第23話 チート戦闘

「――行くわよ、《タイマー》!」


 私はプラチナソードを地面に突き立て、その一帯にある全ての時間を奪う。

 ミノタウロス10匹に加え、逃げ惑う20名ほどの村人達を含めてだ。

 そうすることで停止効果が連動し、より多くの時間を奪取することができる。


 対象となるミノタウロスと村人達の頭に時計の文字盤が浮かび、秒針が動き始めた。

 この者達は300秒こと5分間、時間を停止し身動き一つ取れない状態であることを意味する。

 それこそが私のユニークスキル、タイマーの真骨頂だ。


「やっぱチートだねぇ……まぁいいや! 5分もあれば色々とスキルも試せるしぃ!」


 香帆は技能スキル《集中状態》となり、弓矢でミノタウロス2匹の頭部を射抜く。

さらに《瞬足》スキルを発動し、一気にミノタウロスと距離を詰める。

 新武装である『弦月の大鎌クレセントサイズ』を振りかざし、《疾風斬り》でミノタウロス3匹の首を刎ねた。


 時を停止した状態とはいえ、格上のモンスター5匹を瞬殺するなんて凄いわ。

 癖のある大鎌も器用に使いこなしているし……てか《タイマー》は不要だったかしら?


 私も《瞬足》で距離を縮め、残りのミノタウロスとの距離を縮める。

 新しく習得した魔法 《陽光増強シャインブースト》で攻撃力を高め、同じく習得した《快進撃》でクリティカルヒットを発生しやすくした。

 さらに《タイマー》の効果もあり、その発生確率は爆上がりする。


 ほぼ一撃で一回り以上のレベルを持つミノタウロス5匹を屠った。


「魔法は詠唱が必要だから、本来なら技能スキルとのコンボには不向きね。けど奪った時間内だと関係ないわ」


『……まだレベル21の二人が、レベル30以上もあるモンスター10匹を瞬殺ですか。戦闘の駆け引きもあったもんじゃありません、まったく……』


 私達の戦いにアイリスは不満も漏らしている。

 いいのよ勝てば。経験値も貰えるしね。


 5分経過し、時が動き出した。


 斃した10匹のミノタウロス達は消滅し、菫青色アオハライトに輝く『魔核石コア』だけが地面に転がっている。

 停止した村人達も動き出し、いつの間にかモンスターが消えたことに誰もが首を傾げていた。


 私と香帆は何食わぬ顔で『魔核石コア』を回収する。

 中級のモンスターだけあり、その辺の雑魚よりも大きいサイズ。

 換金が楽しみだわ。


「あの……勇者様達がミノタウロスを斃したのですか?」


 村人が話かけてきた。


「ええ、まぁ。そうですが何か?」


「い、いえ、助けて頂きありがとうございます」


 村人の一人が頭を下げて見せると、他の者達も続き次々と感謝の言葉を述べ始める。


「勇者として当然のことをしたまでです。皆さん、怪我がなくて良かった」


 私はマニュアルに沿ったように言葉を選び、爽やかに微笑んで見せた。

 内心では「あんた達のおかげで長く時を奪えたし色々なスキルも試せたから、これでチャラにしてあげるわ」と思っている。


 その言葉に村人達は「おお~っ、これぞ勇者だ」とか「噂なんて嘘っぱちだな」とか「誤解してすみませんでした」など、いい感じで捉えてくれる。


(フン、どいつも現金なもんね。でもまぁ、これでこの村で後ろ指をさされなくて済みそうだわ……けど、あんた達の口から放った言葉の数々は一生忘れないからね! 庶民共がぁぁぁ!!!)


『美桜さんあーた、そんなエセ爽やかな笑顔の裏で、なんて陰湿で執念深いのでしょう……もう下手な魔王より「負の念」に満ち溢れているじゃありませんか?』


(それが美桜だよん。えへへへ……ガチで惚れてしまうわぁ)


 好きに言えばいいわ。

 執念深さこそが私のアイデンティティであり生きる糧よ。



「勇者様、村を救って頂きありがとうございます!」


 それから宿に戻ると、村長のノルマ―と自警団の面々が訪れお礼を言ってきた。

 

「いえ、あくまで降りかかる火の粉を払っただけです。原因がはっきりするまで調査を続けて行きます」


 きっと近くに潜伏する魔王の影響であるのは明白だ。

 でなければ、こんな辺境の村にミノタウロスが10匹も同時に現れるなんて不自然だからね。


 私の言葉に、村長達は「おおっ!」と歓喜の声を上げる。


「これぞまさしく勇者の鏡ッ! 我らトッポ村を上げて改めて歓迎いたしますぞ! 今日は宴を開きますので、是非にご参加をお願いします!」


 急にウェルカムモードになったノルマ―。

 彼に直接何かされたわけじゃないけど、心変わりの速さに私は軽くドン引く。


(こういうテンションは苦手。面倒くさいわ……)


(わかるぅ。あたしも超苦手ぇ、ねぇバックレちゃお?)


『二人とも何を仰っているんですか!? あれだけ遠ざけられていた村人達から、せっかくの善意とお誘いですよ! 貴女達は仮にも日本人なのですから、おもてなしは受けるべきです!』


 アイリスが何かウザいことを言ってきた。

 その善意とやらが胡散臭いと言っているのよ。


 しかしまぁ、ここは民衆を味方につけておいて損はないわ。

 愚民でも世の中は所詮ウケたもん勝ちだからね。

 せっかく評判が上がっているなら尚更ってところかしら。


 私は了承し、香帆を連れて宴会に参加することにした。

 夕暮れとなり広場にて宴会が始まる。

 沢山のご馳走が並べられ、村人達が陽気に歌い踊り始めた。

 達観的に眺めていると楽しそうで悪くない気分だ。


 しかし何故か、ここぞとばかりに若い女子達が私に寄り添われ、いつの間にか囲まれてしまう。

 香帆が思念で(みんな美桜のこと、美少年勇者で見えているからねん。噂も払拭されて、ここぞとばかりにアプローチされてんじゃね?)と言ってきた。

 迷惑ね。これなら誤解されたままの方が動きやすいわ。

 てか私も女子だし。


 そんな中だ。


「おっ? 何この騒ぎ? ひょっとして勇者様一行が来たんで歓迎してくれているわけ?」


 チャラそうな男の声が響く。

 あの生理的にウザい口調は間違いない。


「ハルデくんの言う通りだねぇ! オイラ達、この国を支える勇者だもんねぇ!」


「勇者祭りとは良い心がけだわい! どれ神輿でも担ぐとしようかぁ、ええ!」


「……脳筋が。異世界に神輿なんてあるわけないだろ? ブツブツ」


 ハルデ、トック、マーボ、コウキの四バカ勇者。

 各自、召喚時の制服姿ではなく、国王が手配した防具を装備している。

 奴らの背後には、それぞれに付き従う総勢30名のパーティこと『眷属』達が歩いていた。

 

「これは冒険者様、どちら様で?」


 不意に現れた集団に、ノルマ―と自警団が近づき話かけている。


「俺ら冒険者じゃねぇ、フォーリア王国の勇者様だぜぇ。辺境の村だって噂くらい聞いてんじゃね?」


 戦闘に立つハルデが言うと、後方に控えていた魔法士ソーサラー風の女眷属が国王からの依頼書を見せてきた。


「おお、貴方様方がお噂の……これは失礼いたしました。それでこの村に何の御用で?」


「近くに魔王がいるって言うからよぉ、いっちょシバキに来たってわけよ~ん」


 品と威厳の欠片もなく、ハルデは説明している。


 ちょっとぉ、説明役の勇者を間違えてんじゃないの?

 あっでも、どいつが喋っても一緒だわ。


 まったく、こいつらと同じ勇者である私の方が恥ずかしくなるじゃない。

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