第35話 凱旋パーティー

「教えません」


「な、なんだと?」


 あっさり喋るとでも思ったのだろうか。

 ヨハイン国王は玉座から身を乗り出す勢いで驚愕している。


 私はニヤっと口端を微かに上げた。


「個人情報なので教えるわけにはいかないと申しているのです。僕は陛下に勇者職を剥奪された身ですよ。国に仕えているわけでないし特に恩義もあるわけもありませんので……ヨハイン国王、貴方達に教える義理はないと思っています」


「この無礼者ッ! 国王に向かってなんて暴言を――」


 セラニアがギャーギャー騒いでいるけど無視するわ。

 だってこんなマウント取れる展開なんて滅多にないもの。


「魔王タチャについては、冒険者としてギルドのクエストついでに斃したまでです。ここまで足を運んだのは、あくまでいち庶民として義務を果たしたまでですよ」


「どうしても教えてほしいんなら、そこの痴女教皇と並んで土下座して頼めばぁ?」


「貴様ァ! 陛下と教皇様に向かってなんて口に聞き方だぁ!」


 香帆の言葉に壁際で控えていた騎士達が過敏に反応し、揃って剣を抜き威嚇してくる。

 剥奪された勇者とはいえ、私相手だとキレるにキレられないから眷属の香帆に怒りの矛先を向けているようだ。

 なんともセコイ連中ね……。


 勿論、香帆が動じるわけがない。

 やるならやるぞっと言わんばかりに鋭い眼光で周囲を睨む。


 さっきよりも鬼気迫る雰囲気ね。


 まぁ、いざとなれば《タイマー》で全員の時間を奪い逃走するまでよ。

 別にフォーリア国にこだわる必要もないし、その気になれば敵対国に亡命してやるわ。

 案外その方が待遇いいかもね。


「おやめなさい! ミオ様達をお呼びしたのは事情を聞くためだけではなく、魔王を討ち倒した功績を称えるためでもあるのですよ! 貴方達こそ場をわきまえなさい!」


 クレア王女の叱責で騎士達は「……失礼しました」と剣を鞘に収める。

 やっぱりいいわね、このお姫様。

 お淑やかそうに見えて、スパッと正してくれるところが気に入ったわ。

 案外、この子が影でフォーリア国を正しく導いているかもね。

 

 って、ちょい待って。

 功績を称えるって言ったわね?


「クレア王女、まさか僕が魔王を斃したという噂を国中に広めたのは貴女ですか?」


「ええ……ミオ様。不躾ながらその通りです。フォーリアを危機からお救いになったのに、正しく評価されず労われないのは可笑しな話ですので」


 そういうことね。

 どうりで王都中の見る目が変わったと思ったわ。

 けど勇者を剥奪された私にそこまでしてくれるなんてね……。

 他はカスだから勝手に野垂れ死ねばいいけど、この王女様だけは裏切れないわ。

 

(……あのお姫様、絶対に美桜にぞっこんだと思うよぉ。だって、ずっと恋している瞳だもん)


 香帆が思念で可笑しなことを言ってくる。


(ちょっとやめてよ、私は女よ)


(今は勇者ミオでしょ? その姿に惚れているんじゃね? あたしから見ても王子様っぽいしぃ)


 ……そうなの?

 なんだか複雑な気分だわ。

 だとしたら私が正体を明かしたら、クレア王女ブッ飛んじゃいそうね。

 嫌われない程度に距離を置かないと駄目だわ。


「クレア王女のご配慮にとても感謝いたします」


「いえミオ様……嬉しいです」


 彼女は頬をピンク色に染めて俯いている。

 あっ、これガチね。朴念仁でもわかる反応だわ。


「では我が娘クレアに免じて教えろ、ミオ」


「お断りします、陛下」


 どさくさにすっとぼけてるわね、ヨハイン国王。

 あんた、私の「ブン殴ってやりたい奴ランキング」第三位だからね!


『え? 美桜さん……第一位はセラニア教皇だとして、第二位は誰ですか?』


(あんたに決まっているじゃあい、アイリス)


『はぁ、嘘でしょ!? なんでわたしが二位なんですか!? こんなに献身的で尽くしているのにあんまりじゃないですかぁぁぁ!!!?』


 あんたがヘマして私が異世界に転移されたこと、もう忘れたの?

 それと大切な真乙を巻き込もうとした罪も含まれているんだからね!


「まぁ、もういいじゃありませんか陛下。ミオ様にもご事情がございますし、それ以上言及される責務もないでしょう。ですがミオ様、今夜は城内で魔王を斃した祝賀会の凱旋パーティーを行うこととなっております。そちらの方には是非ご出席くださいませ。ご参加頂ければ、明日の朝に国からの報奨金もご用意させて頂きますので」


 ぶっちゃけ面倒くさいわ。

 けどクレア王女のお願いとあれば無下に断るわけにもいかない。

 それに報奨金とやらも魅力的ね。


 ある意味、魔窟で一晩過ごすのは嫌だけど仕方ない。


「わかりました。クレア王女のご希望とあれば是非に」


「ありがとうございます、ミオ様……嬉しいです」


「おい、なんだ? このピンク色オーラは? ミオ、おまっ……クレアに血迷ったことしたら拷問じゃすまないからな!」


 バカ国王が。女子の私に何ができるってのよ。

 どうせ自暴自棄になるなら、真っ先にあんたとセラニアを暗殺して完全犯罪を成し遂げてやるわ。


『……美桜さん、ますますエグさが目立っていますよ。思考だけなら完全に闇堕ちしていますよ? わたし、このままついて行っても大丈夫なんですよね? ね?』


 アイリスが妙な心配をしてくる。

 とっとと『災厄周期シーズン』を終わらせて現実世界に戻ることが目的なんだから、闇堕ちするわけないでしょ?



 それから間もなくして『凱旋パーティー』が開催された。

 煌びやかな社交場に、多くの貴族達が正装姿で集まっている。

 私と香帆はゲストとして招かれたにもかかわらず、何故か別々の離れた席へと案内されてしまう。



「――え~っ、この度はお日柄もよく。こうして魔王の脅威も去り、聖光国フォーリアは守られたわけでありまして、これも一重に国を支える皆の尽力の賜物というかなんというか……人生には大切な五つの袋というのがありまして――」


 ヨハイン国王によるぐたぐたのスピーチ。

 つーより、なんだか結婚式で話すネタっぽいわね。

 異世界で例えられる「五つの袋」の内容が気になるわ。


 それはそうと、


(どうしてこいつらと同じ席なのよ!)


 私が座る円卓には、ハルデ、トック、マーボ、コウキの四バカ勇者が並んでいる。

 奴らもまた自分の眷属達と離されて座らされたようで、どいつも複雑な表情を浮かべ視線を逸らしていた。 

 この円卓だけ、シュールで何とも言えない微妙な空気が流れている。


「――以上の五つの袋を大切にしてほしい。ちなみに余も昔は凄かったんだぞ。何が凄いのかは下ネタになるからここでは言えぬが、どうしても聞きたい者は後で」


 あまりにも気まずさに「五つの袋」の内容を聞きそびれたわ。

 それよりまだスピーチ終わらないの?

 ヨハイン国王、さらにどうでもいい内容を喋り始めているんですけど……下手な校長の朝礼より最悪だわ。


『いい機会じゃありませんか? ここは「勇者ミオ」として他の勇者と交流を深めてみてはいかがですか?』


(……アイリス、私が最も嫌うこと言わないでよ! どうして私が率先してそんな真似しなきゃいけないの? 私がやらなきゃいけない理由とかあるの? それやって私に何かメリットあるの? 強制される意味は? そういうデータとかあるんですか? それ駄女神である貴女の感想ですよね?) 


『うっざぁ! どっかのインフルエンサーの論破王ですか!? そんな斜め上から早口でワーワー言わないでください! もういいです! 親切に提案した、わたしがバカでした! あと駄女神じゃありませんからね!』



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