第22話 調査と敵の襲来
『はぁはぁはぁ……死ぬかと思ったです。糞ギャルエルフにもムカつきましたが、一番は率先して進めやがったエグすぎる極悪の女勇者ですぅ』
「悪かったわ、アイリス。けど実体がないんだから、そもそも食べられたりしないでしょ?」
『それでも迫られる恐怖はあります! VR並みの臨場感なんですからね!』
なんで女神の癖にVRとか知っているのよ?
逆にあんたのそういうところが気になるわ。
「お前、賢くないけどいい子だねぇ。あたし気に入ったわぁ、せっかくだから名前つけてあげるぅ。そっだなぁ……アイリスとワイバーンの間と取って、『アイバン』ってどう?」
『どうってなんですか!? この糞ギャルエルフぅ! どうしてアホのワイバーンに私の名前を拝借するんですか!? 著作権で訴えてやりますよぉぉぉ!』
女神が誰に訴えるのよ。
それにあんたの名前に著作権なんてないでしょ?
香帆はそんなクレームなど一切動じず、命名した「アイバン」の鼻筋を優しく撫でている。
アイバンも懐いたのか気持ちよさそうに「グルルル」と喉を鳴らしていた。
「――おおっ。貴方がギルドの依頼で来てくれた、エロ……ごほん、勇者様ですね?」
口髭を蓄えた恰幅の良い中年男が複数の村人達を引き連れて近づいてくる。
見た目と言動からして依頼してきた村長だろうか。
ところで今、エロ勇者って言おうとしたわね?
「そうですが、貴方は?」
「失礼、私はノルマーと申します。ここトッポ村の村長を務めております」
「僕はミオ、この者はファロスリエンです。仰る通り、ギルドの依頼を受けて馳せ参じました」
こちらも礼節として自己紹介と頭を下げて見せる。
香帆も無言で会釈のみして見せた。
彼女の場合は戦闘服の襟を伸ばしマスク状で鼻と口元を覆いつつ、頭には深々とフードを被った素顔を隠した状態だ。
おかげで村人達には女子と言う以外は、ハイエルフということすら気づかないだろう。
「これはご丁寧に……お噂とは異なり紳士的なお方で安心いたしました」
まったく迷惑ね……こんな辺境の田舎村まで悪評が広まっているなんて。
きっとフォーリア領土中に浸透しているんだわ……本当ムカつく!
私はキレるわけにもいかず愛想笑いを浮かべるしか術はない。
「ははは……それでノルマ―村長、クエスト内容の確認ですが、最近この村で頻繁に強いモンスターが出没するようになったとか?」
「ええ、そうです。これまではせいぜいゴブリンが洞窟で住み着く程度で、私達だけで対応の使用があったのですが……つい先日には、ミノタウロスまで現れる始末でして次第に手に負えない事態に発展しつつあります。勇者様には是非、原因を探って頂きできれば対処して頂きたいのです」
「わかりました。早速、調査いたしましょう。それと長期戦になることも想定していますので、約束通りに私達の寝床と食事の確保、あと私のワイバーンを預かってほしいのですが?」
「はい、勿論です。それではまずご案内いたしますので、どうぞこちらへ」
私達は村長の案内で少し離れた場所で、ぽつんと建っている一軒の空き家へと案内される。
古びた外観の割に室内は整備されており、それなりの清潔感が確保されていた。
庭も広く馬小屋もあり、そこにアイバンを収納することができる。
「食事は村の者が運びに参ります。ワイバーンは雑食性なので馬と同じ餌でも問題ないでしょう」
「助かります。準備を終えたら、すぐに仕事に取り掛かります」
私の返答に、ノルマーはニコッと笑い「ではお願いいたします、勇者様」と告げて退出した。
一室には香帆とアイリスだけとなる。
信頼できる仲間しか居ないことを確認し、私は深く溜息を吐いた。
「……ふぅ、食えない村長ね」
「そぉ? 至れり尽くせりでいいんじゃね?」
『不本意ですがギャルエルフの言う通りです。こんな待遇よく親切にして頂いているじゃないですか?』
「親切? これのどこがよ。私達と距離を置こうとしているのは見え見えだわ。こうして隔離されていることが何よりじゃない? はっきり言って幽閉されているのと変わらないわ……辛うじてニーズに応えているのはギルドが仲介に入っていることと、剥奪されたとはいえ私が勇者であるという期待感からでしょうね」
「別にいいんじゃね? 美桜だって村人とそんな親睦深めるつもりなんてないしょ? あたしもねーし」
「……それもそうね。香帆が傍に居てくれると頼もしくて安心だわ」
「えへへへ、あたしは美桜の味方だよん。あたしが背中を守ってあげるからねぇ」
『わぁ、わたしだって美桜さんの背中を守って差し上げますよーだ!』
「いや、アイリス……気持ちは嬉しいけど、あんた実体がないじゃない? 物理的に不可能よ」
けどまぁ、居ると居ないで違うのも確かね。
なんだかんだ役に立っているし……駄女神だけど。
装備を整え、私と香帆は外に出た。
まずはクエストの調査をするため、村全体を探索することにする。
それから近くに潜伏する魔王を探していく算段だ。
しかし歩いていると、辺境の村でも私は白い目で見られている。
「あの人が噂の勇者様か……聖女様に淫行を働いたと言う」
「けど凄く美男子ね。とてもそんな風なお方には見えないわ」
「やめておけ。猟奇的な奴に限って見栄えがいいのは定番だろ? とって食われちまうぞ」
相変わらず言いたい放題ね。
憤りを超えたのか次第に罵倒も慣れてきたわ。
「ちょい美桜。あいつら全員、腹パンしてく?」
「やめなさい。村人達はあくまで風評に振り回されているだけよ。どうせなら最もムカつく奴にやってよね」
そう。
私を陥れた痴女教皇のセラニア。
この女だけは絶対に許さない。
ハズレ勇者と罵り、ぞんざいに扱ったヨハイン国王や四バカ勇者達よりもね。
「だけどありがと、香帆。そう思ってくれる気持ちは嬉しいわ」
「言ったしょ~、あたしは美桜の味方だってねん」
ふわふわの軽い口振りだけど、強い思いはしっかりと伝わる。
彼女が仲間になってくれて本当に良かった。
双眸を細めてマスク越しで笑って見せる相棒に、私はフッと微笑んだ。
そんな時だ。
「――大変だ! またミノタウロスが現れたぞぉぉぉ!!!」
突如、村人達が騒ぎ始めた。
どうやら話に聞いたモンスターが現れたようだ。
私と香帆は急いで現場へと駆けつける。
すると闘牛の頭部を持つ隆々とした巨漢のミノタウロスが大剣を掲げ、悠然とした態度で村中を彷徨っていた。
しかも10匹と数が多い。
《鑑定眼》で調べたら、どいつもレベル30はある。
明らかに私達よりも格上のモンスター達だ。
「やたら数多くね? せいぜい1匹だと思ってたのにどうなってんの?」
香帆の言う通りだ。
主にミノタウロスはダンジョンに潜伏し、初級冒険者にとってボス格とされるモンスターである。
まさかこんな辺境の村に現れるなんて……おまけに10匹も同時に現れることはあり得ない。
決して野良のモンスターではない筈だ。
「――やはり魔王が近くにいるんだわ! こいつらは村を占拠するために放たれた言わば刺客、あるいはフォーリア王都を侵攻するために用意した試験的な兵士かもしれない!」
どの道、戦うしか選択肢がないようね!
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