今とても失礼なこと思ってません? 正直に言えば今なら寛大な心で許して差しあげますので教えてください』


 駄女神に癖に脳の半分以上は野性的な直感で動いているからか、やたら勘だけはいいわ。

 私は「別にそんなことないわ」と返答し、《アイテムボックス》を開き所持品を確認する。


「ねぇ美桜ぉ、これからどうすんのぅ?」


 ベッドで寝そべる香帆が訊いてくる。


「他の勇者と同じよ、レベルアップに励むわ。手っ取り早いのは強いモンスターを狩りまくることだけど、一つだけ問題が発生しているわ」


「問題ってなーに?」


「ギルドよ。私と香帆は駄女神パワーでステータスを偽って低く登録しているからね。そのままの状態だと大したクエストを引き受けられないわ……かと言って、いきなり『レベル25になっちゃいましたけど、何か?』は無いでしょ?」


「そっだねぇ……いっそルナっちにだけ正直にぶっちゃけてみるぅ? 四バカ勇者には既にレベルを教えちゃったんでしょ?」


「四バカ勇者共は絶対に言わない、いえ『言えない』と確信があったから話ただけよ。奴らプライドだけはエベレスト並みに高いからね。仮に言えるとしたら、ある程度自分達が強くなって自信が持てるようになってからでしょうね」


 その頃には『肉の壁』として熟知したことを意味する。

 私としては結果オーライよ。


『では、こうしては如何でしょう。また貴女達があざと系美少女の「ミコちゃん&カコちゃん」となり、高ランクの冒険者のパーティに臨時加入して、強いモンスターと遭遇した際に《タイマー》で一気にかっさらって斃してしまうなんていうのは……って、はわわわ!? わたしったら善良女神なのになんてあくどい手段を……汚染されてるぅ! 完全にこの悪女二人に毒され汚染されてますぅぅぅ!!!』


「……獲得する報酬金は低いけど、レベリングとしてはいい案ね。やるじゃない、アイリス! ナイスアイディアよ!」


「見直したよぉ、やるねぇ女神ちゃん!」


『えへへへ~っ、お二人に褒められるとわたし照れちゃいますぅ……てっ、美桜さん。貴女、さっきわたしを駄女神だと何気に言いましたね? 危なく聞き逃すこところだったんですけどぉぉぉ!』


 悪知恵を提案したと思ったら卑下して絶叫し、照れたと思ったらブチギレる。

 なんともネチっこくて忙しい女神だわ。




 こうしてまだ完全ではないにせよ、それなりに順調な形で私達のレベルアップの日々が続くことになる。

 とはいえ、『災厄周期シーズン』はまだ始まったばかりで、魔王タチャが話していた『セブンローズ(七君主)』や『邪神メネーラ』の存在など課題は山積みだ。


 けど私は一人じゃない。

 香帆という頼もしいバディに、駄女神でもアイリスという加護を得ている。

 仲間達と協力すれば、どんな強敵や困難だろうと負ける気がしない。


 必ず『災厄周期シーズン』を終わらせ現実世界に戻ってみせるわ。

 大切な家族と愛しい弟の真乙と過ごすために――。


 そう、私は勇者ミオ。

 刻を統べる勇者よ。



 って、あれ?

 なんか最終話みたいなノリね。


 きっとまだ続くと思うわ。




 この女勇者はエグすぎる~転移ガチャでハズレ勇者として追放されたけど、実は普通に無双できるので超余裕!


 第一部 《完》

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