第36話 勇者達のぐだぐだ会議

「……よ、よぉ、ミオ。お前もパーティーに呼ばれたんだな?」


 長い沈黙の中、意外にもハルデの方から声を掛けてきた。


「ええ、まぁ……あまり気乗りしないけど、報酬金をくれるというので」


「そっか……魔王斃したんだからいいんじゃね」


「んで、ミオ。どうやって、あのバカ強い魔王タチャを斃したんだ? オイラ達に教えてくれよ」


 トックまでおどおどしながら訊いてくる。


「それは企業秘密ってやつで……みんなだって何かしら戦い方とか隠しているんじゃないですか?」


「俺は何も隠しておらん! 見ろ、この鍛え上げた筋肉が全てを物語っている!」


 マーボは椅子から立ち上がり脳筋らしくマッチョポーズを披露し見せつけてきた。


「……いや、きっとみんな隠しているでしょ? ミオ君にばかり聞いて自分達は教えないとか些か不公平じゃないか? ミオ君に情報を聞きたいのなら相応の素材を彼に提供するべきだと思うよ」


 コウキはさも公平さを装っているが、陰では私の眷属でありスパイなので基本はこっち側だ。

 きっと私がどうやって魔王タチャを始末したのかわかっている筈。

 陰キャの割には他の三勇者から一目置かれているから、会話で誘導することも容易ね。


 ここは勇者達から情報を聞き出し、いい感じの強化やレベリング方法だったら私も実践してみようかしら。


「隠し事か? 俺は転移した直後、ラノベやエロゲーばりに美少女だらけのハーレム王国を築こうと夢見てたけど、ミコちゃんとカホちゃんに出会ってからというもの、今じゃ彼女達にぞっこんでピュアラブ派に目覚めたってところかな……」


 どうでもいい情報だわ、ハルデ。

 却下よ。


「オイラは別に何もないよ。これまで通り、ハルデくんの大親友さぁ」


 嘘つけ、腹黒トック。

 あんた今でもその男に殺意抱いているでしょ?

 肉眼でも見えるくらい負のオーラで満ち溢れているわ。

 こいつも却下ね。


「俺が隠していることか……まぁプロティン代わりに、道具屋であらゆる回復薬ポーションと劇薬を買い占め交互に飲んで試していくうちに《毒耐性》スキルがカンストしたり、他にも《耐性》が色々とついて『状態異常』になりにくくなったくらいだぞ」


 マーボにしては中々の有力情報ね。

 けど脳筋のあんたにしかできない無茶苦茶な芸当よ。

 普通は死ぬわ。

 良い子が真似しちゃ危険なので却下。


「……僕は勇者でも眷属になれることを知ったよ。あとこの世には魔王よりもエグくて絶対に逆らっちゃいけない狂気なる方がいる。いずれお前達も『あの方』に裁かれる日がくるだろう……ククク」


 それ私のこと言ってるの、コウキ?

 あんた、それ以上余計なこと言ったら殺すからね。

 こいつ普段は冷静で理論派だけど、厨二病なのか時折自分の世界にトリップするところがあるわ。

 案外、要注意人物かもね。

 当然、却下よ。


 ……てか、どいつもポンコツな隠し事や情報しか持ってないわ。

 まだ異世界をMMORPGや仮想現実のゲームと勘違いして、浅はかで舐めた認識による行動で現地の住人に迷惑かけまくっている転生・転移者の方が余程マシなくらいね。

 

 まぁ、こいつらの何も疑問を持たないお気楽思考のおかげなのか、物事に対する順応性だけは抜群に高いようだけど。

 その点は前回一緒に旅してわかったことだわ。


 あとは各々の勇者達が持つユニークスキルね……。

 どいつもようやくレベル10で、まだまだ話にならないけど戦い方によっては魔王戦に通じる能力があったわ。

 特にハルデ、マーボ、コウキは型にさえハマれば相当な脅威よ。

 トックは戦闘向きじゃないけど、パーティごと変身させるなど需要が高く隠密行動や伏兵など汎用性に優れ決して侮れないものがある。


 私がレベル倍以上の魔王タチャと互角以上に戦えたのも、多少なりとこいつらのおかげでもあるからね。


 しょうがない。

 少しだけタネを明かしながらレベリングとか教えてあげるか。


「――今だから言いますけど、魔王タチャと戦った時、僕はレベル22ありました」


「はぁ!? レベル22だぁ! う、嘘だろ!?」


「いや、《鑑定眼》じゃ、お前レベル6だったじゃんか!?」


「普段は《隠蔽》スキルでステータスを隠しています。ちなみにカンストしているので、貴方達では覗くことはできません」


「では、それからさらに強くなったってことか?」


「ええ、魔王戦の後も色々とモンスターを狩ってましたので……今は『停滞期』に入った段階でしょうか」


「……停滞期って確か、冒険者が一定のレベルから上昇が難しくなるという現象だよね? ということは、現段階でミオ君はレベル25くらい? げぇ! ど、どうりで……」


 コウキは一人で納得し怯え出し身を縮こませる。

 ちなみに『停滞期』を乗り越え、レベル30に達するとギルドではエリート冒険者として扱われるらしい。


「ちょい待て! ってことはミオはたった一ヶ月ちょっとで、冒険者として中間地点に立っているってことか!? 俺らでさえ、ようやくレベル10だってのによぉ!」


「そうなりますね。ハルデ君、周りには秘密ですよ……まぁ言っても勇者の貴方達と僕を追い出したヨハイン国王が恥を掻くだけですけど」


 何せ底辺だと見くびっていた私に、まんまと出し抜かれているんですからね。

 勇者を剥奪された冒険者にこれだけ差がつけられていれば国中の笑い者よ。


「しかしだ。たとえ魔王戦で既にレベル22だったとしても、よく勝利したものだ。お前さんのユニークスキルは確かに一騎打ち向きではあるが、レベル47の相手だと直接触れるのは至難の業だろ?」


「そうだ、コウキ! お前、ミオに協力して罠を設置して発動したよな? そこに秘密があるんじゃね!?」


 トックにしては勘がいいわね。

 まさにその通りだけど、私の《タイマー》が連動と増幅機能を持つことは秘密よ。


「……僕はミオ君に頼まれた通りにやったのでわかりません(忠実な陰の眷属として言えませんねぇ……てか『陰の眷属』。うん実力者みたいで響き良くね? カッコイイ~!)」


 コウキは説明しながら「ヒヒヒ」と薄ら笑いを浮かべている。

 また自分の世界にトリップしているようだ。


「さっきも言った通り、僕が魔王を斃した経緯については秘密ですが、これまで実際に行ったレベリングについては同じ転移者のよしみとして教えても良いですが、どうします?」


「聞きたい」


「聞きたいっす」


「頼む、教えてくれ」


「……知りたいです、ハイ」


 四バカ勇者達は身を乗り出し、素直に傾聴する態度を見せてくる。


 魔王戦の教訓もあってか、こいつらにも強くなければ異世界では生き残れないという危機感が少しは芽生えたようね。

 いつも物事に楽観的で頭悪そうにおちゃらけているものだから、やる気のないクズ共とばかりに思っていたわ。

 貪欲に強さを求める姿勢に何故かホッとするわね。

 

「わかりました。では教えましょう――」


『あ、あれれぇ? いつもの美桜さんなら勇者達に「土下座したら教えてあげるわ、アーッハハハ!」と凶悪な形相で高笑いしそうな場面なのですが……ひょっとして何か悪いモノでも食べました?』


 アイリス……あんたが普段どんなキャラづけで、私のこと見ているのかよくわかったわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る